攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
学生探査者が、なんだかんだと大学まで進学するケースは実のところ、結構多いのだと宥さんは言う。
走り始めた電車の中、俺たちが耳を傾ける中、宥さんによる探査者の進学事情についてが語られていた。
「探査者は生涯、探査業に従事します。ですから、いわゆる就職活動などがないため、大学に進学してもしなくても進路に変わりはない……と。世間一般の認識は概ねそんなものですね」
「まあ、そうですね。正直俺も、そんなふうに思っちゃってるところはあるかもです」
レベルやスキル、称号に付随する効果など強力な能力を与えられた探査者……オペレータに課せられた、ダンジョン探査業に従事するという責務。
非合法の、能力者と呼ばれるアウトローたちでない限りは必ずついて回るその使命に対して、大学進学という選択肢は重要なものではない、というのが世間における通念だ。
こういう言い方もアレだし、もちろんそれがすべてってわけじゃないんだけれど、就職に有利だから大学に進学するって向きもこの世の中、あるからね。
そうした観点からするとたしかに、探査業って進路が確定している学生探査者が大学に進学する意味合いは、若干薄いと言わざるを得ないのかもしれない。
だけど宥さんは、実は探査者にも大学進学するメリットがあるのだという。
それも学生探査者だけでなく、年嵩になってからスキルを獲得したような人であっても、一念発起して大学に入学するケースさえあるほどに、進学には価値があるのだとか。
「実のところ、現代の探査者関連業務は多岐に渡ります。中には専門的な知識を必要とする業種もあるため、そうした業務に携わりたい探査者はどうしても、どこかのタイミングで専門知識を学ぶ機会を欲するんですよ」
「専門的な関連業務……って、言いますとー?」
「一番思い浮かぶのはやっぱり、技能訓練校の指導教官でしょうか」
パッと挙げられたのは、あまり俺には馴染みがないけど、それでも聞いたことくらいはある単語だ。
技能訓練校。たしか、獲得条件が判明しているスキルを習得したい探査者が、短期集中的に入学してひたすら、そのスキルの獲得を目指してカリキュラムを熟すという一種の専門校だ。
《剣術》とか《気配感知》とか。あるいは《隠密》なんかもそうだけど。世に広く出回っている汎用スキルの多くは、自然に付与されるものとは別に、能動的に獲得するための条件が判明していたりする。
剣を何回素振りするとか、目隠しした状態で一定期間生活するとかね。そういうミッションを達成すると確率で、狙ったスキルを意図的に獲得できるのだ。
特に《気配感知》なんかは、システム側でもかなりばら撒いてるスキルのはずなんだけど、どうしても渡し損ねている人もいるみたいだし。
探査業においては極めて有用なスキルである都合上、訓練校に通ってでも獲得したい人は多いみたいで、需要もバッチリある施設というわけだった。
「探査学部ではスキル学や称号学についても研究されています。スキルや称号の獲得条件は何か、その効果の性質はなんなのかに至るまで……普段の探査業ではなかなか、深掘りできないあれこれについて学べるんです」
「なるほど。そして学んだことを活かして、技能訓練校の教員になるってわけですか」
「あくまで一例ですけれど。他にも、探査者関連の税務に関して学び、内勤のエリート派閥に入るですとか。モンスター学について修め、専門の研究機関に入るですとか。珍しいところで言えば対能力者犯罪のノウハウを獲得して、護衛探査者としての道を志す人もいますね」
「へぇ〜……探査者って一言に言っても、いろいろあるんですね、お仕事」
「ダンジョンに潜ってモンスターと戦うだけ……だけっていったら変ですけど、だと思ってました」
「やっぱり基本はそこよ? ただ、そこから何歩でも踏み込もうと思えば踏み込めるってだけなの」
優子ちゃんや新島さんが、感心したように頷く。かくいう俺も正直、聞いたことない楽しそうな話に驚いてるよ、実際。
探査者の使命はさっきも述べたとおり、モンスターを倒してダンジョンを踏破することだけれど。そんな探査者をサポートする支援職がこの100年、多岐に渡って発展していった結果、一つの学部が創設されるほどの専門性を確立したってことなんだなあ。
こないだまでアイがお世話になっていた、WSOの研究施設。あそこの職員さんもみんな探査者だったし、やはり大学で専門の知識を学んだ上で研究職に進んだんだろうな。
あの施設にはモンスターを駆除していないダンジョンが複数あったし、半ば実地調査みたいな形で職員さんが潜り、日夜あれこれ観察しているんだろう。頭の下がる話だ。
「私も、実のところメインで学んでいるのはスキルと称号の獲得条件についてなんです。ゆくゆくは技能訓練校の指導教官になりたいと思っていますから」
「それって、さっき言っていたスキルや称号の獲得をサポートする?」
「ええ、そうよ美晴ちゃん。探査者にとって命綱である、スキルや称号を人に教えることでみんなの生還率を高める。それがすごく、やりがいのある仕事だと思えてるの」
「へぁ〜、すごぉい……」
逢坂さんに凛として答える宥さんに、思わず気の抜けた感嘆の吐息が漏れる。この人、すごく明確なビジョンを持ってキャンパスライフしてるぅ……
立派すぎて眩しい、宥さんがすごくかっこよく見える!
大学進学したとしてたぶん、モラトリアムをのんびり楽しむんだろうなーとか考えている自分が何やらいたたまれない、そんな俺ちゃんでした。