攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「ぐ、う……! や、られた……っ!」
「お疲れ様。どこか怪我、してるところとかない?」
横抱きに抱える腕の中、リンちゃんの悔しげな声がきこえる。
怪我がないかだけ確認すると無言でコクリと頷いてくれた。まあ、威力をとことんまで落としていたから、クリーンヒットって言ってもそんなダメージはないよね。
「さ、最後の奇襲はスキル……? 公平さん、もしかして新しいスキルを?」
「あー、まあね。こないだランレイさんとダンジョン探査した時に獲得したんだけど、聞いたりしてない?」
「なんにも……姉ちゃん、自分の《闇魔導》とアンジェさんの《重力操作》についてばっかり、喋ってたから」
なるほど。道理であそこまで面食らっていたわけだな。
もし《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》の存在を元からこの子が知っていたら、あるいはもう少し展開は変わり、勝敗もわからなくなっていたかもな、これは。
「でも、どのみち結果は結果……隙を突かれて私は体勢を崩した、それがすべて」
「リンちゃん……」
「ま……負けました。公平さん。私の、負けです……!」
それでもたしかに勝敗は決したんだと、リンちゃんは悔しさに震え、それでも敗北を認めた。
ちょっと気遣いつつ、尋ねてみる。
「最後の横合いからの一撃、ちょっとずるかったかな? ああでもしないと決着がつかないなって感じたから、つい使ったけど」
「むしろ、おみごと……! 私、奥義にすべてを込めてたけど公平さんにはまだまだ余裕があったってこと。完敗です……お手合わせいただき、ありがとうございました!」
最後の《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》に思うところがあるかな? と思い、文句くらいは聞かせてもらおうと思ったんだけど……
さすがの潔さだ。むしろみごとと言ってくれるのがありがたくて、俺は微笑み、彼女の礼に応えた。
「こちらこそ、ありがとうございました。星界拳の素晴らしさ、身をもって学ばせてもらいました」
「えへ、えへへ……! 私も久しぶりに人間同士で楽しく戦えて、嬉しかったです! 探査者になってからはもう、里のみんなとも組手もできなかったから……」
「ああ、まあね……」
スキルやレベルを獲得した探査者は、一般人に対して危害を加えてはいけない。それは大ダンジョン時代における絶対のルールの一つだ。
《気配感知》しか持たないリンちゃんだけど、レベルというブーストがかかっている以上、探査者でない星界拳士とはもう二度と手合わせする機会もない。それが寂しいところもあって、人間と……探査者と戦える機会を欲しがっていたところは、あるのかもしれないな。
顔を見合わせて笑う。最初は普通に怖かったし、途中どうなることかとも思ったけれど。こうして笑いあえて終われたんなら、なんだかんだとやってよかったと言ってもいいのかもしれない。
悔しさもそこそこに、それでもリンちゃんは満足げだ。その顔を見て俺も満足だよ、ほんと。
見ればお互い、エアリアルハイパークッションの装備がかなり摩耗している。それほど威力の高い攻撃を、互いに放ちあったってことだろう。
藤代さんに確認すると、ほぼ新品の状態からここまでボロつかせるのかと驚かれてしまった。幸い、イベント中の話なので弁償とかってことにはならないみたいだ。ホッと胸を撫で下ろす。
続々と観客のみなさんも集まってきた。みんな、やたら熱っぽく俺たちを見てくるね。それなりに白熱した戦いだった気がするし、多少でも熱に当てられたんだろうな。
宥さんと優子ちゃん、宮野さんが近づいてくる。リンちゃんを立たせつつ俺は応じた。
「お疲れ様です。いやあ、お見苦しいところも多々お見せしまして」
「そんなことありません! 最高でしたお二人とも!」
顔を上気させて、どこか夢見がちな様子で宥さんが言う。
なんだろう……今にも句読点がどっか行っちゃいそうな気配がする。こんなところで熱弁されるのもちょっとあれだしスルーしとこう、触らぬ狂信者に祟りなしだ。
俺はすぐ、隣の妹ちゃんに目を向けた。
「お疲れ。どーだった妹よ、兄の勇姿は」
「ファンタジー格闘マンガみたいだった。兄ちゃん異世界転移とかするん? てかマジで光ってたしウケる」
「しないよ? ウケないで?」
たしかにビーム出してたのは自分でも、マンガじゃねえかって思ったけれども! 異世界転移は勘弁してくれ、これでもこの世の因果律を司ってるんですー!
とまあ、言っても優子ちゃんは探査者についてはそんなに詳しくないだろうからね。俺とリンちゃんは割と強い方の探査者だと思うんだけど、そういうのも含めていまいち、ピンときてないんだろう。
なんならシャイニングにウケてるご様子だし。つらい。
「お疲れ様です、お兄さん……今日も元気に光ってましたね! 本当に動画そのもののシャイニング山形でしたよ!」
「え? うん、まあ……はい」
「カッコよかったです! 私、苦しむ男の人ももちろん好きですけど、カッコいいお兄さんも好きですよ」
「そ、そう……」
宮野さんが相変わらずの業の深さを見せつけてくる。
怖ぁ……もちろん、なんて副詞を添える言葉じゃないでしょ、苦しむ男の人が好きなんて。
でもカッコいいって言ってもらえたのは嬉しい。ふへへ。
「フゥ~ッ! ふったりともお疲れさぁんウェェェェイ!」
「お疲れ様山形くん、シェンさん。すごいものを見させてもらったよ。まったく大したものだ」
「高木さん、中島さん」
「うぇー、うぇあ? どうも……」
試合中、エールをくれた高木さんと中島さんもやってきてくれた。相変わらずのチャラいパリピ感だけど、今はもうそれが楽しい。
リンちゃんも戸惑いがちに会釈したあたり、高木さんが悪い人ではないとわかっているんだろう。そんな俺たちの反応を受けて、次々に参加者たちから労いの言葉がかけられてきた。
「すげえぞ二人ともー!!」
「キャーッ、シャイニングー!!」
「シェン! シェン!! シェェェェェン!!」
「最高の画が撮れた! これならバズるぞ!!」
なんか録画してたらしい人もいるみたいでそこかよ、みたいな反応もあるにはあるけど、概ね絶賛のようでよかった。
ウケたんならそれが一番。俺もリンちゃんも、なんとなく照れくさく顔を見合わせながらも、お互い笑い合うのだった。
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