攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
俺の名前を知るや突然、なんか泣き出した受付のお姉さん。隣で受付のお兄さんがびっくりして、しどろもどろにキョロキョロ周囲を見ている。狼狽える彼の気持ちがわかりすぎてつらい。
こっちはこっちで、え、兄ちゃん何したん? みたいな疑る目で俺を見ている妹ちゃんや、純粋にドン引きしている新島さんと宮野さんの視線がつらいし。
なんなら宥さんとリーベと逢坂さんの、それぞれ微笑ましそうだったり興味深そうだったり、はたまた困惑したりしている様子もなおのことおつらかったりする。
俺なんもしてねーだろ!
「嘘、嘘……待って待ってほんともう無理〜!」
「怖ぁ……」
無理とか言われたんですけど俺。初対面の人に名前を知られただけでこの有様は一体……
さすがにショッキングだ。いやまあ、この反応はいわゆる"限界化"という、巷で最近よく聞く何かが限界と化した人に見られるモノだってのはわかるけれども。なんでこんないきなり、俺相手に限界化しだしたのかがまったくちっともまるっともりっと理解できない。
ああ、周囲の人たちが俺たちを見ている。どうしてこんなことに? 俺はただ、ノートに名前と探査者であることを記入しただけじゃないか。
朝早くも炎天下の日差しが降り注ぐ古都の夏。俺は、限界化して咽び泣くお姉さんの姿にこっちこそ泣きたくなっていた。
「おーい、何だ、どうした? 何があった?」
そんな時、受付のお兄さんお姉さんのところに一人、スーツ姿のお兄さんがやってきた。スポーツ刈りの、爽やかなマッチョって感じの男の人だ。
目を丸くして俺たちと、お姉さんとを見比べるその人に、受付のお兄さんは救い主が来たとばかりに気持ち早口で事情を話す。シャイニング山形が来て、女の人が限界化して泣き出した、と。
うん、意味わからんね。客観的な視点から端的に説明するとわずか一文、俺が来て女の人が泣き出したってことなんだが、まるで意味がわからない。
これじゃあ俺いじめっ子かなんかじゃ〜ん。周囲の視線とひそひそ話も痛いし、なんでだ? なんで俺は楽しいキャンパスイベントに来たはずなのに、こんな針の筵に?
「…………なるほどなあ。なあ藤代さん、気持ちはわかるがいきなり泣き出すのはよくないぞ? ほら、君の憧れがとても困惑している」
事情を聞いてマッチョお兄さんが深く頷き、女の人……藤代さんというらしいその人にやんわりと、けれどしっかりと注意した。
厳しげな体格に力強い顔立ちをしているけれど、優しげな表情と声だ。もうそれだけで、ああこの人優しい人なんだなって思えるくらい、情の籠もった声色。
窘めと同じくらい、藤代さんのことを慮っているそんな声に、彼女はハッと気がつきそして、絶賛ドン引き中の俺と目が合った。
「っ!? ぁ──ご、ごめんなさいっ」
「憧れぇ……?」
「失礼しましたシャイニングさん。彼女はかつて、あなたに救われたことがあるんですよ。恩人を前にして、感極まったんでしょうね」
「え、俺が……?」
思わぬ話を聞かされて、藤代さんを見る。
ショートボブのブロンドヘアーで、耳になんか、でかい輪っかを付けているのが目立つ。イアリングだかピアスだかなんだろうけど、引っ張ったら痛そう。
紺色のノースリーブシャツにブラウンのパンツと大人のボーイッシュって感じの格好で、なんだろう、トレンディドラマ感ある人だ。
顔立ちは当然のごとく美人で、ツリ目がちなのがちょっと、美少年的な色合いもある。男装とかも似合いそうなイケメンレディってのが、パッと見た藤代さんの印象だった。
結構主張の強い見た目をされた方なんだけど、全然覚えがない。助けた? どこで?
まったく思い当たる節がない。やばいな、もしも一言なり二言なり会話してたとかだったら、気まずさが半端ない。なんならもう一回泣かせてしまいそうだ、今度は別の意味で。怖ぁ……
そんな藤代さんは涙ながらに、しゃくりあげながらもなぜに限界化したのかを語った。
「わ、私……私の弟、探査者で。リッチに襲われて、死にそうだったところを……っ。シャイニングさんに、助けてもらって……っ」
「って、ことはリッチ騒ぎの時、逢坂さんが参加していたパーティーのメンバーの一人?」
「藤代さん……たしかに藤代さんというお名前の方と一緒に、あの時ダンジョンに潜ってはいましたけど。まさかお姉さんとこんなところで会うなんて……」
呆然と逢坂さんが呟く。なるほど……リッチが最後に潜った湖岸ダンジョンにて、軍勢に囲まれて立ち往生していたパーティーの中の一人が、藤代さんの弟さんだったのか。
たしか逢坂さんを含めてリーダーの男の人以外、全員女性というハーレムパーティーだったな。ってことは藤代さんの弟さんは、あのハーレムリーダーだってことか。
「それで、シャイニングさんのことを調べていくうちに、すっかり推しになっちゃって……! ま、まさ、まさかこんなところでシャイニングさんにお逢いできるなんて思わなかったから、ビックリしちゃって……!」
「は、はあ」
「ありがとうございます、弟を助けてくださって……! シャイニングさん、サインください……!」
「情緒がめちゃくちゃですねー」
恩人やら推しやら相手に、もう何がなんだかいっぱいっぱいあっぷあっぷって感じの藤代さん。リーベが生暖かな目で見るのはさておくにしても、俺は一言言いたい。
山形ですけど! シャイニングじゃなくて、せめて山形って呼んでほしいんですけど!!