攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
元より4人分の量が作られていたお昼ごはんだったけれども、一つ残らずすべて、きっちりと平らげられたことから結果としては、バッチリ適量だったということになる。
俺が一人前以上食べることを見越して、あえて多めに作ってくれたみたいだ。さすが精霊知能、そのへんの目算は完璧だよなと感心する。
「ふぃー、ごちそうさまでしたー!」
「ごちそうさまでーす!」
「きゅー!」
すっかり空腹が満たされた腹を擦って、俺たちは食事を終えた。糧となってくれた料理と食材と、作ってくれたリーベに感謝を告げる。
本当においしかった、満足感がすごい。あのリーベが振る舞ってくれたというのがまず嬉しかったし、それがなおのこと、おいしさに拍車をかけていた気がする。
「おあがりさんですー! えへへ〜、食べきってもらえましたねー!」
満面の笑みを浮かべてリーベが応える。食事中、ずっと緩みきった顔をしていたこの子の、あまりに幸せそうな笑顔が微笑ましい。
料理をすることもそうだけど、作ったものを食べてもらうことに喜びを感じているのかな。もしかしなくてもリーベにとっては初めての体験だろうから、何もかもが新鮮な感じなのは間違いない。
空になった食器をまとめながら、彼女は続けて言った。
「最高ですねー、料理を作る手応えも、それを食べてもらえる実感もー。なんか、趣味ができたかもですよー」
「そりゃあいいな。家庭的で素敵な趣味だ、母ちゃんも助かるだろうし」
「はいー! これからもお母様にいろいろ、教わっちゃいますー!」
すっかり喜色満面って感じだな。これは本当に、趣味として料理を楽しむようになっていくかもしれないと、陽気に笑うリーベを見て俺も微笑む。
……と、そんなやり取りを聞いて優子ちゃんがぼそり。
「それじゃあ、私のお料理教室はなかったってことで一つ……」
「いやあ、それは無理だろ。話を聞くに母ちゃん、完全にお前をロックオンしちゃってるし」
「なんでー!? やだー! 料理やだ、食べ專でいたいー! 母ちゃんの説明わかんないもんやだぁーっ!」
どんだけ料理が嫌なのか……終いには駄々を捏ね始めた妹ちゃんに苦笑いする。
これはたぶん、せっかくの夏休みだし面倒なことをしたくないってのと、あと本人も言うように、母ちゃんにものを教わるのが嫌ってのがあるんだろう。実はあの人、教えたがりだけどいまいち説明うまくないからね。
「うう。なんで学生生活最高に楽しいダラダラ期間を、要領を得ない説明しかしない母ちゃんの料理教室なんかにぃ〜……」
「ちなみにリーベも母ちゃんの説明で料理、覚えたんだろ? どうだった?」
「え? えーと、その……たぶん、頭の中で教える段取りがついてないのかなー? とは、思いましたけどー……わ、わかりはしましたよー?」
「なるほど」
つまりはそういうことだ。気を遣ってオブラートに包んだ言い方だけど、要するに若干しどろもどろなんだよね、母ちゃんが人にものを教える時って。
そのへん、俺も人のこと言えたわけじゃないからたぶん母方の血筋なんだろう、口下手なところは。母ちゃん自身も自覚はあるのか、時折俺と口を合わせて"つらい"って言い合うほどだったりする。
ちなみに父ちゃんのほうは、可もなく不可もなくちゃんと説明ができるタイプだ。身内相手だと気が緩むのかこそあど言葉を多用しがちだけど、何が言いたいのかは案外しっくり理解できる。
優子ちゃんがなまじ、そっちタイプなもんだから余計、母ちゃんや俺の口下手ぶりには閉口するんだろう。こればかりはうん、責めるに責められないよね。
苦笑いしつつ食器を台所へ持っていく。洗い物はもっぱら、俺や優子ちゃんの仕事だ。リーベにも持ってきてもらうだけ持ってきてもらって、さて俺はスポンジを手に取った。
アイが濡れた布巾を器用に持って、パタパタ浮遊しながらもテーブルを拭いている。そんな、動画にして配信したら1000万回再生も夢じゃなさそうな光景を見ながら、洗い物開始だ。
まずは水流で汚れを落としながら、ソファに座って落ち着いているリーベに話しかける。
「しっかしリーベも、すっかり人間社会に適合したよなあ」
「ですねー。最初は結構、どうなることやらーってハラハラしてたんですよ、これでもー」
「え、そうなのリーベちゃん」
「もちろんですよー。なにせそれまで500年、ずーっとシステム側の存在でしたからねー。受肉してからも、決着がつくまでは地味に緊張しっぱなしでしたしー」
そうしてしみじみと振り返る。システム側の存在は、肉体もなければ食欲だの睡眠欲だのもないし、基本的に意思あるプログラムでしかないからね。
かくいう俺も350年、ずっと一人で隠れて存在し続けてきたからわかるけど。肉体ある生命のあり方に比べ、正直なところ味気ない日々ではあったな、システム領域での年月は。
ましてリーベの場合、アドミニストレータ計画を企画立案する責務もあったわけで……こうしてすべてが終わるまでは、受肉したとて気が気じゃなかったんだろうな。
「ですから今、こうして肩の力を抜いてやりたいことをやらせてもらえるのは、すごく新鮮ですよー。ありがとうございます、公平さん、優子ちゃん。それにアイも」
だからこそ、優しく微笑んで感謝を述べる彼女には、俺のほうこそありがとうって言いたくなるのだった。