攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「今度ね、美晴ちゃんに連れられて竜虎大学に行くことになったの」
「え、なんで?」
妹ちゃんの相談、その一歩目から思わず疑問を呈する。いや大学て、あなたも逢坂さんもまだ中学生でしょうに。
しかも竜虎大学ったら、うちの県と隣県に学舎が分かれて存在している、地元じゃそこそこ有名なところじゃん。さすがに難関校とまではいかないけど、偏差値的には平均以上はあったと思う。
何、今から二人してそこ目指して頑張るの? 一緒の大学入ろうね的な約束してるのかな。
実に青春ぽくていいんだけれども、さすがに下見は早くないかなと、お兄ちゃん思っちゃうんだけど。
ハテナが浮かんでは消える俺に向け、彼女はさらに続ける。
「望月さんが竜虎大学の学生なんだって。それで、明日探査者サークルのイベントが学内で行われるから、美晴ちゃんもどう? って誘われたみたい。でも彼女一人だと怖いみたいだし、ダンジョン探査はしないからって私も呼ばれてて」
「宥さん、あそこの学生さんだったんだ……」
「こっちの学舎じゃなくて、隣県の学舎に通ってるってさ」
知らなかったのか……って目で見られるけど、まあ知らなかったよね。宥さんがどこの大学に通ってるかなんて、聞く機会もなかったし。
才媛だよなあ、あの人。美人だし大学生だし探査者だしで、ものすごく人気なんだろうな、学内でも。
しかしそうか、大学で探査者イベントか。さっき動画で見た"カレッジサーチャーズ"絡みだろうか? 探査者サークルとか、探査者同好会みたいなのは各大学にあるって聞いたことあるし。
ああでも、そういう集まりとは別に非能力者の学生さんたちによる、探査業界の研究とか創作とかの活動がメインのサークルなんかもあるって聞くなあ。時折探査者の学生が入って、いろんな探査者さんを呼んでイベントを開いたりするとかしないとか。
宥さんの話ってのはどっちかというと、こっちな気がしてきた。
「いろんな探査者さんを呼ぶそうだから、人脈作りにはいいかもってことで美晴ちゃんに声をかけたんだろうね」
「人脈作りかあ……やっぱり重要なんだな、そういうの」
「兄ちゃんはもう十分すぎるくらい人脈あるから、関係ないかもねー」
優子ちゃんがからかうように言ってくるが、まあ実際、人脈作りって点においては別段、気にする必要がないのは事実だ。
ぶっちゃけ、ソフィアさんとマリーさんとベナウィさんと香苗さんの4人が、顔が広すぎるんだよね。WSOトップの二人にS級探査者二人だ、さもありなんって感じではあるけど。
何かしら人に困った時はこの4人に相談すれば、大体のことは解決しそうで怖い。いやほんと、得難い縁に恵まれたもんだよ。
ただまあ、だからといって内向きになるのもよくはない。
「損得の絡む人脈じゃなくてもさ、いろんな人と関わるのはいいことだと思うし。俺も興味あるよ、そのイベント」
「あ、それなら話は早いね。私と美晴ちゃん、あとクラスメイトが何人かで大学に行くから、保護者として兄ちゃんに引率してもらえないかなーって頼もうと思って来たの」
「一緒に行くのは構わないけど……保護者扱いにはならないだろ。俺、未成年だし」
「行き帰りは望月さんも一緒だからさ、補助ってことで! ね?」
両手を合わせて頼み込む優子ちゃん。
まだ法的には大人じゃない俺が保護者だの引率だのってのは問題があるかな? とは一瞬思ったけど、宥さんが一緒なら問題ないな。いや、彼女に頼り過ぎちゃいけないのはもちろんだから、ちゃんとお手伝いはするけれども。
そういう話なら、こっちとしても断る理由はない。俺は大きく頷いて、快諾の意を示した。
「わかった。特にやることもないし、興味もあるしついていくよ。なんか注意事項とかあるか?」
「やりぃ! ありがとね兄ちゃん! 注意事項とかは特にないけど……兄ちゃんはあちこちフラフラして迷子になっちゃだめだよ?」
「ひどい」
どっちが引率されるんだ……屈託なく笑いながら本末転倒みたいな注意をしてくる妹ちゃんに、思わず涙がちょちょ切れる。
たしかに家族で買い物とか行く時は概ね、途中で気になったほうに足が向いてはぐれがちだけれども! それは父ちゃんだって一緒だ、なんなら優子ちゃんもそんな気はある!
……最終的に揃って母ちゃんにしこたま嫌味言われるやつですね、はい。好奇心に弱くてフラフラしがちなのは、どうやら父方の血なのかもしれません。
こほん、と一つ咳払い。
「と、とにかく。明日だっけ、何時にどこ集合?」
「7時30分にこの家の前に集合。持ち物とかは特にないけど、暑いし水分補給はしっかりとしないとってくらいかな。あああと、寝坊しないでね?」
「そりゃこっちの台詞だよ」
「う……ら、らじゃー」
寝付きが悪けりゃ寝相も寝起きすら悪い、愛しの妹様に今度は俺のほうから釘を刺す。この子が小さかった頃、一緒に寝ていて何度蹴飛ばされたことか。そこさえ含めて可愛いんだけどね。
自覚はあるみたいで今度は優子ちゃんが呻いた。勝ったぜ、いや勝負してないし。
「じゃ、明日はよろしくね。兄ちゃん」
「おう、任せてくれよ、優子」
話もまとまり、おもむろに妹ちゃんが立ちあが──らない。
ベッドに腰掛けたまま、スマホを弄り始めている。どうやらこのまま居座って、クーラーガンガンの俺ちゃんルームで今日を過ごすつもりらしい。
いいんだけどね? この分だとそのうちリーベも来るだろうし、みんなでのんびりと一日、家で過ごすか。
俺は再びパソコンに向き直った。