攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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答えのない問の、答えに辿りつける時がくるまで

 夏休み中、マザー山形のスパルタお料理教室を強制受講させられそうな気配に頭を抱えている、我が妹ちゃんはさておくとして。

 とりあえずリーベが作ってくれたご飯を食べようと、俺たちは席に着いた。せっかく披露してくれた美味しそうな料理の数々、いつまでも手を出さないのももったいない。

 

 すでに腹ペコ、何を食べてもうまい気がするそんなハングリー俺ちゃんだけれども。

 そういうコンディション的なものを差し引いても、振る舞われたリーベの料理は大変おいしいものだった。

 

「んー、うまいっ」

「ほんとだ……卵焼きもウインナーも焼き加減最高だよ、ジューシー!」

「きゅうー!」

 

 俺と優子ちゃんはもちろんのこと、アイまでウインナーやら玉子焼きやらを頬張ってはうまい、おいしいと口を揃えて言って──アイは鳴いて──いる。

 

 なんの変哲もない焼き加減、なんてこともないいつもの味。なのにこんなに美味しく感じるのはやっぱり、リーベが作ってくれたものだからだろうか?

 素麺だって茹でるだけだし、冷奴に至っては調理もへったくれもない。なのになんだか、いつもより全然うまい気がする。

 

「えへへへ〜! おいしいって言ってもらえるって、こんなに嬉しいものなんですねぇへへぇへへへへ〜!」

「蕩けまくってんなー顔。いや実際、ちゃんとしたお昼ごはんになってるから、初めてでこれはすごいなって思うよ」

「うんうん。素麺もちょうどいい茹で加減だし、冷奴もおいしいよ。さすがリーベちゃん!」

 

 心からの賞賛に、リーベの顔のまあ緩むこと緩むこと。摘んだら伸びそうってくらいふにゃふにゃに蕩けた笑顔がなんともはやかわいい。

 普段のお騒ぎマスコットぶりがアレすぎてスルーしがちだけど、本当の本気で美少女だからなあ。美人は三日で慣れるなんて格言があるけど、さすがにリーベほどかわいかったら3年見てても慣れなさそう。

 

「きゅ、きゅっきゅっ、もきゅっ、もきゅっ」

「あはは、アイちゃんも美味しそうに食べてる! かわいー!」

「美味しいですかー、アイー? たくさんあるんでたっぷりたべてくださいよー?」

「きゅっきゅー!」

 

 専用の木製テーブルにちょこんと座り、これまた専用の皿とお椀に盛られた料理を次々食べるアイがリーベに向けて鳴いた。おいしい、最高と言わんばかりの甲高い喜びの鳴き声だ。

 この専用テーブルは俺たちが普段遣いしているものと高さは同じで、アイが座る用の窪みが拵えられている。食器も併せて父ちゃん渾身の日曜大工の成果だ。

 

 よーしパパがんばちゃうぞー、なんて頑張っただけの甲斐はあり、アイはこれら専用品をいたく気に入ってくれた。なんなら父ちゃんにすっかり懐いて、相対的に懐かれていない母ちゃんが拗ねる一幕があったほどだ。

 そんな呑気な夫婦事情はさておいても、居心地のいい場所でおいしい料理を食べてご満悦の、アイを見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくるなあ。

 

『すっかりペットって感じだねえ』

 

 と、脳内のアルマさんが一言。

 今のアイの、ひたすら愛らしいばかりの姿に何やら言いたいことがあるみたいだ。

 こいつの言葉を聞いてやれるのは今じゃ俺だけ、無視する気もないから、頭の中に響く声に密やかに耳を傾ける。

 

『愛らしさはたしかにあるけど、かわいげだけじゃインパクトが薄いよねえ? 個人的にはもうちょっと元の残忍さとか凶暴性は残しててもいいんじゃないかなって思うよ。お腹が減るとなんでも食べ始めるとか、寝てる時に気がつくと口からビームを放ってるとかさ』

 

 とんでもないこというよなあ、こいつ。

 いや、君ね。そもそもどこぞの邪悪なる思念さんが傍迷惑、かつ命に対してなんの敬意も責任感もない真似をするから俺は、この子をこういうふうに再構成したわけなんだけど。

 そもそも大きかった頃から別に、アイはそこまで残忍でもなければ凶暴でもなかったし。ただただ図体がでかいってそれだけで、凶悪な現象を引き起こすほかなかっただけなんですけど。

 

『ふうん? よくわかんないや……心ってのはわかりにくくて嫌いだよ。不定形のあやふやな概念でなく、目に見える物質であってくれたならなあ。少なくともそっちでは僕は、完全なるものを手に入れられたかもしれないのにね』

 

 ぼやき、それきり黙るアルマ。やっぱりまだ、完全なるものへの憧れとか、執着は薄れることはないか。

 あやふやでない、明確な答えを求め続ける姿勢は立派だけど。こいつは目的に対して前のめりすぎて、他のすべてを犠牲にしてしまったんだ。

 その惨さと哀しさに、山形公平として生まれ育った15年は複雑な思いを抱かざるを得ない。

 

 いつの日にか。

 誰にも迷惑をかけない形で、何かしらの答えに辿りついてくれることを願うよ。それまではきっと、ずっと傍にいてやるから。

 

「公平さん?」

「兄ちゃん? どうかした?」

「きゅ? きゅーきゅー?」

 

 少しばかり黙り込んでいたら、心配した二人と一匹に声をかけられる。

 いかんいかん、せっかく作ってくれた料理だ。文字どおりの内なる対話に浸ってないで、まずはおいしくいただかなきゃね!

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