攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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怪文書(直球)

 ノートパソコンのキーボードを叩く園山さん。件の布についているタグ、記されているナンバーをWSOのデータベースに問い合わせているのだ。

 入力が終わったのか、今度はマウスを動かし何度かカチ、カチとクリックしている。そして間もなく変わる、彼女の表情。少なからぬ驚愕の面持ちだ。おもむろに俺と香苗さんのほうを向いて、言ってくる。

 

「登録済みだねえ……出てきたよ、詳細」

「登録者は誰になっていますか? 青樹佐智という名前があるなら、ひとまず盗品という線は薄れますが」

「青樹……ああ、その人だねえ。ほら、画面見せるよ」

 

 ノートパソコンをこちらに向けてくれる。画面を俺たち二人は覗き込んだ。

 タグに記載されているものと同じナンバー、そして写真──間違いなくこの布だ。一応WSOにも正式に登録済みということだから、出どころの合法性はある程度、担保されたと見ていいんだろうか?

 ずらりと並ぶ詳細を、俺と香苗さんで読み上げる。

 

「名称"彩雲三稜鏡"、種類はマントですか。登録日は昨日、直近ですね」

「素材は園山さんの見立どおりの合成繊維。素材となったのはアサルトフェニックスの羽、バーチカルユニコーンの毛皮、クレセントゴーレムのコア……いずれもA級モンスターの希少素材です。B級の彼女がどうやってこんなものを」

 

 どうやらマントらしいこの布は、予想どおりにモンスターの素材を複数、合成させた繊維でできているらしい。つらつら記載されているけど、いずれもA級モンスターとして名高い連中ばかりだ。

 こんな素材、どうやって調達したんだ? 青樹さんがB級というなら、A級ダンジョンに潜ってこれら素材を得るなんて結構なハードルだろうに。香苗さんの疑問も頷ける話で、俺にもそこが釈然としない。

 

 園山さんが記載情報の画面、登録品のメーカーについての項目を指す。東洋探査素材工業株式会社。

 テレビとかで俺も見たことがある、モンスター素材を加工して装備品やアイテムを製造している企業の名前がある。

 

「記載されているメーカー自体はちゃんと存在している企業だねえ。問い合わせしても企業秘密絡みで門前払いされるだろうけど、その青樹って探査者さんが持ち込んでオーダーメイドしたっぽいねえ。あそこはそういうのも金次第で受け付ける会社だからねえ」

「そのへんの人脈はある人でしたね、たしかに。どうした伝か、やたら企業とつながりがあるのです」

「ってことは、少なくとも素材はさておきこのマント自体は合法的なルートで造られ、香苗さんの手に渡ったと」

「そう見るべきでしょうね。ひとまず非合法品ではなさそうで、そこはよかったですが」

 

 ふう、と一息つく香苗さん。そりゃそうだ、盗品なり非合法品を投げ渡されたかもしれないなんて、生きた心地もしないだろう。

 しかし……A級モンスターの希少素材を3つも使い、有名メーカーにオーダーメイドしただけのことはあるみたいだ。記載情報の備考欄には、彩雲三稜鏡の詳細がずらりと書かれていた。

 どれもこれも破格の性能ばかりだ。

 

「耐熱耐冷耐衝撃ほか、あらゆる属性攻撃を数割カット。これはメーカーによる検査まで済んでますね」

「バーチカルユニコーンの毛皮が持つ特性ですね……クレセントゴーレムのコアを使っているからでしょうか、装着者の意志を読み取り、形状を変える性質もあるようです」

「多少の破損、汚損はオートで修復までするみたいだねえ。アサルトフェニックスの羽に自動修復能力があるから、それだろうねえ」

 

 要するにそれぞれ強力な性質を持つ3つの素材を、そのまま合体させたというわけか。

 特に装着者の思念を解した形状変化とオート修復機能はヤバいな。それぞれ一つだけでも備わった装備があれば、天文学的な値段で売りに出されるような代物じゃないか。

 

 総合的に見て、極めて強力な装備だ。こんなの拾ったら、人に渡そうとか思わず自分で使おうって俺ならつい思っちゃうレベルですさまじい逸品じゃないか。

 だからこそ解せない。そんな上等品を、なぜ青樹さんは喧嘩別れした弟子に与えた?

 

「ん? ……備考欄、下に大きく空白をかけて何やら記載されてますね」

「え」

「おや。ほんとだねえ」

 

 ふと発見した、備考欄のスクロールバー。何やら結構な改行を入れているみたいだ。

 気になって園山さんに下へおろしてもらう。やがて文章が見えてきて、それに3人で目を通す。

 

「これは……」

「あの、女は……ッ!!」

 

 園山さんが絶句し、香苗さんが顔を真っ赤にして激怒する。この人をここまで怒らせるなんて、めったにないことなのに。

 ただ、俺のほうにもそこに反応する余裕はなかった。目に飛び込んできた、あまりにもあんまりな内容に、こうつぶやくしかなかったのだ。

 

「怖ぁ……」

 

 

『香苗。S級昇級おめでとう。この装備、彩雲三稜鏡は私からのささやかなプレゼントだ。S級なのだから、それに相応しいものを身に着けるといい』

『香苗。彩雲三稜鏡の素材をどこから入手したのか気にしてるのかい? ふふふ、相変わらず真面目な子だなあ。気にしなくていいんだよ、この装備にまつわるあらゆる物事はまったくの合法だ。愛しい君への贈り物に、欠片だって瑕疵などつけるものか』

『香苗。思想の違いから仲違いした私たちだけれど。私は変わらず君を愛しい弟子と思っているよ。君もそうだろう……いや、そうだったろう』

『香苗。今は離れているけれど、いつか君と再び道を同じくする時が来る。君の愛弟子、久志くんだって私の側だ。必ずそうなる』

『香苗。私たち探査者は奴隷でいてはいけないんだよ。むしろ力なくただ、護られるばかりの者たちこそが奴隷であるべきなんだ』

『香苗。探査者は進化した人間なんだ。神に選ばれ、旧き人類どもを飼ってやるべしと定められし存在なんだ』

『香苗。いつか君にもわかる。探査者こそが、この世界の支配者なんだ』

『香苗。君を誑かしている山形とかいう坊やもそこにいるんだろう? かわいそうに……いつか救世主思想なんてくだらない呪縛は解いてあげるからね』

『香苗。愛しているよ、私のたった一つの宝物、ただ一人の弟子』

『香苗──の、傍にいるんだろう? 山形公平。私の香苗を変えてしまったことについて、近々話をつけにお伺いするよ』

 

 

『香苗。そして最後にもう一つ』

『香苗を狂信者へと堕落させ貶めた山形公平。君だけは許さない』

 




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