【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
学生の身分でダンジョン探査者になる人は、世界規模で見てもそう多くはない。
最低でも週一回の踏破が義務付けられている以上、スキルを獲得したら年齢を問わず──とはいえあんまり幼いと免除されるとは思うが、前例がないので分からない──探査者としてのロードを歩まなくてはならない。
そうなってくると必ずと言っていい程に付き纏ってくるのが、学業絡みの問題だ。いかな大ダンジョン時代とはいえ、探査者だけ学業免除とは当然ならない。
進学の際に推薦枠は得られるが、それにしたってそれなりに成績をキープしてないと始まらない話だ。
そもそもサボりすぎると留年なんてことさえあり得るのだから、どうあれ探査者にとっても普通の学生同様、学問ってのは鬼門なわけ。
つまり。何が言いたいかと言うと。
探査者という特殊な立ち位置にあっても、授業はしっかり受けないといけないってことだ。
「はい、ここは今度の中間テストに出るからなー。よく覚えとくようにー」
先生が、大して上手くない字をチョークで黒板に書き込んでいくのを、俺はせっせかとノートにまとめている。今は数学の時間なんだが、俺は特に数字に弱いもんだから必死だ。
もうすぐ5月。GW直後には高校生活最初の関門、中間テストが行われる。だからもちろん、クラスメイトのみんなもそれなりに頑張っているんだが、中でも俺の火の付き方はすごいと自負するところだ。
「山形くん、燃えてるね〜」
「そりゃあねえ。あいつ探査者だから、他の生徒より勉強時間削られてるし。GW中も仕事、いっぱいしたいんだってよ」
「なるほどね〜。頑張り屋さんだぁ」
小声で俺の隣、松田くんと更にその隣の席の木下さんが話しているのを聞き取る。授業中だぞ私語は慎み給えー、先生が若干、君たちのことをちら見してるぜー。
そう、俺は探査者だ。新米で級も低いけど、それでもダンジョン踏破にはそれなりに意欲もある。
GW中なんて、友人たちや香苗さんと遊びに行くのもそこそこながら、それ以外は基本的に近隣からちょっと足を伸ばして、隣県にあるダンジョンをも踏破して回ろうかというくらいの気持ちでいるのだ。
なので正直、中間テストに向けての自習は最低限に切り詰めたい。それゆえ今、こうして授業中になるべく頭に詰め込んでるんだな。
遊びか仕事を削ったらどうか、という意見もあろうとは思う。けど遊びの方は単純に削りたくないし、仕事の方も、俺には早々に成し遂げたいことがある。
わがままだなあと我ながら思うけど、逆にこれで、何とか成績をキープできればこっちのもんだ。学業不振を気にする家族を、安心させてもやれる。
──そこまでして成し遂げたいこと。一言で言えばそれは、リーベだ。
早くレベルを上げて300になり、リーベをこの世界に出現させなくてはならないのだ、俺は。
システム側の存在であり、アドミニストレータやオペレータ、コマンドプロンプトなど大ダンジョン時代の舞台裏の事情に詳しい彼女を表舞台に引き摺り出して、今何が起きているのか、俺に何をさせたいのかまで詳らかにさせる。
できればシステムさんの正体にまで手を届かせたい。それが目下のところ、俺の最大の目的となっていた。
『まあ、リーベちゃんがこの世界に実体を伴って現れるってこと自体が、一つのトリガーみたいなもんですからねー。漏れなく話しますけど……そこまで熱烈にアプローチされちゃったら、リーベちゃん照れちゃいますよー!』
相変わらずのテンションで、どこか意味深なことを言うよね、この精霊知能さんは。
ていうか授業中なんで。頭の中で喋るのは止してくれ、気が散る。集中したいんだ。
『はーい。頑張ってくださいねー』
素直に黙るリーベ。こいつ、これで案外、人の言うことは聞いてくれるんだよな……都合が悪い話になるとしらばっくれるところはあるけど、それもリーベだけの意志じゃなさそうだし。
最近慣れてきたからか、少しずつ脳内コミュニケーションは進んでいっている。結構楽しいんだよな、リーベとの話。
打てば響くっていうか、波長が合うところがあるっていうか。そこまで考えてシステムさんは、リーベを俺に遣わしたのかもしれない。何でもありかよ。
「──ここの公式もテストに出るからなー。応用も含めて押さえておけよー」
「あっ、やべ」
いかんいかん、つい物思いに耽りがちだ。俺ちゃん生粋の国語しか自慢できないタイプの子だから、特に英数字が並ぶと意識が明後日行きがちなのよね〜。
シャーペンをノートに走らせる。あー、このあと英語やって昼食って、5時間目は理科で6時間目に道徳やって終わりかぁ。明日は水曜だし5時間目までだったな、たすかるー。
そういえば隣県の組合本部ってどんなんなんだろう? 香苗さんに聞いておかなきゃな。現地ルールみたいなのがあったらそれを守らないと、面倒ごとは関口くんだけでお腹いっぱいだ。あ、備品もまた調達しに行こうかな。もうちょっと良い防具も買わないと。わくわく。
……………………
『ぜんっぜん、集中できてないじゃないですかー』
うん、そうだね。今のは俺が悪かったね。
今度こそ集中して、俺は先生の話に耳を傾けた。