【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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イメトレだと、イメトレだとバッチリだったのに!

「たっだいま〜」

「おっかえり〜」

 

 勉強終わって放課後。今日は友人たちと遊ぶことなくストレートに帰宅した。気の抜けた声で帰りを告げると、同じく気の抜けた母ちゃんの声が出迎えてくれる。

 居間に行くと母ちゃんと妹の優子ちゃんが、テレビを見ていた。珍しくワイドショーだ、何見てんだ? 好きな俳優でも結婚したか?

 そう思って好奇心から目を向ける。そこには──

 

 

『それではあの光り輝く姿は、探査者としてのスキルだったということですか?』

『アッ、ハイ……す、スキルです……あの、しゃ、シャイニング山形ぁ〜、ナンチテ』

『シャイニング山形……? 聞いたこともないスキルですね、どのような効果なのでしょうか』

『ア、イエ……あの、今のシャイニングはじょ、冗談で、へへぇ』

 

 

 この間マスコミの人から取材を受けた、インタビュー映像が流れていた!

 

「何見てんだチャンネル変えろぉ!!」

「えー? いーじゃんせっかく息子の晴れ舞台なのに、ぷぷぷ」

「そーだよ兄ちゃん、イケてるよ? 言動以外は。ぷぷー」

「鼻で笑いながら言うんじゃない、やめてやめてー!」

 

 ああああ恥ずかしくて死ぬゥー! てかまだこの話題を擦るのかよテレビも、他にやることねーのか!?

 俺は悶絶する。血が吐けるんなら吐きたいくらいだ、リアクションとして。

 

 こないだのスタンピードでシャイニング山形を披露した俺の、宗教チックな動画が夜に出回って少ししてから。組合を通してマスコミが、俺にインタビューを仕掛けてきた。

 やったぜテレビに映るぜヒャッホイ! と、話を受けた当時の俺はそんなことを考えてはしゃいでいたもんだ。何なら、ちょっとカメラ映りのいい角度とか研究して、いい感じの受け答えなんかイメージしてカッコよく言える練習とかしてたくらいには浮かれていた。

 

 だが。いざや出陣、インタビューの場へと赴かん! と現地に行ってから。

 実際に機材に取り囲まれた部屋の中、インタビュアーの、テレビで見たことある人とタイマンであれやこれやと聞かれたら……途端に緊張でガックガクになり、事前練習などものの役にも立たず、頭真っ白の何も言えない状態になってしまった。

 

 その結果がさっきテレビに映っていた、カスみたいな俺の姿だ。穴があったら入りたいとはまさにこのこと、いやもう、穴がなかったら自分で掘って埋まるわ。そのくらい見ていられない。

 素人だからと見逃せる範疇を遥かに超えている。普通に放送事故だよワイプの人たち苦笑いしてんじゃん。ていうか普通に編集しろやテレビマンども、純度百%のテンパリ山形をそのまま映してるんじゃない!

 

「いやーあんたすごいわ。これを全国に流すなんて」

「私の同級生、みんなも見てたって。可愛いって言ってたよ? シャイニング山形とのギャップがエモいとかって」

「何がだよう!!」

 

 あれのどこにエモーションを動かされる要素があるんだ! キモカワイイマスコット的ならまだ分か、いや分からん! 挙動不審ぶりが我ながら、普通に気持ち悪いわ!

 

 当然ながらこのインタビュー映像はお茶の間に流れ、皆様方の共感性羞恥を大いに煽り、俺は次の日の教室で泣きたくなるほどネタにされた。

 特に男子勢にはものすごーくからかわれ、俺は本気で顔から火を吹く思いだった。佐山さん筆頭に女子が庇ってくれたのだが、それすら恥ずかしい。

 

 というか、あの時の佐山さん、やんわりと男子を留めながらも結構、本気で怒ってたな。後になって散々、愚痴を聞いた。

 なんでも彼女的には命の恩人が笑いものにされていることが我慢ならなかったとのこと。うん……なんだろう、ありがたいけどそんな、思い詰める話でもない気もしている。

 

 俺は探査者だ。ダンジョンを踏破するのが仕事で、そこには必然的にモンスターを倒すことも含まれている。

 そして探査業の社会的な役割ってのはこれはもう間違いなく、人々の暮らしを、突然ポッカリ穴が開く怪現象から極力守ることであり。

 その延長にあるスタンピードにおいて、モンスターに襲われている人たちがいるなら……俺たち探査者は命を懸け、すべてを捨ててでもそれを食い止めるのだ。それも仕事だし、使命でもある。

 

 つまり当たり前の事をしただけなのだから、気にしすぎないでほしいと。今後も、何があってもダンジョンからあなた達を守りますと。

 そう言ったら余計に心の何かに触れちゃったみたいで、身を寄せられて抱きしめられてしまって、すごく嬉しかった。

 いい匂いした。柔らかかった。いろいろ、危なかった。

 

 《お願いだから自分を大事にして、山形くん……! 仕事だからって、使命だからって、そんな、そんなこと……! 》

 

 

 とまあ、まるで自己犠牲系ヒーローにでもなった気分になるくらいの気の使われようだ。そんなに見てて危なっかしいだろうかね、俺。

 それはそれで結構複雑なんだけども。

 

 いや、あるいは。もしかして、俺、佐山さんから結構好かれてる?

 いやいやそんな、まさかまさか。でも、もしそうだとして、間違いなく単なる吊り橋効果な気もしているけど。あんな可愛い子にああいうことされると俺、すぐその気になりそうだよ。

 

 それを考えると、気持ちは嬉しいけど──ほら。これだよ。

 ちょっと女の子に優しくされるとコロッと思い込んで。ちょっと自意識過剰すぎん?

 自分の、あまりの免疫のなさに苦笑いを浮かべた。


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