攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
乗り場を変えてまた、電車に乗る。地元からこの駅までは割合一直線に西向きに移動していたわけだが、今度乗る電車は南向きに進行する鉄道だ。
それも、普通電車でわずか数駅の道程。なるほど30分ほどでたどり着ける距離で、中継にこんな大都市の駅を経由するわけだから、交通に苦慮するわけじゃないのは当然と言えるだろうね。
「かれこれ1年と数ヶ月経ちますから。もうすっかり通い慣れた通学路です」
と、言うだけあって道中の宥さんの馴染みっぷりは尋常でない。大学2回生だもんなあ、この人……1年以上も通ってたら慣れるよな、そりゃ。
俺だって、東クォーツ高校に入学して3ヶ月、すっかり電車とバスでの通学に慣れっこだもの。なんなら"あっ、シャイニングだ"みたいな周囲の方々の好奇の視線にも慣れてきたほどだ。複雑。
さておき、電車に乗って発車を待つ。地元駅からここまでは本線だったから、比較的早いスパンで電車は来てたんだけど、ここからはローカル線だからちょっとした待機時間が発生する。
車内は結構空いていて、今回は普通に座席につくことができた。ロングシートにずらりと7人、並んで座る。
少しの余暇。この際だし雑談がてら、気になっていた宥さんの大学生活について聞いてみようか。
「大学生ってどんな感じなんです? 一応、俺も進学は志してまして。気になるんですよね、キャンパスライフ」
「え、と……そうですねえ。楽しいのは間違いありませんよ、公平様」
きょとんとして、それからすぐににっこり笑う宥さん。
お姉さんらしい、包容力と母性たっぷりの微笑みで応えてくる。隣り合って座ってるから、そこそこ距離が近くてなんだかドギマギする。香水してるんだろう、柑橘系のほのかな匂いがすごく、大人びていて素敵だ。
そんなピュアボーイ山形に気づいているのかいないのか、とにかく宥さんは続けて言う。
「私も公平様と同じく、高校在学中にスキルに目覚めて探査者になりました。ですから、意識的にもそうですし実際の生活バランスもやっぱり、探査者であることを優先している感じですけど……それでも大学生活は楽しいです。学ぶことも、遊ぶことも、とても有意義に感じますね」
「宥さんは探査学部の人、なんですよね?」
「ええ。探査業に関連する研究や知識、歴史に関してを学ぶ日々は、とても楽しいですよ」
なるほど。なんというかこの人、すごく充実して日々を過ごしてるんだな。
探査者としてはもちろん、宥さんは優秀だ。それは自前の動画配信チャンネルが人気なことからも窺えるし、リッチ騒動の際、後輩探査者を連れて探査に赴いていたりしていたあたり、知人友人から慕われてもいる。
ドラゴン騒動の時にはステータスも見させてもらった。こないだリーベから聞いた話も加味すると、意外にも防御重視のパワーファイターらしい。
《防御結界》だの《身代わり》だの、守備または回避に特化した構成してるもんな。加えて大盾を装備してのパリィとカウンターで立ち回る渋い戦法も、これほどの美貌で行うならばギャップで人気が出るのも頷ける。
さんざん褒めたが要するに、この人は探査者として非常に将来有望だということだ。そしてその上で彼女は、そんな探査者としての姿とはまた別に、大学生として学生生活をも楽しく過ごしている。
文芸部に所属し、詩と小説を嗜みながら日々、キャンパスを友人知人に囲まれて学問と遊興とを楽しんでいるのだ。
気軽に普段、陽キャを見てリア充って言葉を当てはめる俺ちゃんだけれども。本当の意味でリアルが充実してるってのは、こういう人のことを言うんだろうなあ、とつくづく思うよ。
正直、今後俺がどこかの大学に進学したとして、同じように充実した日々を送れるかって考えると無理な気がする。特に学問関係は、今でさえテスト前になるとひーひー言ってるんだからなおのことだね。
「すごいなあ、宥さん。探査者としても学生としても、そのライフスタイルはなんだか憧れます」
「そ、そんな畏れ多い! 公平様こそ、私はいつだってすごい方だと思っているんですよ?」
「え。いやそれは……」
使徒としてのアレですよねソレ? すごいの意味合いがその、若干どころか相当斜め向いてそうといいますか……
思わず遠い目になる。そうだよこの人、探査者でもあり学生でもあるけど、救世の会の使徒でもあるんだよなあ。そっち方面は別に充実しなくていいよと、率直な思いを抱く。
だけど宥さんは真面目そのものな顔をして言うのだった。
「探査者としてわずか3ヶ月。その間に貴方様はどれほど大きなことを数々、成し遂げられてきたことでしょう。高校生活においても勉強や、お友だちとの交流にも取り組んで蔑ろにせず。それでいて世界を救う戦いに奔走なさってきたお姿を、私は見てきました」
「ゆ、宥さん?」
「何より……何より、ずっと永い間、永遠にも近い時間をお一人で。すべてを背負って、すべての責任をご自分で果たそうとされていたこと。心の底から、尊敬しています」
おもむろに手を握り、若干涙目で語る。熱に浮かされたように呟く彼女に、二の句が継げない。
こ、この人! 説明会で明かした俺の正体とかやってきたことを、ものすごく重く受け止めているよ!?
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