【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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きたねえ花火量産機

 例によって暗いダンジョン内を、俺と香苗さんの懐中電灯──腹部側面、ちょうど腰の横に固定するタイプのものだ。両腕が空いて動きやすい──が照らし出す。

 土塊でできた壁と床がひたすら続いていて、土地の影響を受けている様子もない。非常にスタンダードな内容のダンジョンと言える。

 

 俺ももう慣れてきたもんでガンガン進む。通路の時点でモンスターが出てくるなんてのは滅多にない話で、部屋に入って初めて戦闘が始まるのだ。

 もちろんいつでも迎撃できるよう、スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》の調子は確認してあるしカウンターの体勢ではいるけれども、過度に慎重になりすぎない程度に俺たちは探査を進めている。

 

「うききききーっ!」

「きき、きききっ!」

「うきゃー! うきゃきゃうきゃーっ!」

「ん? 猿?」

 

 通路を抜けて広い部屋に入って、すぐに叫び声が響き渡った。焦らず電灯で周囲を照らすと、こちらに向けて威嚇してくる猿が三匹いるのを見つけた。

 こいつらもモンスターだ。《さけびザル》、なんて直球なネーミングとは思うが、こいつらを表すにこれ以上、簡潔なものもないだろう。

 

 威嚇の猿叫をしてくるものの、この猿たちは近寄ってこない。むしろ俺が一歩踏み出すと、一歩引き下がる始末だ。

 そう、このさけびザルってモンスターは大した脅威ではない。ただやかましく、一定の距離を保ち、たまに石を投げたりしてきて、そしてやかましいだけなのである。

 

 ただ、たまに投げるっていう石が質が悪い。腐ってもモンスターゆえ、プロ野球選手もビックリな速度で尖った石やら大きな石やら、散弾みたいな飛礫まで投げてくるのだ。

 レベルの高い探査者ならば大したことはないのだが、F級から昇級してすぐの者は、ビビって近寄ってこないように見える猿に油断し、そこで投石を浴びて殺されるケースもあるらしい。

 

 まあ、ずいぶん前から危険度が周知されているので、最近はちゃんと遠距離攻撃で対処されているのだが。素手オンリーな俺には最初、この猿たちが一番厄介に思えたもんだ。

 相変わらずひたすら、けたたましい叫びだけを継続してくるリーベ並にやかましい猿たちを見据え、俺は構えた。

 

『はぁーっ? かわいいかわいいリーベちゃんをこんな、エテ公どもと同列あつかいですとーっ?! 許しませんっ今すぐ謝ってリーベちゃんの可愛いところを10個挙列なさいっ! ムキャキャーッ!』

 

 ほれみろやかましいじゃないか、お前わざとやってるだろ!

 てーへーぺーろー!

 

 と、脳内でアホみたいなやり取りをするも束の間。これまでの経験から、この猿への対応策を編み出している俺はすぐさま動いた。投石しだす前に倒さないと、面倒だしな。

 

 ──深く腰を落として、正拳突きを放つ。

 

 スキルの効果で素の身体能力の10倍、さらにモンスターに対して10倍の特効威力をもつそれは、光を纏って恐るべき速さで振るわれる。瞬間、放たれる衝撃波。

 

「ぬぅん!」

「うきーっ!?」

 

 たった一撃で発生したそれは、真っ直ぐに突き進んで猿たちを直撃する。モンスターたちを一息に呑み込んで、蹂躙し、引き裂いていく。

 ……それで終わりだ。詳しくは言わないが見るも無惨に成り果てたモンスターたちが、粒子となって消えていく。

 

 戦闘終了だ。わずか一撃とあっけないように思えるが、今の技を出せるようになるまでに俺は結構、苦労したんだよね。

 何しろこんなもん、当たり前だが普通の格闘技にはないからな。漫画の世界の技だ、衝撃波なんて。

 

 これはスタンピードの時、周囲のモンスターをまとめて倒した技だ。あの時は無意識に放って複数の敵を蹴散らしていたのだが、これを意識して使えるようになれば、遠距離攻撃の完成じゃね? って思い至ったのだ。

 そこからいくらか試してみた結果、パンチとチョップからしか放つことができなかったにしろ、ある程度コントロールして放てるようにはなった。まあ、透明のビームみたいなもんだな、うん。

 

 というわけで完成したこの技、衝撃波。今のところ射程距離は精々50メートルってところだが、いずれはスナイパーライフル並みに遠くの的まで届かせてやりたい。

 我ながら人外ロードを突っ走り始めた気もするが、そんなわけで俺は、遠距離攻撃もできる素手ファイターというわけの分からない生き物と化したのだった。

 

「瞬殺でしたね、公平くん。探査者になって一月かそこらしか経っていない人間の戦いぶりでは、完全にありませんでした。最高です」

「いやあ、まあ。インチキにインチキを重ねてるわけですしねえ」

 

 苦笑しつつ、褒めてくれる香苗さんに返す。

 まー、正直ね。俺の力ですとはちょーっと言い難い。システムさんから、何でも孫に買い与える爺ちゃん婆ちゃんのように、とんでもないスキルと称号を次々与えられているからこその今なわけだからね。

 これを俺の力とするには無理がある。極端な話、俺じゃなくてもここまでされたら誰でもこうなるからさ、絶対。自慢なんてもっての外だ、天狗ダメ、ゼッタイ。

 

 嘯く俺に何かを感じたのか、香苗さんは少し黙ってから。

 静かに俺の頭に手を置いて、優しく、撫でてくれた。

 

「インチキでなく、あなたの力ですよ。手札すべてがジョーカーだったとしても、それがルールに則っているのならば、それはあなたの正当なる手札です。行使する権利がある」

「……正しいことに使う、責任もですね」

「即座にそういうことを言ってくれる、あなたを私は大好きです。他の誰でもない、あなただから言うんです」

 

 そう言ってくれる香苗さんの笑みが、あんまり優しいものだから。

 俺はついつい、そんな彼女に見惚れていた。


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