攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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どんなものにも名前があれば、どれ一つとっても意味はあるもの

 進行するスライドショーには続々と、モンスターの画像と詳細が映し出されていく。

 珍妙な名前をつけられたモンスター、つまりユニークモンスターばかりだ。さきほど例として挙げられた妹尾教授の名づけたモンスターもいくらか、スクリーンに表示されていた。

 

「はつらつゴボウ、なまけクマ、ねむりキリンなど。モンスターの見た目から連想できる既存の名詞と、そのモンスターの動作に関わる形容詞とを組み合わせて、ファンシーな言葉で表現したものが多いのが、妹尾博士の命名の特徴ですね」

「名前からは愛らしかったり、あるいは弱そうだったりをイメージされるかもしれませんが……実際はいずれのモンスターも凶悪です。なまけクマはなまけていなければA級相当のクマ系モンスターで、はつらつゴボウとねむりキリンもD級ですからね。人間一人くらい、容赦なく殺せてしまうモノたちです」

 

 グループの代表男女の説明。俺でも知ってるようなモンスターを絡め、妹尾教授周りについても話が展開していく。

 なまけクマは俺も遭ったことあるな。たしかクマ系は基本、AだのBだの上級モンスターであるはずなんだけど、なまけクマだけは名前どおりなまけた生態のせいで格段に弱く、まさかのE級相当のモンスターなんだ。

 

 何ヶ月か前に潜ったダンジョンでそう、たしかダブルアームスープレックスをかけた記憶がある。

 気怠そうな悲しげな表情が印象的だった。後日ゲームセンターの景品によくあるモンスターぬいぐるみのラインナップに、デフォルメされたなまけクマを見かけた時はそういう需要もあるのか! と感心したもんだ。

 

「さけびザルやいかりイノシシ、かなしみネズミなども法則上、妹尾教授の一派によるネーミングです。教授の名づけに影響を受けたとされるフォロワーが名づけたと、記録には残っています」

「もっともそれらが発見されたのは20年前で、教授が探査者として活動されていた80年前とは開きがありますけれどね。そもそも教授自身、60年前に鬼籍に入られていますので、あくまで近代のフォロワーによる名づけというわけです」

 

 妹尾教授、80年前をメインに活動していたんだな。マリーさんよりいくらか上の世代だな。香苗さんのひいおじいさん、将太さんと同期くらいかもしれない。

 場合によってはマリーさんもご存知かもしれないのか、妹尾教授を。あるいはソフィアさんやヴァールは、かつての知己でしたなんて言い出してもおかしくないしね。

 

 ていうか何より、その教授にフォロワーがいるのが一番驚きだよ。なぜによりによってネーミング方面で後追いが出るかなぁ……しかもさけびザルだのかなしみネズミだの、どいつもこいつも遭ったことある連中ばかりだし。

 あいつら発見されて20年そこそこなのか、まあまあ年季あるよな。

 

 ちなみにだけどモンスターは今現代においても未だ、新種が年に数十種単位で発見され続けていて、現時点での総数はもはや5000種にも届きかねないほどだ。

 そんなにいるのかよと呆れる思いだけど、モンスターの形貌のモチーフはこの世界と、邪悪なる思念と三界機構それぞれの元々の世界における動物やら伝説上の存在だからね。

 世界5つ分も元ネタがあるんだ、何千種類あったっておかしくはないよな、そりゃあ。

 

「さておき、大ダンジョン時代初期におけるユニークモンスターとは、このようにモンスターの外観に似たモノの名詞と、言動の様子から当て嵌まる形容詞を組み合わせ、柔らかな言葉を用いて名づけられるパターンが多かったのです」

「ちなみに当時、このような命名を行っていた妹尾教授は批判の対象にされがちでしたが、それらに対して先の名言にて反論していたとの記録があります。ユニークネームモンスター学の始祖らしい、堂々たる弁明ですね」

「えぇ……?」

 

 思わず小声で呻く。ユニークネームモンスター学って何それ怖ぁ……一つの学問分野になってるのかよ。

 そして先の弁明って、トンチキなんだからトンチキに呼ぶよ的なアレか。弁明っていうか開き直りのような気がするけど、まあ堂々とはしているかな。はつらつゴボウあたりは悪ふざけの領域に思えなくもないので、批判されてもしょうがない気はちょっぴり、しなくもないけど。

 

 次の資料が表示される。またしてもモンスターの画像だが、記されているそれらの名前はさっきの、妹尾教授製のものとはまた毛色の違う感じだ。

 "燃え盛る灰"という名の灰色の猫。"絶対零度の氷河"という名の青色のゴーレム。"引き裂かれた樹林"という名の、これは、大木? これまたなんというか、個性的なネーミングだ……遭遇したことがないな、こんなモンスターたち。

 

 参加者たちにとってもあまり馴染みのないモンスターたちのようで、若干のざわつきが見受けられる。

 そんな聴衆を落ち着かせるように発表者たちは、気持ち大きめで話を続けた。

 

「今、表示しましたのは妹尾教授の命名を受け、一部の探査者たちの間でムーヴメント的に散発した、ユニークネーミングの一例です。ユニークネームモンスター学においては、先の妹尾教授の名づけを"命名派"と呼び、そこから派生するこれらの名づけを"詩吟派"と呼んでいます」

「最大の特徴はやはり、詩吟と称されることからもわかる叙情的な表現法でしょう。命名派の形容詞と名詞の組み合わせという形を踏襲しつつ、より文学的な形でモンスターの特徴を表現していますね」

 

 若干得意げに語るけれども、命名派だの詩吟派だの言い出したよ、ちょっと。

 なんだろう、モンスターの名前をつける行為に派閥が生まれてるよ怖ぁ……ていうか学問の分野になってるって、言語分野での話かよ!




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