攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
不意の指圧に意気を削がれた、リンちゃんの両腕を取る。ガッツリ両腕を背面側にホールドして、その頭部を俺の懐に収める。
この状態から放つスープレックスは通称、ダブルアームスープレックスと呼ばれる。人間に近い二足歩行の構造をしたモンスター相手に時折使う、プロレス技の中では割とお気に入りの逸品だ。
「よし、いくぞリンちゃん!!」
「っ……!」
高らかに叫ぶ。これが決まればたぶん、勝てる気はするけど果たしてどうなるか。
正直、人間を殴りたいわけじゃないからプロレス技でどうにかしたいところだけれど。緊張とともに天高く、逆さ向けにリンちゃんを持ち上げる。
ここからだ! 後ろ向けに、舞台の床へと背中から投げ落とし、叩きつける!
「極まれよっ、ダブルアーム──!」
「──させないっ!」
割と力を込めて拘束している、そんな具合からのスープレックスホールド。けれど、リンちゃんはなおも諦めずに活路を見出した。
投げつける間際、なんとリンちゃんは身体を極端に反らして先に、両足を地につけて踏ん張ったのだ。まるでブリッジのような体勢で、背中から叩き落されるのを寸でのところで回避したのである。
「軟体生物!? マジかよ……!」
「星界拳っ……! ここからがっ、本領っ!! しぃぃぃぃやぁっ!!」
「何っ!?」
驚きを隠せない俺に、リンちゃんは気炎を上げた。ブリッジの状態から思いきり大地を蹴って、無理矢理にでも飛翔したのだ──ダブルアームスープレックスの発動途中だったゆえ、俺と腕を絡ませたままに。
必然的に巻き込まれる形で俺まで天高くに連れ去られる。先程とは逆に、今度はこっちが中空に放り出されてしまった!
「や、ヤバい!?」
「チャンス! 公平さん、覚悟ぉっ!!」
視界が天地逆さにいきなり反転して、混乱する。その一瞬に、リンちゃんはすでに技のセットアップに移行していた。
腕を放し、両足揃えて蹴り飛ばしてくる。全身のバネを使っての威力は凄まじく、ダメージこそ未だないものの、食らうがままに舞台上に背中から叩きつけられる俺。
「く……っ」
まずい。予想外の事態に思わず焦る。
っていうか、想定してたよりかなり身体能力が高いぞリンちゃん。全力だったはずの断獄戦の時より、はるかに動きのキレが増している。
レベルが、高くなっている。直感的に認識のズレを悟り、宙高く舞う彼女へ俺は叫んだ。
「リンちゃん、もしかして相当レベルアップしてたりします!?」
「うん! 災海戦と断獄戦で私、相当パワーアップしてるよ公平さん! 今はたしか、レベル477とかだった!」
「やっぱりぃ!?」
律儀に答える彼女に、予感していた認識不足を思い知る。
しまった。彼女は三界機構戦を経た分、大幅にレベルアップしていたのか!
厄介ごとを全部終わらせた余韻で完全に抜け落ちてた、なんて言いわけにもならない。間抜けなうっかりミスにただただ、顔を引きつらせるしかない。
「そしてこれが、今出せる私のすべてっ!!」
──瞬間。直感的に、嫌な予感を覚える。咄嗟に上空のリンちゃんを見ると、完全にこちらに向けて、大技を放つ構えを取っていた!
「星界拳、奥義ッ!!」
「ちょ、ちょっとリンちゃん!? ストップストップ! さすがにヤバいってそれ!?」
奥義ってガチなやつじゃん! 完全に俺めがけて、必殺技ぶっ放そうとしてるじゃん!
流石にこれは慌てる。今まではかろうじてダメージのない、衝撃のみでやり過ごせてきたわけだけれど……星界拳の奥義なんて技、さすがに《風さえ吹かない荒野を行くよ》さえ貫通して、俺にダメージを与えてきそうな気がする。
「公平さん! これが私の最後の一撃! 極まれば勝ち、凌がれれば負け!! いざ、尋常にっ!」
「リンちゃん……!」
天高く舞い、闘志を漲らせての宣言。
この一撃にすべてを賭けるつもりか。これまでのやり取りで、まともにやってもダメージには繋がらないと踏んでの大勝負のようだが、それにしたって気合十分の様子だ。
それだけこれから放つ技に、全身全霊を込めようということなのだろう。
こうなると、俺としてもその意を汲まないわけにはいかない。立ち上がり、迎撃の準備をする。
どうあれ次が最後の攻防。であればせっかくだ、星界拳正統継承者の奥義に真っ向から立ち向かうのも経験だろう。右手に力を込めて、俺は構えた。
かつて得た称号《すべては荒野を照らすため》の効果、バフを特定の箇所に一点集中できる能力を駆使し、《風さえ吹かない荒野を行くよ》のバフを収束させていくのだ。
青白いオーラが風とともに、右手から腕にかけて纏わるように巻き起こる。先日アンジェさんの称号《死神》が発動した際に放とうとしたものと、まったく同じタイプの技だ。
あの時は《誰もが安らげる世界のために》も極限倍率まで発動させていたから、それに比べると大した威力はないが……それでもリンちゃんの奥義相手に引けを取る気はさらさらない。
見ればリンちゃんも、右足の先端に蒼炎を纏っている。前に三界機構・断獄相手に放った時もそうだけど、星界拳は極まると脚が青く燃えるみたいだ。
互いに青く燃え盛る右腕と右脚。現状放てる最強の技を、俺たち二人はそれぞれ発動していた。
「いくぞ、リンちゃん。これで決着だ……!」
「負けない、勝つっ……星界拳、奥義!」
もはや俺はリンちゃんしか、リンちゃんは俺しか見ていない。勝敗を決する技を今、同時に放つのみ!
頭上高くから炎を纏い、右足から急降下するリンちゃん。稲妻もかくやという勢いのその蹴り技に、俺も渾身の勢いで右手を突き出す。
そして放たれる衝撃波──いや青白く色づいているため、もうはっきりとビームと言っていい。極太の光線が、彼女に向かって放たれる。
「星界っ! 盤古けぇぇぇぇぇぇんっ!!」
「光よっ、風とともに貫けぇぇぇっ!!」
自然と互いに叫び合い。
それぞれの技がぶつかり合って、視界いっぱいをまばゆく照らした。
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