攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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竜vs竜断刀

 アンジェさんの振るった刀と、ワイバーンの鋭い爪がぶつかり合う。響く、金属の擦れる高い不快音。

 思い切り踏み込んでの彼女の斬撃は、技でなくとも十分すぎる威力を持つ。けれどそれでも、竜の爪に傷一つつけることさえ叶わない。

 A級モンスターでも最強クラスとされる化物の、実力はさすがといったところだった。

 

「ふしゅるるるるるるるるるっ!?」

「チッ、硬い……だったら!」

 

 想定以上の敵の硬度に、舌打ち一つしてアンジェさんは飛び退いた。距離を取り、竜の出方を伺う。

 ワイバーンはワイバーンで、何やら刀と接触した脚をじっと見ている。あれは、傷がないか確認している? 次いでアンジェさんに向ける視線が、どことなく警戒色を帯びているように思えるのは気のせいだろうか。

 ふっ、とヴァールがクールに笑った。

 

「どうやら敵は、アンジェリーナを敵として見定めたようだな。本気で臨まねば倒される相手と、そう認識したらしい」

「やっぱりそうか。なんかさっきと雰囲気違うもんな、引き締まってるっていうか」

「それだけ今の斬撃が強烈だったということだ。だが彼女の竜断刀はまだまだそんなものではないぞ、ワイバーン」

 

 楽しそうに解説やら何やら語っているヴァール。ノリがいいというか、立ち位置が舞台裏から不敵に笑うプロデューサーみたいな感じだ。

 アンジェさんとランレイさんに大分、入れ込んでるよなこいつ。下手するとマリーさんとリンちゃんに対して以上にファンムーヴしてない? どこか気に入るものがあったんだろうけど、それにしたって姿勢がファンすぎる。

 

 同じ精霊知能としてか、リーベが一際えぇ……みたいな顔をしているのが面白い。

 当たり前だけど、個体によってパーソナルは違うよなあ精霊知能も。そんな感慨に耽っていると、アンジェさんは次の攻撃を繰り出していた。

 

「《剣術》、竜断刀──カドモス!」

「!」

 

 構え、走り、斬りつける。一連の動作がほとんど同時に行われるほどの、神速の斬撃術・竜断刀カドモス。アンジェさんの技の中でも特にスピードを重視した斬撃が、ワイバーンにヒットした。

 走り抜けざまに翼を斬りつける。それを何度も、幾度となく繰り返す。

 

「そらそらそらそらぁぁぁっ!!」

 

 ジグザグとした軌道。弧を描く動きでなく完全に直角から切り返す動きを重ねるそれは、まるで絵に描く稲妻のようだ。

 慣性を完全に無視した動きなんだが、おそらくは高レベルゆえに向上している身体能力に任せての無理矢理な方向転換だろう。

 

 同じことをすれば、非能力者どころかB級以下くらいの探査者だって無茶な動きの反動で行動不能になっている。

 そのくらい異常な動きを、それでも攻撃技として成立させているのは紛れもなくアンジェさんの才覚と修練あってのものだ。天才と、掛け値なくそう言える。

 

「ふしゃ、ふしゅ、ふしょるるるるるあっ!?」

「遅い!」

 

 目まぐるしく移動と斬撃を繰り返すアンジェさんを捕捉しきれず、ワイバーンの混乱した呻きが響く。幾度となく斬られているというのにまるでダメージがないのが、さすがA級トップ層といったところか。

 どうにか反撃を試みようともがくのだが、それさえ彼女の思う壺だ。できた隙を逃さず掴み、懐へと入り込む。

 

「竜断刀、シグルドォッ!!」

 

 そして今一度の大斬撃。

 竜断刀シグルド。一撃の威力を高めることに着目したらしい技だ。全身のバネと筋力をフル稼働させた斬撃、というシンプル極まりないものゆえ、威力もまた凄まじいものになっている。

 風さえ巻き込み両断する勢い。それを敵の首元から胴にかけて一直線に叩き込んだのだ。いかなワイバーンとて、これにはひとたまりもない。

 

「ぐぎゃらがぁぁぁぁぁっ!!」

「────っやば!?」

 

 鋼鉄のようなドラゴンの肉体が裂ける。けれどその苦痛に一切動じることなく、敵は即座に反撃に転じた。

 両翼を眼前のアンジェさんに振るう。巨大なコウモリの翼がごう、音を立てて周囲の空間を薙ぐ。

 大斬撃のあとの硬直を狙われてのカウンター。アンジェさんは咄嗟に飛び退こうとするも──

 

「ぐぁっ!?」

「アンジェ!?」

 

 翼の尖端、鋭い針が備わった部位が左腕を掠め、その柔肌と血を晒すこととなった。

 致命傷ではもちろんない。が、あれは……あの針は。どこか変だぞ、なんであんなに濡れているんだ?

 疑問に思うのと同時に、香苗さんが叫んだ。

 

「まずい! 一旦下がりなさいアンジェリーナ、毒です!!」

「! ……ちいっ!」

 

 緊急状況での外野の叫び。だがアンジェさんは冷静にそれを聞き拾い、即座に理解し。

 盛大に舌打ちをして大きく飛び退いた。天高く舞って、通路の近く、つまりは俺たちの傍に着地する。

 がくり、と片膝をつく。刀を地面に刺して固定し、彼女は右手で左腕の傷に触れた。

 

「…………やられたわね。渾身の一撃だったのに、ノーリアクションでカウンターなんてショックだわー」

「アンジェ! ど、ど、毒が!?」

「あー、ランレイ。速効性みたいね、あんたが分裂して見えるわ。何、《闇魔導》でも使った?」

「一人だよぉ……!」

 

 涙目で心配するランレイさんに、あっけらかんと軽口を叩く。態度はいつもどおりだが、よく見ると汗が段々と吹き出てきている。

 速効性の毒。ワイバーンが口から毒を吐いているのはさっき見たけど、翼にまで毒針があったのか。そうなるとさっき刀とぶつかっていた爪や、あるいは皮膚にだって毒があるのかもしれない。

 

「ワイバーンの翼の毒はそこまで強力ではない……だが戦闘不能に陥るだけの威力は当然ある。下がれアンジェリーナ、お前はよくやったよ。あとは我々でやろう」

「はいはーい、リーベちゃんの《医療光粉》でー、毒だってバシーっと治しちゃいますよー! まあ、ちょっと時間はかかりますけどー」

 

 ヴァールの労いとともに、リーベが光翼を煌めかせる。多少の毒ならば《医療光粉》で治療できるからな。

 さすがに今日はもう戦線に参加はできないけど、明日にはバッチリ元通りのはずだ。

 そんな姿に俺も、香苗さんもランレイさんもホッとしていると──

 

「悪いけど、このままやらせてもらうわよ……っ!!」

 

 当のアンジェさんが、まさかのそんなことを言い出していた。

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