攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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陰キャというより人見知り。しかも挙動不審

 客観的に見るとオーバーワークらしい俺のことはさておき、歩いていると部屋に出た。これまたいつもどおりの土塊の部屋、ライトに照らされて薄暗く広がる視界の中に、たしかにモンスターもいる。

 ゴブリンだ。5匹ほどで武器を構えて群れている。こちらを威嚇してきているあたり、戦意はみなぎっているみたいだな。向こうのテリトリーに進入したんだから、当たり前なんだけど。

 モンスターの中でも一番弱い部類に入り、それゆえ一番ポピュラーでもある緑色の子鬼を見て、ガムちゃんが密やかに呻いた。

 

「キモ……スライムがよかったなあ」

「そうかしら? 見慣れると案外、かわいらしくも思えてくるけれど」

「マジ? アメ姉、バブみすごすぎでしょ……」

 

 ゴブリンが苦手のようで顔をしかめるも、まさかのかわいい判定を下したアメさんに唖然としている。

 ガムちゃんのように、ゴブリンを好きになれないという探査者は少なくない。単純にあまり見目がよくないし、単なる動くゼリーにすぎないスライムと比べて武器を使うこともあるから、危険度も比較的高いからね。

 

 そういう意味でも人気は低いんだけど……まさかかわいいなんて言葉が出てくるとは。

 ちょっとキモカワ系のマスコットが好きなのか、はたまた母性がゆえなのか。たしかにその、年上の女性ってことで俺もバブみは感じるけれども。この際、そのへんは関係ないような気もする。

 アメさんが首を傾げて言った。

 

「なんていうかコミカルじゃない? 小さいし、動きもワタワタしてるし。見た目は好きじゃないけど、動きは結構好きよ」

「マスコット的な愛らしさを見出してるのか……といってもアメ、あれはモンスターだからな。倒さないといけないモノたちだ、忘れちゃいけないぞ」

「もちろん! あくまで感じ方の善し悪しってだけね〜」

 

 関口くんに釘を差されて、奮い立つアメさん。マスコットっぽい動きにかわいさを感じるけれど、それはそれとしてモンスターだし仕事なので躊躇はしない、と。立派な心構えだと思う。

 ただ、今気づいたんだけど関口くん、アメさんのこと愛称で呼び捨てなんだな。彼女のほうも普通に受け入れてるし。

 なんていうか、普通に仲よさそうですごいなって思う。女の人の下の名前とか愛称を呼び捨てだなんて俺には到底できそうにないんだけど、親密さが伺えて憧れるところはある。

 

 そういう呼び捨てをしてる女の子って、身内を除けばリーベとかヴァールくらいだろうか? ただ、コマンドプロンプトとして覚醒する前からそうだったんだけど、あの二人は女の子という以前にシステム側の遣いという認識だったからな。

 加えてかたやWSOの統括理事、かたや受肉すらしていない脳内借りぐらし精霊知能と、ある種男女という括りにすら入ってなかったところはある。

 

 じゃあそういう関係でもない、たとえば同級生という括りで考えてみよう。ええと、仮に梨沙さんを呼び捨てにしてみる、とか? ……あっ無理。無理です怖ぁ……

 自分で想像したことに震える。あんな優しくていい子で素敵な陽キャ女子、名前で呼ばせてもらっているだけでも身に余る光栄なのに、あまつさえ呼び捨てだなんて罰が当たる。

 そもそもなんか馴れ馴れしいし偉そうだし嫌だ。彼女にそんな失礼な接し方はしたくない。いや、他の人に対しても概ねそうだけれど。

 

 やはり俺は地味な陰キャらしく、さんづけは徹底するに限るということか。今度リーベにもさんづけしようかな、たぶんしこたま気持ち悪がられるだろうけど。

 などとあれやこれやと自己完結しつつ。俺はさて、とつぶやいて最後尾から歩いて前に出る。

 

「この部屋のモンスターは手筈どおり俺が相手するよ。いいね、関口くん」

「ああ、頼む。俺もお前の戦いをちゃんと見るのは初めてだからな、お手並み拝見といかせてもらうよ」

「頑張ってください、山形さん!」

「頑張ってね〜」

 

 エールを受けてゴブリンたちに相対する。思えばそうか、関口くんも俺の戦いを直で見るのは初めてか。

 例のチャンネルの動画で見ていたりはするかもだけど、カメラ越しにと肉眼とじゃ受け取り方も違うだろう。チョコさんにアメさんともども、やけに期待の視線が集まるのを感じて苦笑する。

 

「さあみなさん、今こそ我らが救世主山形公平様の御活躍を目に焼きつける時です! もはや探査者などという枠組みさえ意にも介さない領域へと達した世界最強前人未到空前絶後絶対無敵究極超人たる御方の戦いを! コンマ0.1秒たりとて見逃すことなく具に見るのです!!」

「マジでカメラ構えてる……御堂さん、S級探査者なのにマジで……?」

「怖ぁ……」

 

 一方で相変わらずなのが当然、香苗さんだ。ドン引きするガムちゃんの隣、いつもどおりにカメラを構えて興奮している。

 この人のブレなさは一体なんなんだろう。どこから来てるんだろうねこの熱量。いつでもどこでも一切関係なく常に伝道師ムーヴかましてる気がするんだけど、これが天職ってやつなんだろうか。

 

「ぐぎぃいいいいっ! ぐぎゃあああああっ!!」

「ぎいっ! ぎぎいっ!!」

「……と。とりあえずは戦おうかな」

 

 こっち見ろー! 無視すんなー!

 とでも言うかのように騒ぐゴブリンを見る。奇襲の一つもすればいいものをしてこないのは、レベル差がすさまじいことを警戒しているということだろうか。

 

 まあ、正直言えば弱い者いじめみたいではあるんだけどね。せめて確定で輪廻に還すから、ここは勘弁してほしい。

 そんな思いで俺は、ゴブリンたちに一歩踏み出した。




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