攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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いつの世も、バリアは突破されるもの

 左腕から一本の、極めて大きいサイズの鎖が真っ直ぐに敵へと向かう。

 《鎖法》ギルティチェイン。リンちゃんとの戦いの時にもアルマ端末との戦いでも見せた、おそらくはヴァール最大最強の技だな。

 

 ベリアルダンデライオンの消化液の水流以上の勢いと激しさ、スピード。やつの攻撃を回避しつつカウンターを合わせた形になるので、うまく行けば無防備なところを突ける。

 そんな塩梅のタイミングだった。

 

「! 見てくださいあのタンポポ、消化液を上に!?」

「消化液を、噴水のように……! 防御用に、転換した!」

 

 しかしながらリーベが叫び、俺は敵を見た。

 やつもただ黙ってそれを受け止めるわけでもない。放っていた消化液の雌しべを、その毒々しい花弁ごと器用にも天井へと向けたのである。もちろん、液は放出したままに。

 

 当然、この世には重力という理があるのだから、真上に放たれた消化液はある地点から上昇から下降へ転ずる。

 そうしてまさしく公園の噴水のように、ベリアルダンデライオンの周囲を覆う、消化液のドームを形成したのだ。すべては迫る敵の攻撃から、身を護るために。

 

 そうした行動はみごとに、ギルティチェインを防ぐことに成功していた。

 咄嗟の消化液ドームに鎖の先端が触れ、即座に溶けていく。スキルで創った鎖ゆえ、射出している間は勢いも威力も永遠だが、こうなるとヴァールとベリアルダンデライオンの体力勝負となってくるだろう。

 喰らえば勝負がついていたはずのカウンターを放たれてもなお、そこまで持ち込んだ敵の咄嗟の行動に、俺は愕然と呻くほかない。

 

「賢すぎる……本当に植物なんですか、アレ」

「あ、あれはどちらかというとその、習性の一種じゃないかってい、言われて、マス……はい」

「ベリアルダンデライオンについての研究もされてるんだけどね、当然。それによると攻撃後、結構な割合で今みたいな防御行動に出ることが判明しているのよ。反撃のあるなしにかかわらずね」

 

 率直な疑問にランレイさんとアンジェさんが答えてくれた。考えてのものでなく、おそらくは習性──その生態における一連の機能として、あの攻撃と直後の防御という流れがある、というわけか。

 続けて、香苗さんが補足する。

 

「おそらくは生存本能ゆえに獲得したものだろうと、モンスター研究者たちは結論づけています。攻撃後の自身の隙の大きさをカバーするための、攻防一体の機能だと」

「ヴァールはそれを知っていて、それでも鎖を打ち込んだ? 知らないわけないですよね、たぶん」

 

 生きていくための行為というならば頷くほかない。ベリアルダンデライオンの合理性に、モンスターながら感心するばかりだ。

 だがそうなると解せないのはヴァールだ。WSOの統括理事として、いやそれ以前150年を生きた大ダンジョン時代の生き字引、そして精霊知能として。そうした敵の性質について無知なわけがない。

 わざわざ防御してくるとわかっていてなお、大技を発動したその理由とはなんだ? 思い浮かばない俺を、リーベがヴァールから視線を逸らさずに強張った表情のまま、返事してきた。

 

「何か策があるんですよーきっと! 150年も人間社会を生きた精霊知能ですよ、そのくらいは──」

「──悪いが後釜、このヴァールにそんな策はない!」

「ヘァッ!?」

 

 同じ存在たるよしみか、はたまた先輩へのリスペクトか。フォローをしていた彼女を力強く遮る、ヴァール本人の断言。

 いや策ないのかよ!? まさか忘れてたとか、そもそも知らなかったとかないよな、嘘だろ!?

 

 情けない叫びをあげたリーベも、その横で目を白黒させている香苗さんも。口をあんぐり開けたアンジェさんも、ガビ~ン!? みたいな顔をしているランレイさんも。そして俺も。

 この場にいる観客が全員、唖然とする中。ヴァールはなおも、叫び続ける。

 

「要領の悪い質でな! 尊敬すべき歴代アドミニストレータたちの猿真似でもしなければワタシなど、まっすぐ行って殴るくらいのことしかできん!!」

「だ……駄目じゃないですかー!? 馬鹿なんですかあなたはー!?」

「ヴァールさん、加勢します!!」

 

 すごい大声ですごい直情的なことを宣う統括理事さんにビックリだ。リーベはツッコむし、香苗さんは即座に戦闘態勢に移行。アンジェさんとランレイさんのお二人も、続けてそれぞれの技を放とうとしていく。

 だが。それを止めたのもまた、他ならぬヴァールの叫びだった。

 

「要らん!! 言ったぞ、まっすぐ行って殴るだけだと!!」

「!?」

「元よりワタシは策を弄せぬ、ゆえに高めたのは威力、パワーだ!! 見るがいい、これが精霊知能ヴァールのとっておき、切り札だっ!!」

 

 同時に、彼女の右手に、いや右腕に無数の鎖が現出していく。まるで甲冑のように隙間なく蠢き、巻き付き、肉体を覆っていく。

 もはや鎖そのものとも呼べる異形。そんな右腕を、彼女は左手に添えた。

 

「《鎖法》──ギルティチェイン・パニッシュメントォッ!!」

 

 勢いよく叫ぶと同時に、左手に右手の鎖が瞬時に絡まる。

 瞬間。ベリアルダンデライオンへと攻め入るギルティチェインのサイズが、ただでさえ太いのにその倍以上にも膨れ上がり、勢いも段違いに増して。

 

 ──消化液のドームさえぶち抜いて、即座に雌しべも花弁をも貫いていた。




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