【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
来た道を戻ること30分と少し。
実は隠れていたモンスターが! とか、不意の事故でダンジョンが崩落した! とかもなく完全に安全な状態で俺と香苗さんは、ダンジョンの出入口から外界へと脱出することに成功していた。
賑わう回転寿司屋さんの中、ちょうどお客さんたちが何人か、向かいのドアから入ってきたのと同じタイミングでぬっと頭を出す。
えっ!? って感じで驚く方々にど~も探査者でぇごぜえますなどと嘯きながら穴から出ると、香苗さんも続いてダンジョンから完全に脱出した。
途端に入口の穴が消失する。ダンジョン踏破。探査完了だ。
「ありがとうございます! 助かりました本当に、これでまた通常どおりの営業が行えます!」
すぐさまハキハキ店長さんが飛んできて、すっごい笑顔で俺たちに感謝を告げてきた。見れば後方で店員さんたちやお客さんたちも、どこかほっとしたような、安心したような顔でいる。
それだけ、ダンジョンというものが探査者でない人々にとっては身近な脅威だということだ……この状況を招いたシステム側の存在・コマンドプロンプトとしては申しわけなく思うが、一人の人間・山形公平としてはこの人たちの平和や日常を守ることができて、誇らしく思う。
マッチポンプもいいところだなあとは思うけど、こればかりはシステム側も死にものぐるいだったのだ。ある種ドライに割り切りながら、そんな内心は露とも見せず俺は店長さんに微笑んだ。
「お力になれたなら何よりですよ。それでは僕らはこれで失礼しますね」
「ありがとうございます……ああ、そうだ! せっかくでしたらお昼は当店でどうぞ!」
おっと。探査も終えたしさあ帰ろうかって時に、まさかの店長さんからの提案だ。
たしかにお昼時だしお腹はそれなりに空いてるしで好都合だけれど、結構強かっていうか商売上手な店長さんだなあ。そういうことならせっかくだし、豪勢にお寿司でランチといこうかな?
「香苗さん、俺はここでランチってのもいいんじゃないかなって思うんですけど、どうします?」
「私も別に異論はありませんよ。お寿司は好きなほうですし、公平くんが食べたがっているのを否定する理由も特に、ありませんしね」
だったら決まりだね。お世話になりますと店長さんに言うと、ありがたい話で席を融通していただけた。テーブル席、窓際でそれなりに見晴らしのいい位置だ。
そこまで人で混んでいないからこその僥倖だ。俺たちはご厚意に甘える形でその席にお互い、向かい合って座った。
「なんか、回転寿司ってのも久しぶりですよ俺」
「私もです。子供の頃はよく親にねだったものですが、大人になると案外足が遠のくものですね。経済的には每日でも通えるのですが」
「そういうものなんですか……大人になると、そうなるんですね」
回転寿司と言わず焼肉と言わずピザと言わず、大人になったら毎日贅沢三昧したいくらいには美味しいもの大好きな俺としては、香苗さんの言葉にはなんとなくそーなのかーってなる。
感じ方とか考え方とかが変わるんだろうかな、やっぱり。味覚は結構変わるって聞くけど、そういうのも関係あるのかもしれない。
大人になったらかぁ。お酒とか飲める年齢になった頃、俺ってばどうなってるんだろうね。
探査者をしているのは間違いないんだろうけど、どういう感じになってるかまるで予想できない。案外高木さんみたいなパリピ系チャラ男山形、略してチャラ形くんになってる可能性だって、いやないな。
ないわ。絶対にないよそれだけは。
ウェーイとか連呼し、自分から率先してみんなに声がけとかする陽キャな自分を想像できない。そもそも大勢の人たちと何かをしている自分がいまいちイメージしづらいほどだ。
逆にどんだけ陰キャなんですかね俺。コマンドプロンプトも3割混じっていてこの始末とか怖ぁ……魂の髄まで人見知りですやん。
「うーむ……」
「何か悩みごとですか? 公平くん。はいお箸とお皿、あとお茶です」
「あ、どうも。いえその、まあ……三つ子の魂百までって、よく言ったもんだなあって。あははは」
「? ふふ、変な公平くんですね」
意味のわからないだろう俺の言葉に、香苗さんはそれでも優しく笑って反応してくれる。それがありがたいやら恥ずかしいやら、複雑な気持ちだ。
これで実は自分の陰キャっぷりに心底ゾッとしてただけです、なんて言えるだろうかいや言えない。
ははは……と、誤魔化し笑いをしながらレーンにある寿司皿を取っていく。とりあえずはハマチかな。タッチパネルでドリンクも注文したら、あっという間にオーダー用のレーンが動き、ジュースがやってくる。
早いな〜と感心していると、香苗さんも皿を取っていた。鯛に、タッチパネルでノンアルコールビールを頼む。午後からは漫画喫茶で過ごすだけなので、別にもう酒を飲んでもいいとは思うんだけどね。
まあ、ベナウィさんよろしく宴を開かれても困るのでいいかな? などと考えていると、ふと探査者の気配を感じる。
なんだ? と窓から外を見ると。
「…………え、関口くん?」
「おや、3人組もいますね」
何やら練り歩く4人。みんな揃って知り合いだ。
今朝会ったばかりの関口くんやチョコ、アメ、ガムのおかし三人娘さんたちが、曇り空でも炎天下の道を並んで歩いていた。
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