攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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かつてからこれからへ

「依頼自体はメールにて行い、二人の快諾も得てはいたのだがな。ある日、いいタイミングでアンジェリーナとランレイに直接、接触できる機会をワタシは得た」

「こないだの説明会と祝勝会か」

 

 ヴァールはうむ、と頷いた。先日の祝勝会の折、たしかにヴァールとアンジェさんとランレイさんは同じ時間、同じ場所にいた。直接会うタイミングとしては、まさしく絶好だろう。

 しかし、俺が呑気にはー、全部終わったー。なんて肩の荷を下ろしまくってたタイミングで、ヴァールはいろいろと動いてたんだな。さすが統括理事というべき手際のよさだ。

 

「好都合な条件の揃ったいい機会だ。一度くらいは直接会って説明しておこうとあの日、そのへんの話をしようと思ったのだが……マリアベールからストップがかかってな」

「お婆ちゃんから?」

「うむ。改めて依頼する前に、二人の実力は見ておいたほうがいい、というアドバイスをされたのだ」

「なるほど、それでここにいるのか……」

 

 あの祝勝会の時に、そんな話してたなんてなあ。ヴァールさんもマリーさんも、無駄のない動きをするというかなんというか。

 アンジェさんとランレイさんの実力をたしかめるってのは、そういう意味があったんだな。なんかこう勝手に、上役っぽく期待の若手の様子を見てやろう的なあれかと思ってたわ。

 

「むー。お婆ちゃん、さては私らの腕を信用してないわね」

「アンジェリーナ?」

「だってそうでしょ香苗? もう依頼は受けてるのに、わざわざ実力を測れってさ。これでお眼鏡にかなわなかったら追加で他の捜査官に依頼するとかまで考えてたよきっと」

 

 一方で頬を膨らませて拗ねたように呟くのはアンジェさんだ。裏で祖母のマリーさんが、まるで疑るかのようにヴァールに確認を促したのが気に入らないみたいだ。

 うん……我が身に置き換えると信用されてないみたいで嫌だよねそれは。あの人なりに孫を心配してのものだとは思うけど、当人からすれば立派にA級なのにって思うのは当たり前だ。

 

 俺としても、アンジェさんとランレイさんの実力を知った今なら心配しすぎだって言うと思う。

 お二人は間違いなく実力者だし、なんなら今、迎えているという壁を超えた時にはいよいよS級だって視野に入ってくるんじゃないかな? って思うほどだ。

 

 っていうかランレイさんのほうはもう、その域に近いところまで来ているし。立ち回り次第では普通に香苗さんとも互角にやり合えるんじゃないのか。

 不服そうなアンジェさんを、あわあわと宥める彼女を見ながらそう思う俺だ。

 

「アンジェちゃん、お、落ち着こう? マリアベールさんはそんなこと思ってないよ、きっと……」

「信用してないわけではないさ、アンジェリーナ。ワタシもマリアベールも、そしてWSOもお前たち二人ならば依頼を遂行できるものと見込んで依頼したのだからな」

「……そう、なんです?」

「歳を取るとな。どうしたところで、考え方は守りに入るものなのだ」

 

 釈明のように、肩をすくめて言うヴァール。穏やかとも、苦々しくともとれる程度に口角をあげて笑う。

 

「お前たちが軽いスランプというか、壁にぶつかっていると知り、あの子なりに手助けがしたかったのだろう。首都に行く前に、確認を込みで少しでもアドバイスしてやってくれと頼まれたのだ」

「なら、お婆ちゃんも来ればいいのに」

「先の最終決戦を期に、マリアベールは完全に引退したよ。実際の手続きこそまだ処理中だが、本人自体はすでに探査者ではないという認識でいる。ワタシも、そうさせてやりたいしな」

「え……ヴァール?」

「人生最高の一撃を放ち、それを以てS級探査者マリアベール・フランソワの探査者としての使命は終わった。これ以上なく綺麗な幕引きだろう。野暮な後付は、彼女に悪い」

 

 たしかに、と。あの場に居合わせた俺とリーベは顔を見合わせて頷いた。

 三界機構・魔天を見事、殺しきってみせたマリーさんの一撃。彼女が初めて得たスキルで挑んだ最後の戦いで放った、究極の大断刀。

 あれより綺麗な終わりはない。そう確信を持つ。

 

 あれこそはマリアベール・フランソワの83年の人生、70年のキャリア、そしてその間に培ってきたすべてを込めた戦い。長い旅の一区切りなんだ。

 あれほど綺麗な幕引きならば、跡を濁すような真似はさせたくないし見たくない。そうヴァールが気を遣うのは、俺たちにはよく理解できた。

 

「それゆえのワタシの同行なのだ。アンジェリーナ、ランレイ、気を悪くさせたなら申しわけなく思う。この場にいないマリアベールの分まで謝罪しよう。済まない」

「あ、謝るなんていいですよ! こちらこそ、なんか……子どもみたいでした、ごめんなさい」

「わ、わ、私は別に……未熟なのはそうですしっ」

「それでも、すまんな。それと、ワタシから見てもお前たちは大した実力だよ。そこは明言しておく」

 

 謝罪を重ねつつも、ヴァールは二人をたしかに認める。彼女から見ても、この若きA級探査者たちの実力は、大変に素晴らしいものだと思えたわけだな。

 優しい眼差し。見た目が一緒だからかどこか、ソフィアさんをも彷彿とさせるその表情は、これまでに何人もの探査者たちを見守り、支えてきたWSOの統括理事としての慈愛があるように、俺には見えた。

 

「自信を持て。たとえ一時、壁にぶつかっていてもそれはお前たちの実力不足を意味しているわけではないのだから。お前たちになら、依頼を任せられるよ」

「ヴァールさん……! ありがとうございます、必ず依頼は遂行します!」

「は、はいっ! アンジェちゃんと一緒に、精一杯戦い抜きます!!」

「任せたぞ、アンジェリーナ・フランソワ。シェン・ランレイ」

 

 決意とともに頷く二人の若者。

 ヴァールやマリーさんからお二人へと、かつてから、これからへと。たしかに受け継がれていくものがあるんだと、俺にはそう思える光景だった。

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