攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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甘々と山形

 ゴブリンたちへと歩み寄る。物音一つ立てず、流れるようにスムーズに。

 ただしゆっくりとじゃない。極めて速やかに、迅速に……二歩目で一気に彼らのうち一体へと距離を詰めると、後方から小さく声が聞こえた。

 

「へ、早────?」

「ギャッ!?」

 

 誰の声かはわからないけど、言い切る前に俺は攻撃を終えていた。眼下のゴブリン、小さな身体の頸部を右手で掴み、一息に握り潰す。

 即座に粒子へ変わっていくのを待たず、近くにいる2体目に大きく左拳を振りかざす。瞬間的に灯る蒼白いオーラ。新スキル《あまねく命の明日のために》を使用して、殴りつけると同時にビームを放つ!

 

「ぬぅんっ!!」

「ポギ──!?」

「ピギャ──!?」

 

 2体目の身体を拳が貫き、抉り込んでのち拳から放出されたビームが、まっすぐにその先にいた3体目を穿つ。

 山形串刺し光線とでも言おうか。相変わらずアレなネーミングセンスはさておいても、出力を落としている割には結構な威力だ。

 

 これ、極限倍率10万倍をさらに一点集中させた状態で放ったら、大概のものはぶち抜けるだろうなあ。

 感覚的にはたぶん、地面に向けて打ったら大変なことになる気がする。空に向けて放っても月くらいまで届くんじゃないだろうか、兎さんもビックリだね。

 

「グギャギャギャギャー!」

「ぬおぉっ、りゃあーっ!!」

 

 続け様、少し離れた4体目が棍棒を持って殴りかかってくるのを、とっさの構えで迎撃する。両手を左脇腹に添えて、ビームの発射体勢へ移行。

 一瞬で発動する両拳のビームを重ね、抜刀するように右腕を振るう。左拳と右拳を繋ぐ光線は鋭く疾い刃となって、走り寄るゴブリンを棍棒もろとも叩き斬った!

 

「な、何あれ!? ビームが、刃になった!?」

「で、出ましたーっ!! あれこそ救世主山形公平様の最新技! その名もセイヴァースラッシュ光線!!」

「セイヴァースラッシュ光線!?」

「名前でっち上げるのやめてもらっていいでしょうか伝道師様!?」

 

 外野のあれこれに思わず叫ぶ。セイヴァーなんたら光線もしくはビームって名前にどんだけ拘ってんだ香苗さん。あまつさえそれをみんなに誇るように高らかに叫んでるし。まるで俺が名づけたみたいで恥ずかしい。

 顔が赤くなるのを自覚しながらスルーして、最後に5体目だ。ここまで来るとすっかり戦意を失っているみたいで後ずさりしているのがなんというか、気の毒だ。

 

 そりゃあなあ。本来ならレベルがいいとこ15くらいの探査者と渡り合うようなモンスターに対して、俺や香苗さんはレベル800オーバーだよ。実に約50倍ってのはあまりにひどすぎる差だ。

 なんだか悪者になった気分だけど、三人娘に対して探査者って鍛えると、このくらいのことができるんだよーって例の一つを見せなきゃいけないからね。

 

 とはいえ、もう4体もあえて派手目に葬ったのだ。もうそろそろ見栄えのよさとかはいいだろう。最後の、震える5体目に掌をかざして俺はつぶやいた。

 

「《目に見えずとも、たしかにそこにあるもの》」

 

 ここまで怯える相手に、ダブルアームスープレックスだの山形ダブルビームだのを放つのもちょっとどうかと思うので、無難にモンスター浄化用の範囲スキルを使う。

 敵味方の区別を俺の任意でつけられて、歪んだ因果を正したり異世界の魂を浄化して輪廻に還すこのスキルは、モンスターを安らかに送る時にも有用だ。

 

 敵の足元に魔方陣が描かれ、そこから浄化の炎が巻き起こる。モンスターに宿る、邪悪なる思念によって喰われて利用されてしまった異世界の魂たちを解放し、この世界の輪廻へと正しく受け入れるための浄めの焔だ。

 最初は驚き叫んでいたゴブリンだが、次第に安らかに、眠るように炎に巻かれて粒子へ変換されていく。

 

「ギギギギ!? ギギ、ギ──」

「……どうか安らかに。大丈夫、あなたの魂はこの世界の輪廻に溶けて、あるべき形に還れますから」

「──ギ──」

 

 告別、というわけではないが……まあ、一言二言添えておく。俺の言葉が理解できたかどうか知らないが、ゴブリンはうっすら微笑んで逝ったようだった。少し、安堵する。

 モンスターは全滅した。しんと静まる部屋の中。ふと、脳内にアルマの声が響く。

 

『お優しいことだな、公平。コマンドプロンプトとしての側面が、責任感を抱いているのかな?』

「その一面は否定しない……けど、やっぱり根本にあるのは山形公平としての想いだよ。行き場もなくさまよう魂を、俺なりに輪廻に受け入れてあげたいって思う」

 

 皮肉げなアルマに、山形公平とコマンドプロンプトが入り混じった今の俺としての想いで小さく答える。

 4つの異世界を喰らった邪悪なる思念なき今、モンスターに組み込まれている彼ら魂たちの安息は、この世界の輪廻に入ることでしか成し遂げられないのだ。

 

 仮に見放せば、彼らの魂は世界と世界の狭間、波動だけがただある空間に永遠と彷徨うことになってしまう。それは、あまりにも惨い話だ。

 だからこの世界の輪廻に受け入れる。魂も世界さえも踏み躙られた彼らの、何ひとつだって取りこぼしてなるものか。

 

『ふーん……公平というべきか、コマンドプロンプトというべきか? 君、システムの存在としてはありえないくらい情が深いねえ。この世界のワールドプロセッサや精霊知能よりひどいよ、その甘さは』

 

 呆れたような声で嘯くアルマ。理解できないのか、ため息交じりですらある様子だ。

 甘い……か。今の俺にとってはむしろ褒め言葉だ。

 

 この甘さのおかげで、俺たちは全部抱えたまま前に進むことができたんだからな。




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