攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
事前に話していたとおり、ベリアルダンデライオンの相手はヴァールが行うこととなった。部屋に入り、向き直る彼女。
ランレイさんが、あわわはわわと息を震わせて心配を口にしていた。
「だ、だだ大丈夫でしょうか? 特定有害モンスターに、たった一人でなんてぇ」
「んー、たしかに。ヴァールさんの戦うところを見たことないし、ちょっと不安にはなるわよねー」
不安げなその言葉に、アンジェさんも同意する。ヴァール一人でいいのか? という点については、まあ抱いて当然の疑問ではある。
どう見ても戦闘向けの見た目はしてないし、プロテクターとかの防護服でもない私服そのままだし、何よりWSOの重役ということで、とっくの昔に前線を退いている。今をときめく若い人が心配するのはわかる話だ。
ただ、まあ。
俺、リーベ、香苗さんはヴァールの実力を知っているし、見たことも何度かあるからね。何ら心配いらないと、お二人に話しかけていく。
「大丈夫ですよアンジェさん、ランレイさん。ヴァールはまだまだ全然、現役さながらです」
「仮にも精霊知能ですしー、あんなのに負けるわけありませんよー!」
「心配せず、見ていましょう。WSO創始者、大ダンジョン時代の始めから終わりまで見てきた方の戦いぶりは、勉強になるものですよ」
「そ、そう……?」
半信半疑ながら、それでも俺たちの太鼓判に幾分かは肩の力を抜いたみたいだ。いつでも加勢できるように態勢を整えたまま、アンジェさんとランレイさんはヴァールを見守る。
そんなやり取りを聞いていた当の本人は、何やら苦笑いしているな。
「ハードルを上げてくれる……やることはやるが、若者たちの参考になるほどのことなど、してやれそうもないのだがな」
「精霊知能の戦いぶり、見せてくださいよー!」
「後釜め、お前こそ戦えと言いたくなる。《鎖法》」
リーベの適当なエールに愚痴りながらも、彼女はスキルを発動した。同時にその右腕に、鎖が巻き付かれて顕現する。
《鎖法》。ヴァールの持つ攻撃スキルで、両手から鎖を具現化して相手を縛ったり叩いたり貫いたりする能力だ。リンちゃん戦とアルマの端末戦に続いて、見るのはこれで三度目になるな。
「《鎖法》? え、鎖なんてあの人隠してたの?」
「わ、わ、わかんなかった……」
どこからともなく現れた鎖を、隠し持っていたものと誤認して驚くアンジェさんにランレイさん。そもそも《鎖法》についての知識もない様子だが、そりゃそうだろうなと思う。
というのも、実はあのスキルってヴァール専用の一点物スキルなのよね……それもワールドプロセッサが手ずから創り上げてヴァールに渡した、ある意味アドミニストレータ用スキルよりレアな代物だ。
香苗さんに話しかける。
「世に広くスキルはありますが、そもそも武器から用意してくれるなんて、あの《鎖法》くらいなもんでしょうね」
「そうですね。フェイリンさんの戦いで初めて見た時、ベナウィさんともども驚いたのは記憶に新しいですよ……あのようなスキルは、見たことも聞いたこともない」
そう言えばリンちゃんがヴァールと戦った時、香苗さんもベナウィさんもなんだこりゃ? ってなってたな。つい一月半前くらいの話なんだが、ずいぶん懐かしく感じる。
あれからいろいろ、あったもんなあ。思わず遠い目で懐かしんでいると、その間にヴァールは状況を開始していた。
「さて、人型でないモノを相手するのはどれくらいぶりか……鈍ってなければいいがな。《鎖法》、鉄鎖乱舞」
ぼやきながらも右腕から、無数の鎖を放つ。乱舞と名付くとおり、彼女の前方へ不規則に、かつ放射状にうねるような軌道だ。
しかも鎖一本一本が太く、凄まじい勢いで飛び出していくので、普通のモンスターであれば掠っただけでもひとたまりもないだろう。
ベリアルダンデライオンの毒々しい花から茎から葉に至るまで、それら鎖が直撃する。モンスターなだけはあり表面に傷一つなく、ヒットする先から弾き返していく強靭な表皮を持つようだが……
「地面に根を張る以上、動けまい……《鎖法》、鉄鎖収束」
関係ないとばかりに、ヴァールの追撃が行われた。弾かれたものも含めて、モンスターの周囲にばらまかれた鎖が一斉に動きを変えて生き物のように群れをなす。
一息に無数の鎖が、ベリアルダンデライオンへと先端から突っ込んだ! 鎖で毛糸玉を作るように、まさしく収束していく。
金属が激しく擦れ合う轟音。不快なオーケストラが部屋内に響くのを、俺たちは耳を抑えて耐えていた。
「す、すごい……ヴァールさん、こんなスキルを使うなんて!」
「この金属音だけがネックですね。あとは汎用性も威力も範囲も申し分ない」
アンジェさんにしろ香苗さんにしろ、あるいはランレイさんもだが、スキル《鎖法》の有用性を即座に評価しているみたいだ。
そもそも武器からスキル側で用意してくれる利便性の時点で大したものなんだけど、たぶんあれ、使用者の思念でコントロールしてるしな。
まさしく自由自在に操れるってところも、魅力的なスキルと言えた。
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