攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ドラ息子を見たら竜殺しと思え

 アイと戯れるリーベをよそにソシャゲをしていると、家のインターホンが鳴った。家の前に探査者の気配がするから、たぶん香苗さんだろう。

 今日は彼女と二人きりで探査する予定なんだけど、久しぶりに徒歩で組合にまで向かう手筈になっている。

 たまにはこういうのもいいでしょう、というのが香苗さんの言で、俺としても健康的だし美人のお姉さんと二人で歩けるしで素晴らしいと思う。

 

 ドアが開く音がした。今日はパートも休みだし、母ちゃんが応対してるんだろう。

 香苗さんが家に来るのももう何度目か、すっかり常連さんみたいになりつつある。女性二人、朗らかに話しているのが聞こえてきて、母ちゃんと香苗さんがだいぶ打ち解けているのを感じた。

 

『公平ー! ドラ息子ー! 香苗さんが迎えに来てくれてるわよー!』

 

 と、響く母ちゃんの呼び声。ドラ息子はやめて! 冗談なのはわかってるけど香苗さんの前だし! 恥ずかしいし!

 リーベがプププーと笑いアイもきゅきゅきゅーと真似して鳴く。つらい。仕方なし、さあ行こうかと立ち上がったその時だ。

 母ちゃんに対して香苗さんが、何やら語り始めた。

 

『御母堂様公平くんは決してドラ息子などではありませんよああいえもちろん身内ゆえのいわゆる弄りであることは理解していますがそれでも公平くんがドラ息子という言説に対しては伝道師としてはそれは違いますと言わざるを得ませんそれとももしやドラ息子のドラとはドラゴンを倒した息子あるいはドラゴンを救い出した息子という意味合いでしょうかでしたらその発想はこの伝道師にもありませんでしたさすがは救世主の御母堂様すなわち聖母私などまだまだだと言わざるを得ません』

『公平ー! 助けてー!!』

「今行くーっ!!」

 

 なんてこった、雉も鳴かずば撃たれまいとはこのことか! 母ちゃんが、うちの母ちゃんが聖母にされようとしている! こんな聖母いやだっ!

 ていうかドラ息子のドラをドラゴンと結びつける発想はなかった。あんた何言ってんだと香苗さん相手にでも思わざるを得ない。世のドラ息子のみなさんはみんなドラゴンを倒すなり救うなりしてるのか、怖ぁ……

 

 ともかく慌てて下に降りる。玄関まで行くと、心底困惑してドン引きした様子の母ちゃんに、そんなこと一切関係ないとばかりに句読点を飛ばして長口上を披露している香苗さんがいた。

 たぶん母ちゃんは初めて生伝道くらうのか。ひたすらげっそりしていても当然だよな。いや、そもそも今回のこれは伝道というのとはちょっとニュアンスが違う気がするけど。

 

「──ですので聖母様不肖ながらこの伝道師としては思うのです我ら救世の光がより市民のみなさまに親しみを持っていただくためにはやはりグッズそれもゆるキャラ系グッズが必要なのではないかとそれを思うとやはりかわいいかわいいリーベちゃんにはアイドルとしてのみならずゆるキャラ的マスコットとしてデフォルメされたグッズを売り出していくべきではないかとどう思われますか聖母様リーベちゃんって救世主様の仰るとおり割とゆるキャラっぽい雰囲気があるとは思いませんか──と。公平くん! おはようございます、今日も素敵ですね!」

「お、おはようございます香苗さん……」

 

 何やらリーベを使った計画を企んでる風なことを猛烈な勢いで捲し立てた矢先、俺を見るなりあっという間にいつもどおりの香苗さんに戻る。このスイッチのオンオフなんなん?

 

「ああそれはたしかに。なんかこう、子ども向けのアニメーションに出てくる、いたずら好きな女の子みたいよね」

『お母様ー!?』

 

 そして母ちゃんも母ちゃんで、冗談でも助けてと叫んだ割にはしっかり香苗さんの、句読点が旅立ったあとの怪文書的発言をちゃんと聞き逃さずに反応して答えるし。

 俺の部屋からリーベのツッコミが入った。さしものリーベもマスコットだのゆるキャラだの、あまつさえわんぱくな子どもみたいに言われるのは納得いかないらしい。

 

 俺としてはアイドル扱いのほうがよっぽど納得しかねるんだけど、まあそれは言わないでおこう。また騒ぎだされるのもなんだしね。

 ともかく、香苗さんは来たのだ。俺は母ちゃんに向け、それじゃあと声をかけた。

 

「行ってきまーす。晩ごはんはカレーだって? リーベはともかく優子がちゃんと作れるかどうか、見といてね母ちゃん」

「誰に言ってんのよ、当たり前でしょ? 猫の手もろくに知らない子なんて、一日二日の教育だけじゃ危なっかしくて目も離せないわよ」

「猫の手知らなかったの!? あの子!?」

 

 まさかの発言に驚いて母上を見ると、何やら疲れたように一つ頷いている。ビックリだ、あの子マジかよ。包丁を扱う際には押さえる手は猫の手、なんていう話を、学校でも家庭科とかで習わなかったんだろうか。

 いや、できるできないとかしたいしたくないとかは、そりゃあ個人の主義によるからとやかく言わないけど。そもそも知らないってのはちょっと予想外だった。

 

 見れば香苗さんも困惑している。

 妹ちゃん……この人を戸惑わせるとは、中々やるなあ。




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