攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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探査者の進学って、意味なくないか?

「公平さん、大学進学を考えてらっしゃるんですね」

 

 電車の出発時刻まであと数分。宥さんのキャンパスライフをいろいろ聞いていた時だ、逢坂さんが不意に、俺に向かってそんなことを言ってきた。

 さっきポロッと溢した、大学に行く気ですよーって言葉を拾ったんだろう。俺を見る彼女の表情は、どこか意外そうな色が見える。

 まあ、たしかに意外に思われるよねと苦笑い。

 

「一応ね。どこの大学かってのは正直、今後の学業成績次第だけど」

「なるほど……私てっきり、公平さんは高校卒業後そのまま探査者一本になるのかなって思っていました。スキルを得てわずか3ヶ月でC級にまでなってしまう天才さんですし」

「兄ちゃんが天才だって! ウケる」

「ウケないで」

 

 つらい。いや天才って評はたしかに吹き出しそうになるけど。すべては厳然たるチートスキルの賜物なので、才能もへったくれもありゃしない。

 アドミニストレータ用スキルを獲得できる素質を以て天才、と呼べるのかもしれないけれど、ぶっちゃけ山形公平の前身がコマンドプロンプトなんだから、そんなもんあって当然の素質でしかないんだよね。そもそもそれありきで輪廻に乗ったわけですし。

 

 さておき、客観的に見れば逢坂さんの言った理屈もまあ、わかる。

 俺の昇級スピードは正直異例だ。探査者になって3ヶ月目なんて普通はまだまだ駆け出し、F級探査者としてスライムなりゴブリンなりを相手に奮闘している頃合いだ。

 そもそも全探組の規則的に、探査業を1年継続して行わなければ昇級試験は通常、受けられないはずだったりするしね。

 

 だってのになんでか俺だけこうなっちゃってるのは、やはりステータスの異質さを最初期の段階で全探組およびWSOの上層部……つまりは全探組理事の新川さんとWSO日本事務局局長補、烏丸さんが知るところになったからだろう。

 高校入学式の日の時点で、すでにワールドプロセッサの存在は彼らには伝わっていたからな。このへんを突き詰めるとやっぱり香苗さんがいのいちに俺に目をつけたのがすべての起点になっているあたり、なんていうかあの人と出会ったのはつくづく縁とか、運命なんだなって思うよ。

 

 それから今に至るまでの間、俺の扱いについては相当、水面下でいろいろあったみたいだ。

 特例での昇級試験を受けたり、ドラゴン騒ぎを経て昇級させたいWSOと規則破りはほどほどにしたい全探組でバチバチしてたりと、まあ見えるところ見えないところで忙しないこと。

 明らかにWSOは俺をさっさとA級ないしS級に引っ張り上げたいと考えているっぽいので、今後もなんかある度、俺は異様なスピードで昇級していくんだろう。大学受験の頃にはマジでどうなっちゃってるやら、なあ。

 

 逢坂さんはそのへんの事情は知らないから、額面上の昇級スピードだけを見ていっているみたいだけれど。

 客観的に見て、ここまでおかしな扱いを受けているようなやつは、大学には行かずにそのまま探査業の道を進むだろうと考えるのは当然だった。

 

「WSOにしても全探組にしても、言い方は悪いですけど大学で4年をのんびり過ごさせるくらいなら、さっさと囲ってしまってS級にしてしまおうって考えるのかな、と……すみません、勝手な憶測ですけど」

「まあ、お偉いさんの考えることは、俺にはよくわからないけどさ。そう考えてもおかしくはないよね」

 

 というか早い話がもしも、俺がコマンドプロンプトに覚醒していない状態で《攻略! 大ダンジョン時代》を発動していた場合、そうなってたと思う。

 システム側の事情に疎い山形公平では、WSOの思惑に対してさしたる意見も持たなかったろうしね。

 

 まあもっとも、コマンドプロンプトに覚醒するか逆行計画達成の贄になるかの二択しか山形公平にはなかったので、どうあがいてもそんな状況にはならないんだけど。

 苦笑いしながらも、思うところを述べる。

 

「いやあ、元々探査者になる前から漠然と、大学までは行くみたいに考えてたからさ。キャンパスライフへの憧れもあるし、親も行くように言ってくれてるし」

「いつも言ってるよね、特に母ちゃんは……でもさ兄ちゃん。正直ちょっと不思議なんだけど」

 

 当然のように考えていたり、憧れがあったり、あるいは家族の教育ゆえだったりと、複合的な理由からの大学進学への希望。

 入ったあとの明確なビジョンは正直ないので、ちょっと心苦しいなあと思っていると、妹ちゃんが何やら反応した。なんだろう?

 

「探査者さんは大学行くとなんか、メリットとかあったりするの? いや、まあメリットがあるから行くんだとは思うんだけど、いまいち探査者じゃない私からすると、よくわかんなくて」

「あー……」

「せっかく本物の女子大生探査者な望月さんがいるんだし、この際聞いときたいなーって。望月さん、不快に思われたなら申しわけないです」

「そんなことないですよ。探査者でない方からすれば、抱いて当然の疑問の一つですから」

 

 探査者が大学に行く意味とは一体? ……正直俺も、そこまで詳しくは知らないことだ。

 捉えようによっては失礼な質問だけど、宥さんは優しく微笑んで応じてくださった。

 

 と、電車のドアが閉まった。出発の時だ。

 ここから大学まではもう少しらしいし、移動がてら望月先生の教えを受けることにしよう。





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6/25は山形妹が担当してます
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