攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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影が薄すぎて視界に入っていても気づかれないアレ

 もうちょっとスタイリッシュな戦い方できないかな? と考え出す俺はともかく。香苗さんは部屋に入り、戦闘態勢に移行した。

 スーツの内側のポケットからおもむろにナイフを取り出す。折りたたみ式の小さなサイズで、微妙にうっすら紫がかった刀身だ。

 毒だな、と根拠はないが直感的に察して、俺は彼女に質問した。

 

「それ、毒ですよね。もしかして対モンスター用のですか?」

「さすが公平くん、見抜いてきますね」

「え……なんでわかるのかしら? 同じのを見たことがある、とか?」

 

 香苗さんは笑って頷き、アメさんが疑問の目で俺を見る。

 パッと見で毒ナイフと判別するなんて、鑑定士でもなければ普通はできないよね。あるいは前に同じものを見たことがあるからわかった、と考えるのは当然の話だろう。

 

 だけど今回、俺は毒ナイフなんて初めて見るし、鑑定系のスキルはあるけどあくまでステータス看破用のものだけだ。鑑定士さんのような知識なんて全然ない。

 それではなんでわかったのか? っていうと……本当に直感というか、ナイフから漂う"感じ"を受けての気づきでしかないんだよね。

 言葉を選びつつ答える。

 

「ええと、そのナイフ、なんか雰囲気がおかしいと思いまして。紫って毒々しい色なのもそうですけど、なんていうかな……危険な感じがすごくしてまして」

「そ、そうなの? 傍目には全然、アメジストみたいに綺麗な紫だわ〜としか」

「……俺にもなんとなくわかるな、山形の言いたいことは」

 

 感覚的な話でしかないことに戸惑うアメさんへ、まさかの関口くんが俺に共感を示した。同じくナイフを見やり、強張った警戒の色を顔に貼り付けている。

 

「危険なモンスターと出くわした時のような、身の危険をそのナイフからはたしかに感じる。少しでも触れたら、掠ったらその時点でアウトだって、俺の中の何かが訴えてきてるよ。お前の言いたい感覚ってこれじゃないのか?」

「そうだね……まさしくその感じ」

 

 上手いこと言語化してくれて助かる、と俺は関口くんに感謝する。

 まさにそう、身の危険を感じるのだ。本能的なものか知らないけど、ヤバい匂いがあのナイフからはプンプンする。おかし三人娘は首を傾げているけれど関口くんも感じているんだ、この感覚は強ち俺だけのものじゃないはずだ。

 香苗さんが俺と関口くんを見て、満足気に頷いた。

 

「今回ばかりは関口についても、その鋭敏さを認めないわけにはいきませんね。その感覚は、ある程度以上実力のある探査者であれば誰もが抱くもの。正常なセンスです」

「となると、やっぱり」

「"サンドアリジゴクの毒殻"。かつて5年前、S級モンスター・サンドアリジゴクの討伐にサポーターとして参加した際にいただいた素材でこのナイフは造られています」

「S級モンスター……の、素材でできた武器!?」

 

 一同驚いてナイフに視線をやる。予想を遥かに超えた業物じゃないか、S級モンスターの素材でできた武器なんて。

 過去にそういう、S級モンスターが落とした素材でできたいくつかの鏡やグラス、あるいは槍なんかは存在するらしいけど……ナイフは初めて聞く。

 というか、だからそんなに禍々しい雰囲気を放っているのか。S級モンスターの一部だもんな、納得するしかない。

 

「S級モンスターというのは恐ろしいもので、落とした素材一つ取ってもすさまじい危険性を持ちます。今からそれも含め、私の《暗殺術》をご覧に入れましょう」

 

 そう言って、香苗さんはナイフを片手に歩き出す。気配を見事に殺し、足音一つ立てない完璧な無音でのムーヴ。

 ビッグワームも気づいて香苗さんのほうを向いているが、蠢くばかりで何もしない。攻撃手段さえ持たないので、相対しても逃げるくらいしかしないんだよな、このモンスター。

 

 彼女はそのまま敵に近づき、正面から左側に回り込む。ビッグワームも当然、気づいているはずなんだけど……なんだ? 意識が香苗さんに向いていない気がする。

 いや、意識が向けられないようにしている? 存在を把握していてそれでも、彼女を無害なものとして認識させられているのか? 通常であれば少なからず、逃げようとするものだけど。

 香苗さんが、静謐な表情でつぶやく。

 

「気づかれていてもなお、敵の死角へ回り込むことは可能です……気配を、物音をなくし、周囲に溶け込み当たり前のように空気のようにただ、流れればいい」

「…………これは」

「敵意も殺意もなく、ただ流動するのみ。ここに私の意識も意志さえも半ば、ありはしません。私の姿は見えても、私の心は見えない。ゆえに見つからない──無想無念法」

 

 言いながらもまったく姿を隠すことなく、サラリとビッグワームの背後を取ってしまった。明らかに存在を認識されているのに、何ごともないかのようにスルーされたのだ。

 そして背後を取った香苗さんが、手にしたナイフで軽くビッグワームに触れる。切りつけてもいなければ刺してもいない、刀身の腹で軽く撫でただけの動作。

 

 けれど……それだけで敵の身体に、S級モンスターの毒が回ったらしかった。即座にその身が、粒子となって空中に解けていく。

 信じられない威力だ。触れるだけでF級とはいえモンスターが絶命するって何ごとだよ。

 

「終わりです。安らかに逝きなさい」

 

 猛毒のあまりの威力に絶句する俺を後目に、続けざまにすぐ近くにいる2匹目をもそのようにナイフの腹で撫でて、同じく粒子へと変換させる。

 ここに至るまで音らしい音も立てずに終わった。S級探査者御堂香苗の暗殺技能は、ひどい静寂の中でその披露を終えたのだった。




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