攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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寝ちゃだめだ、と思えばさらに、眠くなる

 探査者関係の組織、俺が思っていた以上にいろいろあるんだな……と、いうのが率直な感想だ。

 まあ考えてみれば当たり前で、いかに世界最大級の組織であろうWSOとて、経済だの労働環境だのなんだのかんだの、一元して管理なんてできるわけがないんだ。

 各分野に細分化した組織を傘下にし、それらを取りまとめるという色合いの組織になるのは納得できる流れだった。

 

「全国探査教育文化教養推進機関。こちらは探査者すべてに対して行われる、各種教育や指導について各国に推進していく組織です。探査者の方であればわかるかと思いますが、新規探査者教育などですね。全探組が行っている教育内容も、元を辿ればこちらの組織が制定したものになります」

 

 次いで発表された資料とともに、発表者であるお兄さんが解説し始めたのは教育分野の関連機関だ。なんと俺にとってもやたら印象深い、新規探査者教育にも関わる組織なのだとか。

 懐かしいような、真新しいような。春に受けたあの教育から、思えばすべてが始まったような気がする。もっと言えばはじめてスキルを得た時の記憶も併せて、よくも悪くも記憶に残っているんだよなあ。

 

「懐かしいな、4ヶ月前くらいでしかないのに……」

 

 小さく小さく独り言ちる。忘れもしないあれはそう、中学卒業日の夜だった。

 今日から春休みだわーい! ってウキウキ気分で風呂に入ってたら、いきなり頭の中に声が響いて、俺はびっくりして足を滑らせたんだ。

 そのまま湯船にドボンして、溺れかけたのである。

 

 今となっては我ながら、なんてアホらしい話なんだと思わざるを得ないけど……一人で湯船に肩まで浸かって、鼻唄なんて歌っている時にそんな声が聞こえてきたらパニックになるよね、普通。

 

 どうにか家族に助けられつつ、俺は自分がスキルと称号を与えられた、すなわち探査者であることを自覚したわけなんだけれども。

 その後、せっかく受験も終わったしひたすら遊び呆けてやる! と意気込んでいた春休みを、新規探査者教育で完全に費やすことになってしまったことも含めて、どうにも忘れ得ぬ記憶になっているわけだった。

 

「春休みをものの見事におじゃんにしてくれたのは、元を辿るとここに行きつくんだなあ。ええと、全、全国探査?」

「全国探査教育文化教養推進機関、ですね公平様。正直、覚えている必要は一般的にあまり、ないような気はしますけど」

 

 さっきお兄さんが言ってたし、なんなら今だってスクリーンに表示されている組織の名前を言い淀み、宥さんにフォローされる。

 何してんだ俺と言いたいところだけど、こればっかりは仕方ない。だって長すぎるんだもんよ、組織の名前。

 

 全国探査教育文化教養推進機関、とやらが正式名称のようだが……長いよ名前が。ただひたすらに長すぎる。

 略すと全探教となるそうだけど、いかんせん全探組と字面の3分の2が被っている。どっちが頻度高く使う名称か、なんて考える間もなく全探組のほうがまだ覚えていられる始末だ。

 

 なんかこう、暗記のコツとかないのかなと思う。

 そんな俺ちゃんをよそに、お兄さんが相変わらずの堅苦しいトーンで続けて言う。

 

「主な目的は無論、探査者がその活動に従事するにあたって必要な事項を教育指導するにあたっての取り決めやカリキュラムの制定などです。また、大ダンジョン時代の歴史の中で培われた文化や伝統を後世へと伝える活動にも取り組んでいます」

「うーむ……」

「? どうされました、公平様?」

 

 思わず唸る俺に、宥さんが顔を覗き込んできた。

 いやまあ、大したことじゃない……話が長い上に堅苦しい話し方だから、どうにも理解を追いつかせるのが大変なだけだ。

 

 さっきのグループの発表が非常にユニークというか、ツッコミどころが多かったゆえってのはあるんだけれども。

 今回の発表は資料も細かい文字がずらずら並ぶし、使われる単語や用語も真面目そのものだし。話し方もめちゃくちゃ堅実というか、落ち着いてるのが逆に眠気を誘う感じだったりする。

 

「……………………ぐう」

「すやぁ…………」

 

 隣を見ればリーベが、さらにその向こうには優子ちゃんがそれぞれ、船を漕ぐ段階を飛び越えて夢の世界に旅立っている。

 さらに向こう側の席には新島さんや宮野さんもうつらうつらしている始末だ。

 

 君たちなあと言いたいところではあるけれど、まあ正直気持ちは結構わかるのでなんとも言いづらい。

 優子ちゃんにしろリーベにしろ、このへんの話に興味を持つかといえば、持たないだろうしね。新島さんや宮野さん的にも、先のユニークネームモンスター絡みの話に比べると難しいから、ついつい船を漕ぐってのも仕方ないのかもしれない。

 

「ふふ。みなさんちょっと、お疲れみたいですね」

「そうみたいです」

 

 苦笑いする宥さんに、俺も小声で応える。見ればちらほら、似たような感じの聴衆はいて。

 まあ、せめて俺はちゃんと聞いておこうと思い、なんとなく居住まいを正すのだった。




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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています

WEB版において揺れたりブレたりしていた口調設定その他諸々を統一、言い回しや各シーンをより良い形で加筆修正を行いました
また書き下ろしで山形の中学生時代の話も掲載しております

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