攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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油断一秒、怪我一生、ヨシ!

 コーヒーも飲んで落ち着いたことだし、俺と香苗さんも関口くんたちに遅れること10分ほどしてから組合を出た。太陽が雲に隠れっぱなしの空は、夏には珍しくそれなりに灰色模様だ。

 とはいえ今日は降水確率、高くなかったはずだしな……まあ自然界のこと、予測するにも限度はあるけど。

 

「降らないといいですね、雨」

「朝一番に空模様を確認した時点で、なんとなく降らないだろうとは思っていますが……もし降り出しそうなら《光魔導》の応用で傘を創り出せます。問題はありません」

「《光魔導》の出力調整、そこまで細かく行えるんですか……さすがです、香苗さん」

 

 驚くべき発言。本来攻撃用にしか使えないはずの《光魔導》を以て傘を形成できるなんて、やはりすさまじい技量だと言わざるを得ない。

 いざとなれば空間転移の応用で、家に置いてある傘を拝借しようかなと考えていたのでこれは助かる。褒め称えると香苗さんは照れたように頬を染めてはにかんでいた。かわいい。

 

 さて、道中は特に何もない。大橋を渡ってすぐのところに今回潜るダンジョンがあるので、パッと行ってサクッと探査して終わり! という流れになるだろう。

 時間的に考えると、昼前には終わるかな? そしたら近場のレストランなりでご飯を食べて、夕方くらいまで漫画喫茶で香苗さんと二人、漫画を読んで過ごすのだ。踏破報告は帰りしなに行えばいいし、そのへんは急ぐ必要もないからね。

 仕事終わりの一服、ってわけじゃないけどお楽しみな時間が待っているんだ。俄然、やる気が出てくる。

 

「油断大敵ですから、もちろん目の前のダンジョンに集中はしますけど……それはそれとして香苗さんと漫画喫茶ってのは、率直に楽しみです」

「そうですね、私も心が踊ります。公平くんと一緒ならどんなところでも楽しくて嬉しいですけど、趣味に合う場所ならばなおのこと素敵なものですから」

 

 顔を見合わせて笑う。お互い素晴らしい余暇を過ごせそうな予感に、期待に胸を高鳴らせているんだと思う。

 ただ、当然こんな浮かれっぷりのままでダンジョンに挑むことはしない。歩きながらうっすら目を瞑り、俺は意識を己の内面へと集中させた。

 

 瞬間。高揚していた気分や浮かれていた感情がすべて平らになったのを実感する。極めてニュートラルな精神状態だと、凪いだ心を確認できた。

 称号《正しき心はあなたの胸に》の効果、瞑想による精神異常完全回復だ。完全に平常な状態に戻った内心に、この称号効果結構便利だよなーと考えながらも言う。

 

「まあ、まずはお仕事ですからね。浮かれて迂闊なことをしないよう気をつけます。香苗さんも、俺が腑抜けてたら遠慮なく叱ってください。あの家族にしてこの俺ですから、変なところで気を抜くかもしれません」

「公平くんほど真摯に探査に取り組まれている方に、私が口を挟まなければならないほどの慢心があるとは思えませんが……いえ。どんなに意識しても無意識で油断するというのは、誰にでもあり得ますからね。わかりました、お任せください」

 

 念のため、香苗さんにも俺を見張ってもらう。ないとは思うんだけど、念のためね。

 いやー、お恥ずかしながら山形家のちゃらんぽらん2号といえば俺のことだ。父ちゃん譲りのテキトーさは主に私生活と学校生活でばかり発揮されがちだけど、たまーにダンジョン探査でも見え隠れしそうになるから侮れない。

 

 もちろんベナウィさんほどのうっかりじゃないけど、備品の補充忘れとか、あるいは事前調査情報をど忘れするとかは割とやりかけちゃう。

 なんならダンジョンのある地点まで行くのに、なぜか道を間違えてあちこちフラフラしたこともあるし。まあそこに関しては、初めて訪れる入り組んだ構造のショッピングモールの一画に、スムーズにたどり着ける人なんてそんなにいないと思うからノーカンでいいんじゃないかな? って、個人的に思うけど。

 

 ともあれ、油断というのはどんなものにもつき纏う。コマンドプロンプトというかシステム側の存在だろうとそこは変わらない。

 いくらモンスターの危険度が下がったとはいえ、そもそも俺のレベルや実力的に問題のない難度のダンジョンとはいえ。それでも命がけの戦いであることには間違いないんだ。

 調子に乗った挙げ句に足元を掬われたりしたら目も当てられないし、そもそもダンジョンが発生して困っている人がいるのだ。その人たちのことを想うと自然と身が引き締まる。

 

 プロの探査者として、アドミニストレータとして、コマンドプロンプトとして。そして何より山形公平として。

 件のダンジョンは必ず消滅させ、モンスターをこの世の輪廻に還し、大ダンジョン時代のあとしまつに少しでも貢献しよう。そして、回転寿司屋さんが平常どおりの業務を再開できるように努めるのだ。

 

「見えてきました。あそこですね」

「はい。それじゃあお仕事開始といきましょうか!」

 

 大橋を渡り終えると見えてくる、件のダンジョンが発生した店舗。意識してお仕事スイッチをオンに切り替えながら、俺は香苗さんと2人、その回転寿司屋を訪ねて入った。




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