【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
どうやらユニークモンスター界隈というのは、命名派の妹尾教授に端を発し、時代を経るにつれて様々な表現の方向性に派生し、今ではそれぞれの派閥があるらしい。
モンスターに名前をつけるってだけでなんてことになっているんだと思わなくもないけど、正直、結構聞いていて楽しかったりする。
発表資料やプレゼンテーションの内容がいいことももちろんあるだろうけど、俺というコマンドプロンプトの興味がひどく唆られているというのが大きいと思う。
オペレータが実際に、大ダンジョン時代のメインプレイヤーとして活躍を続けて100年。システム側にも予想のつかない方向に様々な影響が及ぶとは考えてはいたが、まさかのネーミング学会とはあまりにも予想外で楽しい。
モンスターの特徴を表現して名づける行為一つにも、派閥が発生するとは……人間の外連味というか、知性体の奥深さをひどく堪能している気分だ。
隣でリーベが、めっちゃ笑いを堪えながらスクリーンを見ている。あるいはワールドプロセッサもこの発表を見ているのならば、楽しく眺めているに違いないね。
そのくらいシステム領域のモノからすれば、面白い題材の発表だった。
「詩吟派はユニークモンスター学においてはそこまで目立つ派閥ではありませんが、この詩吟派から一気に世界中に……と言っても、あくまで世界各地で活動する探査者たちの、ごく一握りの層にですが爆発的な広まりを見せました」
「その意味では命名派と併せ、学会における黎明期として扱われることも少なくありませんね」
「大層ですねー……」
解説を受けてリーベが呟いた。
まあたしかに、それだけの歴史があるからこその物言いだと思うんだけど黎明期ってのはなかなか、すこい言い回しだ。
当然、当の本人たちは大真面目なんだろう。当時の妹尾教授から今に連なる名づけ界隈の人たちも、そうした流れを研究する人たちも。それを茶化すつもりは一切ない。
ただ、どうにもシュールな雰囲気が漂っているように思うってだけだ。実際、会場の空気もどこか緩い。なんなら当の発表者グループ側もそれを見越して、ちょっと声色が軽いしね。
取り組みへの熱意はともかく、一般的にはコメディ調な分野であるように思われていると、そういう自覚があって合わせているのかもしれない。
いずれにせよこの発表会においては、軽いノリで楽しむのが正しい姿勢のようだった。
「そうした黎明期を抜けてからの、今を遡ること約70年前。ユニークモンスター界隈には多種多様な派閥が生まれ、以降、様々なユニークネームモンスターが世間一般に確認される機会が増えました」
「……とはいえもちろん、当然ながら圧倒的大多数の探査者は新種モンスター発見時、外見的特長に則った名づけを行っています。それは昨今の探査者界隈を見ても、言うまでもないことですけれどね」
肩をすくめて残念そうに笑う発表者のお兄さん。隣でお姉さんも苦笑いを浮かべている。
普通のネーミング……こないだのアーマー系とかゴブリン系とか、リッチみたいな。既存の物事に当て嵌めた簡潔な名づけをされたモンスターたちのことだろうな。
話を聞く限りその普通のネーミングに、動作から読み取れるニュアンスを形容詞としてくっつけたのが妹尾教授の命名派ユニークネームって感じか。そしてそこから詩吟派に発展し、さらに様々な様式へとツリー状に伸び広がったと。
「黎明期は詩吟派の台頭、そしてそこから世界各地へと伝播したユニークネームブームを受けて、国内においてもいくつもの派閥が生まれました。それではこれから、例をいくつか挙げていきます」
次の資料が映される。"国内における10年前までのユニーク・ネーミング・ムーヴメント"などと題されていて、その下にいくつもナントカ派、カントカ派と書かれてある。
ズラッと並べたな、ここに来て。眺めているうちにも解説が始まる。
「"赤く隆々たる腹の蝗"、"黒く濁る瞳の太刀魚"など、モンスターの外観の中でも際立って目立つ部分にクローズアップしたネーミング傾向にある自然派。"蜃氣楼に潜む蜥蜴"や"鋭角砲雷柴犬"など、モンスターの能力に着目して表現した浪漫派。ともに詩的表現にこだわりを見せた、文学的な方向性の派閥です」
「"背部上段右肩付近蜥蜴"、"頭部触覚揚羽蝶"などの、モンスターの外観における脆弱部、すなわち弱点をダイレクトに示すネーミングの無骨派。"爪落とし"、"胃袋残し"など……倒れたモンスターが稀に落としてくるドロップアイテムをそのまま名づけに流用した、無頼派などもいます」
ズラズラと派閥ごと、特徴的というか悪ふざけみたいなネーミングのモンスターがわんさと出てくるなあ。
いや、さすがに無頼派はおかしいんじゃないのかいろいろって思うけど。素材も探査者にとって重要な資金源である以上、そういうネーミングも仕方ない、のかな?
「なお"翼の醤油漬け"、"肝のつくね串"など、素材をどう調理すれば美味しくなるかをユニークネーミングという形で示そうとした探査者たちもいました。一部のモンスター食愛好探査者が無頼派と合流する形で10年前に派生した、美食派と呼ばれていた一派ですね」
「さすがにそこまでいくと悪ふざけがすぎたようで、派生半年でWSOと世界各国の全探組による憲章レベルでの規制が入り、あえなく解散となりました。美食派由来のユニークモンスターはわずか30種程度に留まりましたが、それゆえレアなモンスターとして愛好する方も多いとか」
「それまで割と自由だったネーミングに著しい規制がかけられたこともあり、学会での美食派は永久追放処分を受けています。残念ではありますが、当然の話ですね」
「えぇ……?」
そんな歴史を語られましても……
モンスター食愛好家、というと俺的にはランレイさんが思い浮かぶわけだけど、その手の人たちとユニークモンスター学会、一悶着あったんだな。
変なところで点と点が繋がるよなあ、この界隈。
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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています
WEB版において揺れたりブレたりしていた口調設定その他諸々を統一、言い回しや各シーンをより良い形で加筆修正を行いました
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