攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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斬れる赤いの、殴れる緑の

 赤い人型スライムは斬撃以外すべての攻撃を。緑の人型スライムは打撃以外すべての攻撃をそれぞれ無効化する。

 香苗さんがかつて人から聞いたという、カップルスライムの極端な性質。それは、特定の攻撃でなければ絶対に倒すことができないという、無敵一歩手前みたいな体質のことだった。

 

「あのモンスターは強さとしてはさしたるものでもないそうです。さすがに先制攻撃を放ったあとの金剛猿よりかはマシなものの、E級程度の探査者でもどうとでもいなせるような攻撃しかしてこないとか」

「ただ、こちらからもダメージを与えにくいと」

「打撃のみ通る緑のほうは、最悪素手でも倒せますが……斬撃以外無効化の赤いほうは状況によっては完全に無敵です。探査者もみんながみんな、刃物を得手としているわけではありませんから」

 

 それはそうだ。香苗さんの言葉に頷く。

 何しろ俺こそが刃物を持たない探査者代表、みたいなところがあるからね。基本的に殴るか関節技かビームかのどれかしかないピーキー山形とは俺のことだもの。

 

 他の探査者だって、同じく徒手空拳だったりハンマーを使ったり、あるいは鞭だったり銃だったりと刃物以外の武器を使う人は結構いる。

 そうした人たち全員にとってのある種の天敵。それこそがカップルスライムの赤いほうというわけらしかった。

 

「とはいえ、先程も言いましたとおり強さ自体はさほどでもありませんから。刃物を持たない探査者があのモンスターたちに出くわした場合、スルーして先に進むのが最適解でしょうね」

「コアを回収して、ダンジョンが消えるのに巻き込ませるってわけですか」

「もしくは退却するか、ですね。まあ大体の場合は無視して突っ切るのがセオリーです。もし追いかけてきても、強くはないモンスターですから受け流しはできますからね」

「邪悪なる思念の影響が消え去った今、縄張りから抜けたら向こうも追っては来ないでしょうけど……わかりました」

 

 説明してくれる香苗さんになるほど、と頷き、俺はカップルスライムを見て思いを巡らせた。

 打撃以外無効の緑のほうはどうとでもなる。徒手空拳こそ俺の本領だからね。ただやはり、斬撃以外無効の赤いほうが手強そうだな。

 

 アドミニストレータ計画を遂行する実行役として、俺に与えられた称号《武器はあなたに似合わない》の、武器使用時の習熟度上昇停止効果。

 これって言うのはつまるところ、スキル《救いを求める魂よ、光とともに風は来た》のモンスター特効……すなわち武器を用いない攻撃の際に確定で付与される、異世界の魂をこの世界の輪廻に受け入れさせる能力を活かすために付与されたものだ。

 

 大ダンジョン時代の解消と世界の正常化を大目標とするにあたり、ワールドプロセッサもリーベもとにかく効率を目指していた。その影響で、俺に武器を持たせるという無駄を省かせるに至ったんだろうけれども。

 結果として打撃無効系のモンスターに対しては別に有効打を用意しなければならなかったってのは、さて想定したのかしていなかったのか。微妙なところだね。

 

「……やってみるか」

「公平くん? 何を」

「ちょっと、試してみたいことがありまして。行ってきます」

 

 キョトンとする香苗さんに一つ笑って、俺は部屋へと一人歩き進入した。途端、カップルスライムはバッと俺に振り向く……振り向く?

 

「ぬーん」

「むーん」

 

 多分振り向いてるんだと思うんだけど、顔どころか前も後ろもわからないから本当にこっち向いてるのかわからない。せめて目くらいはつけといてくれよと思うんだけど、それすらなく一律真っ赤と真緑だ。

 スライムっていうか、煮凝りとかゼリーめいてるなあと思いながらも俺は、構えた。

 

「さて。さしあたって緑のほう、と」

「むーん」

 

 宣言すると同時に距離を詰める。正しく一瞬の動作だが、その間に俺は攻撃さえも開始していた。

 数センチ単位の密着──拳を緑スライムの胸元っぽい位置に、そっと添える。あくまでそっとで音さえ立てないが、力は当然、万力を込めている。青白い輝き。

 

「むーん」

「ぬーん」

「せぇああぁっ!!」

 

 緑と赤が同時に音を立てるがもう遅い。腰を落として回転、連動して肩、肘、手首に至るまで瞬間的に身体のバネを活かしての正拳突き。

 至近距離からの打撃や咄嗟のカウンターには手頃な打法なんだけど、今回も緑のには覿面の威力を発揮したみたいだ。体重に身体能力、スキルによるバフなどが重なっての一撃は破壊力抜群で、緑のスライムの身体に大きな振動を伴う波紋が広がり、粉々に爆散させていく。

 

「ぬーん」

 

 光り輝く粒子に変わる緑。それを、まあ見たんだろうな、どこかにある目のような器官で。赤いのが猛然と俺に向かってきた。

 出している声だか音だかは常に一定の調子なので、いまいち意志とかを感じられないのがスライムチックなところだろうかね。

 さておき、問題はこいつだ。俺は突進してくる赤いのを回避し、カウンターに首筋っぽいところにチョップを入れた。

 

「でやぁあっ!!」

「ぬーん」

 

 斬撃もかくやってほど力を込めた鋭利な一撃……なんだけど、赤いのをふっ飛ばしたくらいでまったく手応えがない。どうやら斬撃以外全部無効化ってのは伊達じゃないみたいで、俺の手刀は打撃扱いでノーダメージってわけか。

 やっぱり威力の大小はかかわらずかな。となればと俺は、両腕に力を込めた。




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