攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
金剛猿が消滅したあと、遺されたものを見る。いわゆる素材であり、俺がかつて得た称号《次なる時代をもたらす人》の効果、モンスター素材確定ドロップによって得られた恩恵でもある。
金剛猿の尻尾だ。栗色のめちゃくちゃ硬い毛が見た目はフサフサなものの、触ってみるとゴワゴワって感じで肌にチクチク刺さる。
「この尻尾、何かに使い途とかあるんですかね」
なるべく皮膚に刺さらないように慎重に指で摘んで、香苗さんに質問する。こうまで硬い毛並みの尻尾なら、加工したらどうなるだろう……アクセサリーとか?
いやでも割と重いしなこれ、とズッシリ感のある尻尾を見せると、彼女はふむ、と顎に手を当てた。
「私もそこまで素材について詳しいわけではありませんので、なんとも言えませんが……毛皮として加工するなり毛を取り除いて箒なりなんなりに利用するとか、くらいでしょうか?」
「箒、ですか。たしかによく掃けそうですね」
「あくまで推測ですから、あまりあてにしないでくださいね。気になるようでしたらのちほど、組合の鑑定士に見てもらいましょう」
香苗さんの言葉に、俺は頷いた。鑑定士さんならたしかに、そのへんの調査まで請け負ってくれるだろう。
組合で内勤している探査者の中でも、とりわけスキル《鑑定》を軸とした役職に就いている人のことを通称、鑑定士という。
探査者ならば誰もが持つ探査者証明書の発行、あるいは更新を行うに際して、レベルや称号、スキルといった内容を証明書に記すためにはこの鑑定士という人たちが必要不可欠だ。この人たちがステータスを第三者に示す形で、証明書が公的書類として認められるわけだね。
自己申告だとほら、やっぱり信憑性の面で怪しいから。
「素材についても調べてくれるんだからスゴイですよね、鑑定士さんたちって」
「特に下取り価格の相場まで調査してくれるのはありがたいですね。外勤探査者にスムーズなダンジョン探査をさせるための制度とはいえ、鑑定士とは知識が必要な立派な士業と言えるでしょう」
鑑定士の仕事は探査者証明書絡みに留まらない。探査者が獲得したモンスターの素材について、世間的な扱いや相場に至るまで、必要に応じて調査するという業務も請け負っている。
こちらについては証明書作成関係とは違い任意の上での業務委託らしく、他の内勤よりも給金等で色がつくのだとか。専門知識が求められる点でも、鑑定士は探査者界隈における特有の士業の一つとして扱われるらしかった。
「俺も一応、鑑定スキルは持ってますけど……素材の知識から経済とかの需要や供給、値段についてまで知ってなきゃいけないってのは、ハードル高いですね」
「《よみがえる風と大地の上で》ですね。個人で鑑定スキルを持っている探査者は案外少ないですから、素材絡みの知識がなくとも鑑定士の補助業務になら携われるでしょうね」
「あ、そういうのもあるんですね」
なんともはや、《鑑定》一つとってもいろいろあるもんなんだなあ。感心しながらも俺は金剛猿の尾を丸めて携帯ポーチにしまい込み、香苗さんと二人、部屋をあとにした。
またしても続く道を歩く。ふと、香苗さんが俺に聞いてきた。
「そう言えば公平くん。今日は神魔終焉結界は使わないのですか?」
「え? え、ええ、まあ今回は……」
たしかに今、俺は完全に私服だ。神魔終焉結界の蒼いコートなわけでもないし、結界がないと使えないタイプの権能やら因果律操作もしていない。
別に忘れていたわけでない。ちょっと今、アレについてはしばらく使用できない感じだったりするのだ。香苗さんに説明していく。
「実は今、神魔終焉結界のデザインを変更しようと調整中でして」
「デザインを? 性能とかでなく?」
「ええまあ、はい」
若干答えるのがこっ恥ずかしいけど、こんなこと隠してるほうがむしろ恥ずかしい気がする。
10日ほど前に初めて実戦投入し、以降何度か使って心地をたしかめてきた神魔終焉結界なんだけど。性能はともかく見た目の面でちょっとアレかな? と気づく点があったのだ。
「この炎天下に蒼いロングコート、しかも長袖……着ている本人は因果律操作で全然快適なんですけど、傍から見たらまあ暑苦しいわ不審だわな、と」
「そう、でしょうか? この間のアンジェリーナやランレイさんなどと見比べても違和感のない、探査者らしい個性的な格好とは思いますが」
「あのお二人の格好をとやかく言うつもりは毛頭ないんですけど、個人的には俺はもうちょい涼しげな格好しときたいなーなんて思いまして」
お仕事中の探査者は割と突飛な格好をしている人が多い。仮装とまではいかないけど、基本武装してるので否が応でも目立つ。
さらには探査者の中には、自前で仕入れたモンスターの素材を使って装備品をオーダーメイドする人もいるので、見た目のほうでも拘る人はいるからね。
だから俺としても、神魔終焉結界の基本的なデザインや色合いはいいと思うんだよ。アルマ曰く異世界のお偉いさんの装束だったようだが、なるほどと納得する程度にはかっこいいし品がある。
ただやはり、長袖ってところはもうちょい考えないとなーって。こないだプールに行った時、結界を発動した結果一人だけ暑苦しい格好にならざるを得なかった我が身を振り返り、そう思う俺だ。
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