攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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昔:姉のような存在 今:姉を騙る不審者

 談話室へ戻ると、すでに関口くんとおかし三人娘はいて、談笑しながら俺たちを待ってくれていた。

 すぐに近寄って手を挙げる。関口くんが気さくに──春からのことを思えば地味に信じがたい仕草だ──応える。

 

「お帰りなさい香苗さん。あと山形。その布、なんだかわかりましたか?」

「ええ、まあ……」

「ははは……」

 

 にこやか笑顔の彼に対して、俺たちは揃って曖昧な返答だ。怪訝な面持ちになる関口くんには申しわけないけど、これより適切な返事が思い浮かばなかったところはある。

 布の正体自体はともかく、そこに込められた青樹さんからのメッセージは壮絶の一言だ。

 

 ていうかWSO管理のデータベースによく、あんなメッセージを登録できたよなあ。って思ったけど、香苗さん曰くあの備考欄については備忘録や各種メモ帳の役割もあるらしく。

 今回のように誰かにモノをプレゼントした際、必ず一度は鑑定士に詳細を尋ねることになるので、備考欄にある種の隠しメッセージとして仕込んで意図を伝えることもままあるそうだ。

 

 誕生日おめでとう! とか、これからもよろしくね! みたいなね。

 今回もそういう、心の篭った親愛のメッセージならよかったんだけど……実際には香苗さんへの情念と執着と俺への憎悪が篭った怪文書だからな。

 関口くんを染め上げた張本人のそんな声明だとか、その後に香苗さんが、割と真剣に彼を苦手だと思っているところまで含めて、どう説明したもんかと思い悩むところはあった。

 

「……まあ、あなたにも縁ある青樹さんのことです。仔細は伝えます」

 

 と、香苗さんは手に持っていた彩雲三稜鏡をテーブルに置いて、俺を促しながら二人で並び席に座った。どうやら包み隠さずすべてを説明するみたいだ。

 おかし三人娘も興味津々って感じだけど、大丈夫かな? 探査者の中でも相当キワモノが絡んでる話っぽいんだけど、新人には刺激が強すぎやしないだろうか。俺も新人だけど思わずそんな心配をしてしまう。

 

 ただまあ、話を勘案するに青樹さんはどうやら新人をターゲットに勧誘やら何やら行っているらしいし。

 新規探査者教育でもその手の勧誘に乗ってはいけません! みたいに聞かされるけど、実感は伴わないだろうし、実例として聞かせるのは3人の今後のためにもいいのかもしれない。揃って春先の関口くんみたいになられるのも嫌だしね。

 

 というわけで香苗さんが主体となって先程の鑑定士・園山さんに見てもらった結果を伝える。

 彩雲三稜鏡の性能自体は実際、破格だ。新米のおかし三人娘はおろか関口くんまで目を煌めかせ、羨望の眼差しでマントと香苗さんを見比べていたわけなんだけれども。

 登録情報の備考欄、例の怪文書について触れると途端にスンッ……となって黙り込んでしまった。わかる〜。

 

「青樹さん……あの人がそんな、ことを」

「なんと言えばいいのか、ホラーねえ〜……」

 

 絶句する関口くん。気遣いながらぼそっとつぶやくアメさんがなかなかに率直だ。

 まさしくホラーだよねこれ。公的文書に隠しメッセージみたいにあんなもん仕込んでたこととか、香苗さんが俺と一緒に鑑定を受けるだろうと読んでいたところとか、どストレートな俺へのお気持ち表明だとか。

 深夜に見てたら背筋が凍るやつだ。ビックリドッキリ系じゃなくて、深く読み込むと怖くなるタイプのあれじゃん。

 

「えぇ……? こんなサイコな真似する人に染められたんですか関口さん。ヤバくないですか?」

「う……く、むう。た、たしかに昔から青樹さんは、香苗さんを溺愛していたのはあるよ。香苗さんよりちょっと年上だったけど、実の妹みたいにかわいがっていたように俺には見えた」

 

 ガムちゃんの遠慮ゼロなツッコミが入り、関口くんがにわかに呻く。さすがの彼からしても、自分を優生思想に引き込んだ張本人の異様な行為には閉口するみたいだ。

 やがて当時の青樹さんについて語りだしたんだけど、やっぱり香苗さんへの感情が大分重い人らしい。ちょっと年上とのことだが、それもあって香苗さんを妹扱いしていたんだろうな。

 どこか懐かしむように、香苗さんも言う。

 

「5歳年上ですからね。まあ、よくしてもらっていたことは認めます。彼女がああなるまでは、私も姉のように想っていた節はありますから」

「いい、師弟関係だったんですね……」

「なんていうか、御堂さんへの想いもすごいですし、裏腹の山形さんへのその、嫌い感もすごいですね! ふと思い出したら深夜、トイレに行けなくなりそうです!」

「……まったくです。あんなに素晴らしい師匠だったのに、なぜこんなふうになったのやら」

 

 はあ、とため息を吐いて嘆く。なんだかんだ言いつつもやはり、元師匠が豹変したことについて香苗さんも相当、思うところはあるみたいだ。

 かつては姉のように慕っていた人が、嫌悪の対象に鞍替えしてしまった。その心境は俺には計り知れない。

 

 ともかく、と香苗さんはマントを掴んだ。

 

「このマント、彩雲三稜鏡については一旦保留とします。WSOのデータベースにも登録していない何かがまだ、仕込まれていないとも限りませんから」

「そりゃ、怪しいのは怪しいですけど……調べる方法とかあるんですか?」

「後日、製造元の東洋探査素材工業株式会社を当たってみます。あそこには多少の伝もあります、企業秘密に触れずとも、検査くらいはしてもらえるでしょうし。加えてWSOの研究所にも、このマントの検査を頼んでみましょうか」

 

 さらりと大企業との繋がりを明かす香苗さん。

 す、すげー……さすが長年A級トップランカーをしていた人、探査業界絡みの顔の広さもトップクラスってことなんだろうか。




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