攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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不意にスンッ……となる山形プロンプトくん

 しばらくアイと動画を見ながらスマホを弄る。なんとなく、ニュースサイトとかSNSを巡っていると、気になるニュースが目に入った。

 探査者業界のニュースなんだが、俺のよく知る人についての報道があちこちで話題になっているのだ。ニュースサイトの記事になってるのはもちろん、SNSではトレンド入りだしでもう、ちょっとしたお祭り騒ぎだよ。

 

「"S級に最も近い探査者"御堂香苗、ついにS級へ……かあ。すごいな香苗さん、ニュースになってる」

 

 それっていうのも我らが香苗さんの、S級探査者への昇級がいよいよ公に告知されたのだ。

 国内11人目のS級探査者の誕生ってことで巷は大騒ぎになっているわけだね。この分だと、テレビなんかつけてもニュース番組やらワイドショーやらでこのことに触れてるかもしれない。

 

「美人で、もともと有名だった人だしこうなるよな。サインとかあんなにサラサラって書いてさ」

「きゅるきゅる?」

「例の団体絡みさえなければ、もっと人気だったろうになあ」

 

 しみじみと惜しむ。各サイトのコメントやらを見ていると、世間の反応ってのは概ね二分されているのだ。

 

 長らくA級トップランカーとして君臨していた彼女の栄達に、素直な称賛を送る声。ファンもこっちがまあ多いよね、当然ながら。

 中には有名人さんとかもいて、香苗さんの影響力を改めて感じるほどだ。

 有名俳優さんや政治家の人がお祝いとかコメントしてるのを見ると、ちょっと本気ですごいと感じちゃう俺は大分、肩書に弱い気が自分でもするね。

 

 対してあまり好意的でない、批判的な立場の人も少数、当然ながらいて。そういう人たちが表立って批判の材料にしているのはやはり、俺を救世主として崇めて組織まで作っちゃってるこの4ヶ月の奇行なのよね。

 なまじ最近だからか、元々ファンだった人がアンチに転向しているっぽいコメントも散見される。そこからさらに派生して、彼女の信奉する俺こと、山形公平への文句もちらほらあるみたいなんだけど……これはまあ、しょうがないとしか言いようがない。

 

 ちなみに。

 そうしたアンチ的コメントに関しては、大体の場合反論ってか論破を仕掛けてくるユーザーが多数いるのが印象的だった。

 

 御堂香苗の宗教活動は法に則った、正当な権利に基づく常識的なものだから批判するには当たらない、とか。

 山形公平に至っては普通に探査しているだけであり、その姿を御堂香苗以下信者たちが勝手に神聖視しているだけだ、とか。

 

 しきりにそんな主張を訴えるものばかりのため、俺としてはこれは"救世の光"に参加している方々による活動なんじゃないか、と疑ってたりするのだが。

 どんな形であれ悪意から香苗さんを護ろうとしてくれているのは伝わるので、ありがたいやら程々にしてほしいやら、複雑な表情にならざるを得ないのが実際のところだ。

 

「世の中、色々あるよなあアイー」

「きゅう? きゅ〜」

 

 相変わらず"カレッジサーチャーズ"のコントめいた探査動画に夢中のアイが、俺の声にこちらを向いて、鼻先を胸元に擦りつけてくる。その頭を撫でながら、まあこの話題はここまでと今度はスマホで、ネット小説投稿サイトを開いた時だ。

 俺の部屋のドアが、控えめな音を立てて3回ノックされた。

 

「兄ちゃーん、入っていいー?」

 

 聞こえてくる妹ちゃんの声。なんだろ、最近じゃ珍しいな、優子ちゃんが俺の部屋を訪ねてくるなんて。

 もちろん仲が悪いわけじゃないにせよ、やっぱり兄と妹でどちらも思春期だからね。用事がなければお互い、部屋には近寄らないのが暗黙な感じになってたりする。

 

 それはここ数ヶ月、優子ちゃんが情緒不安定になりかけていた時ですら変わらなかったことだ。だからこうして部屋に来たってことは、なんか用事があるってことなんだろうな。

 ちょっとした程度の話なら、ドア越しに声だけでやり取りするからそれなりに込み入った話かもしれない。

 そこまで考えながらも、俺はすぐさま返事をした。

 

「いいよー」

「お邪魔ー」

 

 言うや否や、すぐにドアが開いて優子ちゃんが入ってくる。いつもどおりの可愛さで、別に変わったところはない。

 ドアを閉め、俺のベッドに腰掛ける。完全に長話モードって感じだな、これは。俺はアイを机の上、パソコンの前に座らせてから、椅子を妹ちゃんのほうへと向ける。

 

「どしたん? なんかトラブルとかあったか? コマンドプロンプトモードで相談に乗ろうか?」

「何それ、どんなモード?」

「こんなモードだ、山形優子」

 

 冗談の発言ながら、拾われたのでノッてみる──コマンドプロンプトとしての側面を表出させた、極めて虚無に近い無表情になっていることだろうな、今の私は。

 無論、意識まで切り替わってなどいない。ソフィア・チェーホワとヴァールのような実質的な二重人格ではなく単なる演技というか、スイッチを意図的に切り替えたに近い。

 

「さすがに因果までは弄らないが、お前の事情に対して解決への提案とそれに必要な要素の演算くらいはしよう。何、シミュレートに関しては一家言ある。何しろ邪悪なる思念を滅ぼすために永劫に近い時をひたすら──」

「それやめて兄ちゃん。ホラーみたいでゾッとするし、中二病ぶり返したみたいで別の意味でもゾッとするし」

「────そんなに!?」

 

 どっか途中でツッコまれることは想定してたけど、思っていたより辛辣な言葉が突き刺さる。つらい。

 まあ、親しい人がいきなり人格変わったみたいになったら怖いよな。そりゃそうだ、中二病ぶり返したってのは完全に冤罪だけども、ホラーみたいってのは当てはまりそうだ。

 

 苦虫を噛み潰したような優子ちゃんに笑ってごめんと返しつつ、俺はいよいよ本腰を入れて彼女の話に耳を傾けた。




本日12時にもう一回投稿した後、投稿ペースを毎日0時投稿一回に戻します
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