攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ダンディマッチョは歯が命

「…………ふう。すみません、取り乱しちゃって。特にシャイニング、あ違った山形さん、変に泣いたりしてごめんなさい」

「あ、いえ。お気になさらないでください。それよりあの、大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」

 

 マッチョでダンディな小早川さんと談笑していると、コーヒーを飲んでいて落ち着いたらしい、藤代さんが俺たちに謝ってきた。

 俺のファンがどうのはともかく、弟さんの恩人相手に感極まったことについて、何も頭を下げるようなことじゃないと思う。だから努めて優しく声をかけると、彼女は微笑んでくれた。

 ツリ目がちゆえか、ちょっと猫なり狐なりを思わせるクールな笑顔だ。やっぱり可愛いというか、イケメン美女系だな。

 

「改めて山形さん。弟と家族に代わり御礼を言わせてください。死ぬ寸前だったところを助けてくださって、本当にありがとうございました。この御恩は私も弟も、父も母も一生忘れません」

「藤代さん……どうかお気になさらないでください」

 

 深く頭を下げる彼女。心からの感謝の言葉にこの人もまた、望月さんや逢坂さんとは異なる形だけど、当たり前の日常を脅かされた一人なんだと理解する。

 弟さんを助けることができて、本当によかった。当たり前のことだけど、人が一人でも喪われれば、その人に纏わる沢山の人の心も傷つくんだ。

 あの弟さんのご家族や友人さんたちが、悲しみに暮れるようなことにならずに済んで本当によかったよ。

 

「探査者の使命は、ダンジョンとモンスターに脅かされる人を助けること。だったら、追い詰められている探査者だって助けます。あなたやご両親様が哀しむことにならなくてよかった。弟さんを無事に助けられて、本当によかった」

「っ……シャイニングさん、ありがとうございます……!」

 

 山形ですけど。などと、さすがにこの流れで訂正の言葉は入れづらい。今一度、御礼を言ってきた藤代さんにも悪いし。

 いやでもシャイニングさん……ちょっとなあ。せめて山形は入れてほしいよなあ。もう誰かわかんないじゃん。

 

 竜虎大学のカレッジサーチャーズ内では、すでにその呼び方イコール俺、山形公平って紐づけされてるみたいだけども。

 第三者からしたらシャイニングさん? 輝く太陽? 夏かしら? ってなるよ絶対。山形公平のやの字も出てこないよ。

 

「ふむ……山形公平さん。あの御堂香苗さんに救世主として祀り上げられているのは、伊達や酔狂ゆえではない、ということですな」

「へ?」

 

 そんなことを考えている俺に、小早川さんの声が聞こえてくる。振り向けば興味深そうにも、また感心したようにも俺を見ている。

 観察……というのは人聞きが悪いのだけれど、見定めようとしているクレバーな感じの視線だ。

 戸惑いながらも、俺は問い返した。

 

「あの、なぜそこで香苗さんが」

「ああいえ、失敬しました。ご存知かと思いますが今回のイベント、特別ゲストにかの御仁をお呼びしておりまして」

 

 はぐらかされるかな、とも一瞬思ったんだけど、存外あっさりと小早川さんは語りだした。特に何かの意図があっての、さっきの視線ではないみたいだな。

 少しばかりだが、憂鬱げな顔つきになる小早川さん。言いづらそうに、けれどよく通るいい声で彼は続けた。

 

「その依頼を行う際、メールと電話でコンタクトを取ったのですが……なんと言いますか、会話の8割ほどが救世主の偉大さについてでして」

「え、えぇ……?」

「ああ無論、仕事に関しては真摯に応対してくださいました。いわゆる雑談といいますか、世間話のタイミングにワッと啓蒙の洪水を浴びせかけられたという話なのです」

 

 怖ぁ……あの人は一体何をしているんだ。

 仕事を持ちかけてきてくれた相手に、いくら世間話の延長だからって伝道活動になだれ込むか普通。正気の沙汰じゃないぞって言いたいところだけどあの人、狂信者だったわ。

 

 たぶん、似たようなことをどこでもやってるんだろうなあ。香苗さんが何も知らない人たちに、嬉々として伝道を施している姿が容易く思い浮かべられる。

 そういうのはせめて、ネットの自分とこの配信チャンネルだけでやっていてほしい気がする。いや、人の趣味や生きがいにとやかく言えることでは、ないのかもしれないけれど。

 

「それ以来、藤代さんのシャイニング贔屓とは別に、個人的な関心がありましてね。あの御堂香苗さんをしてそこまで心酔させるシャイニング山形とは、一体どのような御仁なのか、と」

「はあ……その、お眼鏡には適わないかと存じますが……」

「まさかとんでもない! いやむしろ、なるほどと納得しましたよ。シャイニング山形、いやさ山形公平さんはたしかに、一廉の人物であるとね」

 

 そう言って真っ白に輝く歯をくっきりと見せて、爽やかというか濃い笑みを浮かべる小早川さん。

 一廉の人物なんて言いすぎだと思うけれど、まあ褒められて悪い気はしないから、そう言ってもらえるんならありがたく頂戴しておこう。

 にしてもこの人、なんか色々濃いなあ……




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