攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
さて、と道を行く。香苗さんの《光魔導》、プリズムコール・ソーラーレイで照らされた今回のダンジョンの構造を観察しながら俺たちは進み始めた。
入り口が落とし穴みたいになっているのが特徴なくらいで、周辺の土地情報を読み取ってもいない、至って普通の土塊のダンジョンみたいだね。
大いに結構な話だ。土地情報を読み込んでいるダンジョンはユニークなものが多くて興味深くはあるけど、探査する上ではどんなギミックがあるかわからない。慎重に道から部屋から隅々まで調べる必要があるので、率直に手間がかかるわけだし。
速やかなダンジョン踏破を行いたい俺としては、こういうごく普通の構造のほうが助かる話ではあった。
「ダンジョン探査をいかに早く行うか、といういわゆる探査RTAにおいては、周辺土地情報を読み取っているダンジョンは鬼門扱いになっていますね。まあ、あの界隈はあれはあれでどうかしているのですが」
「探査RTA……見たことあります、動画で。なんていうか、探査者としてやってることは俺たちと同じなのに、全然違う世界の話に見えましたね」
ダンジョン探査RTA……リアルタイムアタック。文字どおりダンジョンをどれだけ早く踏破できるかを競う、一部の探査者間で行われている一種の競技だ。
よく知らないからなんとも言えないんだけど、モンスターを全部無視して全力ダッシュで最奥へ向かうとか、逆にモンスターを全部倒した上での踏破速度を競うだとか、何やら細かくレギュレーションがあるみたいだ。
探査者のスキルや称号、レベルは元より技術の巧拙、チャートと呼ばれる段取りの組み方等の事前準備エトセトラエトセトラ。
やけに様々な要素が絡まっているからかそうしたRTAとは妙な奥深さもあり、探査者絡みのコンテンツの中では結構、人気のある分野らしいとは聞いている。
歩きながら香苗さんが、苦笑いして言った。
「タイム短縮にすべてをかけるあまり、探査者になった時点からスキルと称号をそれ用にカスタマイズする者までいますからね。《俊足》を持っている探査者は大体RTA走者だ、などと噂すらされているほどです」
「えぇ……? 探査者人生すべて、タイムアタックに振っちゃうんですか……」
「独自の用語や文化も多いようです。なんでもRTAをメインにして探査活動を行った上で、A級まで到達した走者のことを界隈では、トップランカーならぬトップランナーと呼ぶそうです。初めて聞いた時は思わず、笑ってしまいました」
「トップランナーて」
そりゃ笑うよ、ついこないだまで元ネタだろうトップランカーその人だったんだもの、香苗さんってば。
探査者界隈もいろいろいるよなあ、と改めて感心する思いだ。ダンジョン聖教みたいなのもあれば、能力者犯罪捜査官みたいなのもいるし。かと思えばカレッジサーチャーズなんてのもあれば、ダンジョン探査RTAなんてジャンルまで生まれている。
これぞまさしく多様性ってやつだな、と思うよ。
かつてアドミニストレータ一人にすべてを負わせた結果、大ダンジョン時代の到来を招いてしまったシステム側……ワールドプロセッサがその反省として目指した世界とは、このようなものだったのだろう。
なんでもできる一人でなく、それぞれ異なる特色の複数人が無数に集まり形成する社会。そこから生まれる可能性、発展性が、大ダンジョン時代のメインプレイヤーたるオペレータに望まれていた役割だ。
それを思えば、今現在の彼らは立派に務めを果たしてくれていると言える。多様性こそが無限の可能性への足がかりなのかもしれないなと、俺も今ならそう思える。
『……ふん』
脳内にてふて腐れるアルマの声。
まあ、面白くはないだろうな。こいつ追い求める"完全"の姿に対しておそらくは、真逆の考え方なんだろうし。
すべてを一つに収束させた完全無欠の無限大。それこそが邪悪なる思念の目的とする存在であり、それゆえ暴走するに至った元凶の思想だ。
ソレ単体で完結しきっている以上、多様性もなければ発展性もあるはずのない、始まりも終わりもない真なる永遠。
そんなモノをこいつは求めていたし、今でも望んでいる節がある。
『数の多さなんてそれこそ不完全性の証明に他ならない。至らなさを数で補おうっていうその思想は、僕の考えとは決して相容れないね。ふんっ』
すっかり鼻息を荒くしている。これは気の長い話になりそうだなあ……
こいつがいろんな思想を受け入れられるようになるまで、輪廻をともにする形でつき合うことにしている俺ちゃんとしては、死んだあとでも退屈だけはしなさそうだと苦笑するばかりだった。
「お、部屋見えてきましたね」
「そうですね。今日も余すところなく救世主様のご活躍、撮影させていただきましょう!」
歩き続けて少し、部屋が見えてきた。当然モンスターの気配もあり、俺は戦闘に意識を切り替える。
香苗さんも準備万端でカメラを構えて俺を撮っている。別に撮れ高なんて意識するつもりはこっちにはないが、単純にこの人にはいいところ魅せたい気持ちがあるからね。
いっちょ、やってみますか!
「よし、行こうか!」
「──ウオオオオオオオオアッ!!」
意気込み、部屋に足を踏み入れる。
その瞬間、俺にめがけてナニモノかが襲いかかってきた!
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