攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
「冤罪なんですけど……」
思わずつぶやいた俺を、一体誰が責められるだろうか。それでも、それでも僕は香苗さんを貶めたりだなんてしていないのだ。
香苗さんの元師匠、青樹さんが彩雲三稜鏡の登録データに仕込んでいたメッセージ。そのあまりの内容に俺はビビり香苗さんはピキり、園山さんは素でドン引きし。
そして今、そそくさと鑑定を終えてブースを出て、関口くんたちと合流しようと談話室へ戻る道中だ。その間も香苗さんは、かつてない勢いで激怒している。
「言うにこと欠いて伝道師たる私が、貶められた……!? あまつさえ公平くんを許さない!? 何様のつもりですか、関口をあのようにした輩が!」
「ま、まあまあ。落ち着いてください香苗さん」
「私の心は私だけのものです! 私は私の意志で公平くんを崇めると誓ったのです! それをあの女っ、我が信仰を疑るとは! 許さないのはこちらの台詞ですっ、次会った時には伝道フルコースをたっぷりと体験させてやりましょう!」
「いやそれ人のこと言えなくないですか!?」
今までにないレベルでブチギレていらっしゃる。青樹さん仰るところの香苗さん堕落させられてる説に激ぉこのご様子だけど、続く言葉で伝道宣言が出た時点であんまり説得力がない気もする。
いやまあ、救世の光って今のところ、要するに救世主山形公平を讃えよう崇めようってことしか言ってないっぽいから。明らかに選民思想を振りまいている青樹さんと一概に同じ扱いにはできないし、したくはないんだけども。
ただなあ……狂信者なのは間違いないからなあ。しかも春先に突然の豹変だ。それまでクールな才女だったこの人が、いきなり15歳の少年を救世主と呼んで信仰しているとところ構わず触れ回っているわけだからね。
青樹さん視点からすると、俺がなんらかの手段で香苗さんを染め上げてしまったと捉えるのも、無理からぬことかもしれない。ネットとかだとそういう陰謀論的なのもあるしね。
エレベーターに乗り、1階のボタンを押す。
落ち着かせようと香苗さんの背中を軽く擦る。するとそれに反応して彼女が俺にもたれかかり、憤懣やるかたない様子で俺にしがみつき、悔しそうに呻いてきた。
いやちょっと!? 嘘でしょ急な密着!?
「か、かかかか香苗さん!?」
「ごめんなさい、カッとなってしまって……今だけは、このままで……っ」
こみ上げる怒りをどうにか抑えているような彼女が、俺の胸元で囁いた。急な事態に固まる俺。
結果的に抱き寄せる形になってすごくラッキー感あってうへへへって感じなんだけど、でも誰かに見られたら通報ものだよなと冷や汗ものでもあるし複雑だ。
エレベーターはあっという間に1階につくだろう。それまでの数秒くらい、好きにしてほしいけど……保つかな、俺の心臓。
と、香苗さんがやはり俺の胸元で囁くようにつぶやく。声を荒げる様子ではなく、疲れた感じも受けるトーン。
「しれっと関口を私の弟子扱いまでして……3年前に高々一ヶ月かそこらしか面倒を見てないのに、私の愛弟子なわけないでしょう、まったく……」
「ていうか関口くん、香苗さんの愛弟子だからって理由だけで勧誘されたんでしょうかね」
思わずつぶやく。もし青樹さんが、香苗さんを引き込む目的で関口くんを引き込んだのだとしたら、関口くんにとっては割と気の毒な話に思える。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、とはいうけど射掛けられる馬の立場は堪ったもんじゃないよ。ちょっとだけそこが気にかかる俺に、香苗さんは深呼吸を一つ。
落ち着きを取り戻して俺から離れ、冷静に答えた。
「そういう部分もあったかもしれませんが、そもそも真人類優生思想者を増やそうと大勢に対して活動していたとは、当時相対した時に聞かされました。仮に関口と私が知り合いでなくとも、遅かれ早かれ青樹さんは彼に働きかけていたでしょうね」
「そう、なんですね」
「かつての訣別の際には私も直接、勧誘されました。それが引き金で師弟関係を解消したのですが、まさかまだ私を引き込む気でいたなんて……」
深いため息。怒りとも呆れとも、悲しみともやるせないとも取れる、なんとも言えない憂鬱に染まる彼女の顔。
エレベーターが1階についた。何はともあれ談話室へ向かう。関口くんたちは探査依頼を受け終わって、もしかしたら先んじて待っているかもしれない。
ふと、気になって俺は香苗さんに尋ねた。
「関口くん、香苗さんが青樹さんについて説明していた時にやけにおかしな様子でしたけど……やっぱり思うところはあるんでしょうかね」
「どうでしょうか? 正直に言ってあまり好きになれない子ではありますが、道を正そうと思ったのであればそれは、いいことだとは思います」
さっき妙な素振りを見せていた関口くんに対して、微妙そのものって感じなコメントを頂いてしまった。ついにハッキリと好きじゃないって言っちゃったよこの人怖ぁ……
そりゃまあ、思想的にも言動的にも香苗さん的には嫌う要素しかないだろうけど、それ以上に何か深い溝を感じる。
これ、なんかしたでしょ関口くん。
確信を抱く俺を肯定するかのように、ぼやきに近く香苗さんは続けた。
「……これまでに幾度となく、彼から真人類優生思想について勧誘されていますので。しつこい上にわかりやすく下心ありきでしたので、率直に苦手なんですよ」
「か、勧誘……下心……」
「そもそも私がその手の思想を嫌っていることは、三年前の時点で彼に直接言っています。その上でそれでもなお、折に触れては呼んでもいないのに勝手にやってきて、何度も質の悪い思想を吹聴しだすのですから。嫌いにならない理由がありません」
「あ、ああ……なるほど〜」
そんな嫌がらせしてたのか、関口くん。いや、彼からすれば善意からの行動だったんだろうけど、完全に独り善がりな暴走つきまとい行為になってしまっている。
そりゃこんな辛辣にもされるわと、嫌な納得をする俺だった。
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