攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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新たなるA級トップランカー

 いっそ軽やかなまでに高く、ジェネラルオークの首から上が宙を舞った。

 すでに光の粒子へと変わりつつあるためか、緩やかな軌道を描きながらも空中に輝く鱗粉を撒き散らす。

 

 完全勝利──いや、そもそも勝負にすらなっていなかった。本格的に戦いに入る前からすでに、敵はランレイさんに気圧されていて、普段どおりの動きをできる状態ではなかったように見えたしな。

 なけなしの攻撃も起点を潰され、あっけなく不発。あとはひたすら蹴られ続けるだけの、いわばサンドバッグ状態のまま終わったってのが、この戦闘におけるジェネラルオークへの率直な感想だ。

 

「双魔星界拳ッ天覇ァッ!! シェンッ・ラァァァンレイッ!!」

 

 勝利の名乗りを挙げるランレイさん。流派を新しく創始した双魔星界拳にしたのは、完全に壁を乗り越えたことの証だろうか。

 今しがたの技、双魔星界断絶拳のキレと威力はとんでもなかった。分身と二人がかりで蹴りを放つスタイルこそが双魔星界拳の真髄なんだろうけど、それとは別に彼女自身の吹っ切れた精神性が、動きのよさに繫がっていたようにも思える。

 

「…………ふう。や、や、やった、やったっ。の、乗り越えられた、限界を超えたぁ!!」

「ランレイー!!」

「ぴゃひぃ!?」

 

 戦闘も終わり、いつもの平時のランレイさんに戻るや否や。アンジェさんが感極まった様子で、彼女のもとへと駆けてそのまま、抱きついていった。

 自分より小さな背丈の相手を上から覆い被さるようにして抱きしめる。悲鳴をあげる当人はさておき、アンジェさんは心底嬉しげに、はしゃいだ声音で言う。

 

「すごい! 素敵よランレイー! 双魔星界拳だなんてもう、とんでもないじゃないのよこんなのー!! 完全に超えたわね、あんたの壁っ!!」

「あ、アンジェちゃん……うん、超えたよー。すごい晴れやかな気持ちだよ、今ぁ」

「あははは! でしょうね! かーっ、先を越されちゃったわ! さすが、星界拳のシェン・ランレイねっ!」

「アンジェちゃん……! えへ、えへへぇ!」

 

 ダンジョン内であることを、忘れてしまいそうになるくらい爽やかな笑顔とやり取り。アンジェさんもランレイさんはすっかり、今さっきの勝利よりも壁を乗り越えたことについて喜びを示しているみたいだ。

 俺たちもランレイさんに近づく。やはりというべきか、星界拳そのものに縁が深いヴァールがまず、口火を切った。

 

「しかと見させてもらったぞ、シェン・ランレイ。双魔星界拳……素晴らしい流派を確立したな。見事だ」

「ヴァールさん……! はい、ありがとうございます!」

「いやーまさか《闇魔導》で分身するとはー。星界拳をこれ以上ないほどに活かせるスキルですよランレイさん! さすが、さすが!」

「り、リーベちゃん……ありがとう!」

 

 手放しで褒め称える精霊知能二人。特にヴァールのほうは、星界拳の成り立ちにも深く関わっているからか、ものすごく優しい顔をしている。

 リンちゃんに対してもそうなんだけど、自分が託したものが悲願を果たし、さらにその先へと歩みを進めたってのが特に嬉しいんだろう。なんだかんだと情が深いからな、彼女は。

 

「素晴らしいものを見せてもらいました、ランレイさん」

「! 御堂香苗……」

 

 そして。ランレイさんがライバル視する香苗さんがやってきた。ビクッと震える後進の肩に手を置き、優しく語りかけていく。

 

「《闇魔導》というのは驚きましたが……リーベちゃんの言うとおり、あなたという探査者、星界拳士をこれ以上なく活かしてくれるスキルでしょうね」

「あ……あ、私。私……」

「長らく壁にぶつかり続けた、そんな苦しみさえも乗り越えたあなたは立派です。A級トップランカー……任せますよ、シェン・ランレイ」

「…………はいっ!!」

 

 香苗さんが昇級した後に空く、A級トップランカーという頂点。S級探査者が基本、滅多なことでは表舞台に上がらないのを考えると、世間一般においては実質、探査者の頂点とも呼べる知名度の立ち位置だ。

 そこに永年君臨していた香苗さんが、名指しでランレイさんを指名した。あなたならやれると。あなたなら、A級の頂点に到達できると。

 一つのバトンタッチが今、なされたのだ。

 

 渡されたバトンに、力強くも頷くランレイさん。その瞳からは涙が流れつつも、けれど香苗さんをまっすぐに見据えている。

 アンジェさんが、明るい声音で言った。

 

「ふふふ! ランレイ、ずっと香苗に憧れてたものね」

「あ、やっぱりそうなんですか?」

「ええ! この子の部屋で寝泊まりしてたこともあるけど、その時にはもうポスターやらグッズやらでいっぱいよ。いわゆる推しってやつね、推し」

 

 前から気づいていたけど、やっぱりランレイさんは香苗さんの大ファンなんだな。自分でもポロッと溢していたからわかりきっていたけど、ここにきてようやく明言された。

 憧れの探査者に追いつきたくて、あえてその人をライバル視する。なんともこう、ツンっとしてデレっとした感じなんだが、ランレイさんの気質もあってツンってしたのは一切なかったな……ビクッとしてデレって感じだな、むしろ。

 

「あわわわわわわ!? あ、あ、あああアンジェちゃーん!?」

「壁は超えたしいいじゃないの、ファンに戻ってさ。香苗、ダンジョン探査が終わったらこの子にサインと写真もらえないかしら? 頑張った素敵な子に、ご褒美ちょうだいな」

「ふふ……ええ、構いませんよ」

「ひゃわわわわわ!? じ、直筆サインに写真撮影ぃっ!?」

 

 アンジェさんに頼まれて快諾する香苗さんに、ランレイさんがさらなる悲鳴をあげた。もう今にも卒倒しそうだなあ。

 壁を超えてもランレイさんはランレイさん、ということだった。

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