攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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罪業の鎖

 降り注いだ鎖が多数、ベリアルダンデライオンを中心として周囲を埋め尽くしていた。少しばかり竹林を彷彿とさせる、そんな光景。

 わずかな沈黙の漂う中、ヴァールは小さく呟いた。

 

「む……手応えはあったが、仕留めるまでには至らんか。厄介だな」

 

 渋い顔をして見据える先の、モンスターの気配は未だに健在だ。すなわち今しがたの猛攻にも耐え、敵は生き長らえているということで。

 こちらに向けてのアクションを取ってくるのは、当然のことと言えた。

 

「鎖が……溶けていきますよー!?」

 

 リーベの驚愕の声。見れば束になって見える鉄鎖のある部分が、急速に変色して溶けていっている。中に覗くのはベリアルダンデライオンの禍々しい毒色の花弁だ。

 名前どおりのタンポポっぽい形状なんだが、中心にあるいわゆる雌しべの部分がホースみたいになっていて、そこからはこれまた危険な色合いの紫の液が、勢いよく噴き出している。

 

 察するに、ランレイさんがさっき言っていた人をも溶かす猛毒の消化液ってのはあれのことだな。いや、人っていうか鉄すら溶かしてるじゃん怖ぁ……

 今だって、垂らした消化液が鉄に触れた途端、異常な勢いで変色と溶解を繰り返している。さっきの鉄鎖の猛攻を凌いだのもこれだな? 自分の頭上に降り注ぐ鉄鎖のみ、消化液で溶かしてガードしたのか。

 

「溶かしきれずにいくらか花弁をこそぎ落とされてるみたいですけど、あれだけの勢いに耐えきるのはヤバいですね」

「ベリアルダンデライオンの恐ろしさは偏に、あの消化液にあるわね。近接戦闘者にとっては下手すると、モンスターの中でも五本の指に入るくらい、相手したくない化物じゃないかしら」

「あ、あああんなのに蹴り入れたら死んじゃうよぉ……っ」

 

 ともに近接戦のプロフェッショナルと言えるアンジェさんとランレイさんが、難しい顔をして語る。たしかに、あんなのに距離を詰めて攻撃しろ、なんて死にに行けと言ってるのも同然だ。

 鉄が溶けるスピードから考えても、あれが人体に付着した場合、即座にそこを起点に身体が溶け落ちるのは間違いない。毒物というより劇物に分類される液体だとは思うが、あの強力さでは水で洗ったりする暇もないのだろう。

 香苗さんが、厳しい顔をして語った。

 

「あの手の液体を放ち、敵対者を攻撃するのは植物系モンスターに多く見られますが……それにしても凶悪さが桁違いですね。特定有害指定を受けるのも頷けます」

「要するに探査者数人では無理なくらいヤバいから、みんなで集まって倒そう! って指定だものね。あれは無理だわ、少なくとも私やランレイだと仕留めきれない」

「ちなみにミッチーなら一人で攻略できるんですー?」

「問題ありません。《光魔導》は遠距離特化ですからね。もっともS級ともなれば、近接戦でもあの程度は倒してしまう者もいるかもしれませんが」

「マリーさんとかなら、やれちゃいそうですよね……」

 

 思い出すのは、三界機構相手に縦横無尽に暴れ倒したマリーさんだ。

 天地開闢結界もなく、力の大部分をアルマ本体に奪われていてもなお、あの三体の異世界はS級モンスターすらゆうに凌ぐまさしく怪物だからな。

 

 それを刀一本で斬り伏せたあの人やそれに匹敵するだろうS級探査者であれば、今、ヴァールが相対しているベリアルダンデライオンでも問題なく、真正面からの近接戦闘で下せるはずだ。

 ……今更だけど人間すごいな。スキルとレベルと称号ありきだけど、そこまで強くなれちゃうものなんだ。本来の、そうしたものがない世界では絶対にありえない存在だっていうのに。

 

「やれやれ。ワタシではそう、スマートにはやれんか。わかっていたが、改めてソフィアたちの凄まじさを思い知らされる」

 

 と、ヴァールが苦笑した。肩をすくめ、どこか嬉しそうにも懐かしそうにも、悔しそうにもしている。

 口振りからして、かつて担当してきたアドミニストレータたちに、自分を重ねているんだろう。今となっては自分こそが、彼らの姿を引き継ぐ最後の者だと思っているのかもな。

 

 しかしわずかの間だ。気を取り直してか、再び敵を睨みつけた。多少のダメージは負わせたが敵は健在、ならばと彼女は、戦意をさらに高めていく。

 

「ここからはアドミニストレータ流ではない、ワタシ流でいかせてもらおう。精霊知能ヴァールが150年の時とともに構築した、本来の《鎖法》を受けてみるがいい!」

 

 叫ぶと同時に、ヴァールは横に飛び退いた。ベリアルダンデライオンの雌しべから放たれた、鉄をも溶かす消化液を避けたのだ。

 とてつもない水圧で放たれた液が、地面を抉りつける。溶解力とかそれ以前の話だ、こんなもん普通の水でも喰らえばひとたまりもない!

 

「ヴァール!」

「案ずるな山形公平! よく見ていろ、これがワタシの、ソフィアを護るための力だっ!!」

 

 思わず名前を呼んだ俺に、力強くもそう応えて。

 精霊知能ヴァールは返す刀で、渾身の勢いで左腕をつきだした。

 

「《鎖法》──ギルティチェイン! さあ、貫けいっ!!」

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