攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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山形は一人だと10倍だ。10倍だぞ10倍!

 舞台の広さは一般的な、ボクシングやプロレスのリングよりは倍近く大きく、一辺10m程度でロープなどはない。

 つまりは舞台から落とされたらそのまま場外ということで、どちらかといえばそのへんは空手とか柔道の試合場に近い気がする。

 

 そんな舞台の中央、俺とリンちゃんは対峙していた。

 周囲にはある程度距離をおいてイベント参加者たちが見守っていて、俺の緊張感を煽る──こんな衆目の中で戦う機会、滅多にないし。スタンピードの時以来じゃない?

 一方でリンちゃんはすっかり集中しきっている。このへんはさすがにプロフェッショナルの武術家で、精神的なスイッチのオンオフについても俺のはるか上をいっているみたいだ。

 

 戦闘歴わずかに4ヶ月だからね、こっちは。そのへんはもう仕方ないけども。

 だからといって勝ちまで簡単に譲るつもりはない。俺は最後に藤代さんに確認した。

 

「互いにやり過ぎないよう、特殊な装備をつけるんですよね? 藤代さん」

「はい。クリーンヒットした場合の威力軽減を目的に、お二人には演習用のグローブとシューズを着けていただきます」

 

 そう言って俺たちに、それぞれのサイズにマッチする手袋と靴が渡される。

 見かけは普通の手袋と靴だが……着けてみると一目瞭然に、分厚く柔らかなクッションが手足を覆う感覚を覚える。明らかに通常の感触じゃないな。直感的に、この状態での攻撃は相当威力が減衰すると確信できる。

 リンちゃんが不思議そうに呟いた。

 

「これ……ありえないくらいやわこい。モンスターの素材?」

「はい。これはA級モンスター、エアリアルハイパークッションザムライのドロップするエアリアルハイパークッションで製造されている、探査者の模擬戦闘には欠かせない逸品です! 現在発見されているあらゆる物質の中でも特に、衝撃吸収材としての価値を見出されているんですよ!」

「なんて?」

 

 エアリアル、なに? 侍?

 意味不明な単語の羅列を耳にした気がする。見ればリンちゃんも耳を疑う素振りをしているね。

 もう一度聞いてみる──エアリアルハイパークッションザムライ。侍の姿をした、全身が打撃斬撃完全無効のエアクッションでできているモンスターらしい。

 

 どういうことだ。ユニークネームモンスターの一種かな?

 あまりにもあんまりなネーミングに一瞬、午前の部に受けた発表を思い出す俺だ。

 さぞかし柔らかそうな見た目をしたお侍様なんだろうなあ。想像して、俺もリンちゃんも微妙な顔を浮かべる。

 

「え、ええと。まあとにかく、これだけ威力を減衰してくれそうなものがあるなら、多少攻撃が直撃しても──」

「しぃぃぃぃぃぃやぁぁぁっ!!」

 

 気を取り直して、安全性の担保された装備に対してホッとして、安堵の吐息を漏らそうとした矢先だ。

 リンちゃんの叫びが轟き、その右脚が唸りをあげた。

 

 その剛健たる肉体と類稀なる才覚、そして星界拳という強力極まりない技法を持って放たれる蹴りは、たやすく空気の壁を貫き破る。

 消える右脚。そして破裂音、いやさ炸裂音だけが続けて響く。同時にショックウェーブが、肉眼にも見えるほどにくっきりと宙に刻まれていった。

 

「──ふう。威力は相当落ちそう。けど、問題ない。いつもどおりに動ける!」

 

 やがて連続しての蹴りを止め、ふうと息をつきながらも自信ありげに頷くリンちゃん。いつもどおりと豪語するだけあって、今しがたの蹴りはそうだね、いつもどおりの星界拳だったね。

 怖ぁ……威力落ちてない気がするんだけど、落ちてるとか嘘でしょ……?

 

「し、神魔終焉結界、来る前に発動しとけばよかったかな……?」

 

 冷や汗がこめかみを伝うのを感じる。

 今ここで結界を発動してもいいんだけど、即日『シャイニング山形第二形態! 恐怖、例の救世主(笑)は変身能力を持つタイプの探査者だった!!』などとネットであることないこと囃し立てられそうなのは目に見えている。主に狂信者その2が爆心地だろう、そーゆーのわかっちゃう。

 

 なるべくこの姿のままで、リンちゃんほどの武術家を相手にしなければならないこの悲しみよ。

 まあ、仕方ない。俺は覚悟を決めて、戦闘態勢に入った。

 

「《風さえ吹かない荒野を行くよ》……そりゃソロ戦闘だしな、発動するか」

「っ……これが、敵として相対した時の公平さん……っ!!」

 

 すっかり馴染んだスキル発動の感覚。すべての能力が10倍にも引き上げられていく、相変わらず雑かつぶっ飛んだバフ効果が俺を強化する。

 リンちゃんが息を呑んだ。向かい合っていたごく普通の山形公平が、次の瞬間には10倍にも強化されているんだから、そりゃあビックリするよな。

 

 とはいえ、マジで全力だとこんなもんじゃないのはたしかなんだけどね。他のスキルの発動について検討していく。

 

「《救いを求める魂よ、光とともに風は来た》は元より、《誰もが安らげる世界のために》も発動は……因果を弄らなきゃ無理筋か。まあ、そこまで発動するとちょっとアレだしな」

「……さすがに全力で来られると、勝負にならない」

 

 悔しげにリンちゃんが呻く。まあ、そこは仕方ない。神魔終焉結界抜きだと我が身を削る必要があるとはいえ、フルパワー山形くんはなんと通常の10万倍の出力だ。

 言い方は悪いけど普通のオペレータに追随される程度ではむしろ困る。邪悪なる思念を倒し切るためにワールドプロセッサとリーベが仕立て上げた、新たな時代のアドミニストレータこそが俺なわけだからね。

 

「正直、今くらいまで抑えてくれている公平さん相手でもどこまで食らいつけるか、そこはわからないけど。可能性があるならば、必ずや蹴り砕いてみせる……!」

「あの。演習だからね? 模擬戦だからね? マジで砕いたりはしないでね?」

「星界拳正統継承者シェン・フェイリン! いざ……参るっ!!」

 

 人の話聞いて?

 やはりゾッとすることを口走りながらも、リンちゃんは一気に飛び込んできた。




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