攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
なかなか興味深く、しかし同時に聞いていてやたら疲れる研究発表を終えて、小早川さんが再び小休止のアナウンスを入れた。
15分後空けて、次の研究発表を行うのだ。今度はたしか、世界の探査者関係の組織についての説明だったか? さっきみたいな狭くともディープな界隈の話でなく、広い箇所を浅くながらもカバーするないようなのかもしれない。
「面白かった! いろんなヘンテコモンスター、蹴ってみたい!」
「け、蹴ってみたいかどうかなんですねー、基準」
「もちろん! 星界拳はとにかく蹴れそうかどうか!」
ふんすふんす! と息も荒く、何もない虚空に目で追えない速さで二、三と蹴りを放つのはリンちゃん。空気の壁を突き破る炸裂音がキックの数だけ重なって響き、講堂内にいる人たちをなんだなんだと驚かせる。
休憩中の今、またもゲストの3人は俺たちのところに来ていた。優子ちゃん、新島さん、宮野さんはお手洗いで席を空けていて、さきほどの休憩時とは反対に宥さんとリーベ、逢坂さんがここに残っている。
ベナウィさんが穏やかな笑みを浮かべつつも、さきほどの研究発表を振り返って言った。
「ユニークネームモンスター……私も何度かは鉢合わせた経験がありますが、名前はともかく普通のモンスターでした。珍妙なのはネーミングのみなので、過度に期待すると拍子抜けするかもしれませんよ、ミス・フェイリン」
「え……そうなの? ヘンテコじゃない、の?」
「私も数度見かけましたが、そこまで奇抜なモノではありませんでしたね」
香苗さんも併せ、二人からの忠告というかアドバイスに、リンちゃんの昂りが一気に萎えていくのがわかった。ガッカリしすぎじゃない? どんだけヘンテコな見た目のモンスターを蹴りたかったんだろう。
というか、さすがS級探査者だけあって経験豊富だよね、お二人とも。ユニークネームモンスターは俺も何回か戦ったことはあるけど、断言できるほど知見があるわけじゃないからすごいなって思う。
「なーんだ……」
唇を尖らせるリンちゃん。なんていうか年相応に幼気な動作だけど、内容としては珍しい生き物を蹴り殺せないのが残念というものなので、よくよく考えたら背筋の凍る話ではある。
リンちゃんがどれほどの実力者かをよく知る俺や香苗さん、リーベにベナウィさんは愛想笑いを浮かべた。宥さんと逢坂さんは微笑ましいものを見るような目だけど……星界拳士のヤバさを知れば、同じ感じになるだろうなあ。
と、星界拳士といえば。
俺はリンちゃんに、物騒な話題の転換をしがてら質問した。
「そういえばリンちゃん。この間ランレイさんとダンジョンに潜ったんだけど……あれからどうしてる? 元気にしていらっしゃるかな」
「! そうだ、姉ちゃん!!」
先日、ともにダンジョン探査をさせてもらったリンちゃんのお姉さん、ランレイさん。アンジェさんともどもあれから直接の音沙汰はなかったのでどうしてるかなと尋ねたところ、すぐさま反応された。
機敏な動きで拱手。俺と、あと香苗さんに向けて頭を下げて彼女は一礼してみせたのだ。
「謝謝! その節は我が姉、星界拳士シェン・ランレイが大変、お世話になりました。星界拳正統継承者として、山形公平さん、御堂香苗さんのお二方に厚く、御礼申し上げます!」
「えっ、ちょっ」
「そ、そんな大袈裟な」
二人して慌てる。正直、香苗さんはともかく俺はそこまでランレイさんの力になってなかったんですけど。
むしろ、ランレイさんがぶつかっていた壁を乗り越えるにあたっては、ヴァールこそが非常に大きな役割を果たしてくれたように思う。
なにしろ《鎖法》の仕様から《闇魔導》の分身なんて発想に行き着いたわけだからね。対になるスキルという点で香苗さんの《光魔導》もモチーフになってそうなあたり、香苗さんもだいぶ貢献してたろうけど、俺はといえば全然だ。
そのへんの経緯を踏まえて、そこまで大仰に言わなくていいよと俺と香苗さんは言ったんだけれども。
リンちゃんはそんなことはないと首を横に振った。
「姉ちゃんは、いえランレイは、新たなるスキル《闇魔導》に目覚め、独自の流派・双魔星界拳を拓きました。間違いなく、お二人とダンジョン探査をして、至れた境地だと思います」
「まあ、《闇魔導》については……」
「あのタイミングだからこその習得、なのかもしれませんが……」
「ですから、お二人に御礼を。壁にぶつかってずっと、苦しそうにしていた姉ちゃんを、助けてくださってありがとうございました。姉ちゃん、本当に喜んでいました!」
再度頭を下げる。リンちゃん、ランレイさんのスランプを心配してたもんな。香苗さんにも助言をと頼み込むほどなんだし、やっぱり妹として姉のことを気にしていたんだろう。
それを思うと、ランレイさんがあのダンジョンで無事に覚醒できて本当によかったと思うよ。香苗さんも同じ思いみたいで、微笑みとともに言葉をかけていた。
「彼女は自力で壁を突破しましたが、そこに至るまでに私たちがお力添えできたというのならば何よりです。貴重な経験をいくつもさせてもらって、こちらこそありがとうございました」
「俺からもありがとう、リンちゃん。ランレイさんはすごいお人だったよ。さすがは星界拳士だ」
俺も続けて労うと、リンちゃんは誇らしげに笑い、そして頷いてくれた。
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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています
WEB版において揺れたりブレたりしていた口調設定その他諸々を統一、言い回しや各シーンをより良い形で加筆修正を行いました
また書き下ろしで山形の中学生時代の話も掲載しております
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