攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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真人類?いいえ人間です

 流れるような、という表現が一番適していたように思う。

 

 香苗さんが戦闘を開始し、ビッグワーム二匹を倒すに至るまでの動きは逐一、まさしく清流を彷彿とさせるスムーズな動きだった。

 早くはない。けれど目にも止まらない。あらゆる動作に無駄も隙もなく、加えて気配どころか物音一つさえない無音移動。ゆえに敵の視界に入って、明らかに存在を認識されていたにもかかわらず意識の外から攻撃することができたのだろう。

 無想無念法、といったか。すごい技術だ。

 

「お疲れ様でした、というほどのものではありませんでしたね。ですが久しぶりの動きですから、少しばかりぎこちないので疲れました」

「お疲れ様です、香苗さん……あれでぎこちない扱いなんですね」

 

 ふう、と息をつきがてら戻ってくる彼女を出迎える。すでに知っていた関口くんはともかく、俺とおかし三人娘はとにかく感心やら感動やらで、すさまじい動きを見せてくれた先輩を讃えるばかりだ。

 本当に、とんでもない戦い方だった。何しろ今しがたの動きには一切、スキルを使った形跡はないのだ。先程のメモにもステルス系があったようにも思えないので、つまりは完全に技術一つで今の、視界にいるのに意識されないというわけのわからない動きを実現していたことになる。

 

 同じ技術オンリーでも星界拳とはまるで異なる技術。あちらが動ならこちらは静というべきか。ナイフの威力もさることながら、やはり一番注目すべきは動きそのものだったろう。

 香苗さんが微笑み、俺に言ってきた。

 

「公平くんに初めて見せるので、緊張していたのもあります。いかがでした?」

「すごい動きでした。まさかあんなふうに敵の無意識を突ける動きがあるだなんて思いもしませんでしたよ」

「私もこの技法を、かつての師……青樹さんから教わった時には同じことを思いましたね。見つかっているのに見つからない。矛盾こそがこの技法の真髄だと、まともだった頃の彼女はよく話していました」

 

 懐かしむような遠い瞳。暗殺術関係を教えてくれた師匠への、複雑な感情が俺の目にも見て取れる。

 やっぱりというべきか、青樹さん由来の技術だったか。人から教わる余地が少ない《光魔導》とは逆に、《暗殺術》を活かした戦闘スタイルなんてその道のプロから教わらないといけない部分が多いからね。

 青樹さんについて、香苗さんは続けて語る。

 

「彼女は元々、《暗殺術》を用いた暗殺技法の体得者でしてね。たまたま知り合った際に気に入られて、半ば強引に技を仕込まれました。探査者になって間もない頃の話です」

「本当に最初の段階から、お世話になっていたんですね……」

「その時点で《光魔導》を持っていた私でしたが、やはり近接戦闘法はそれはそれで有用ではありましたね。そこから2年ほど技を教わって独立したのですが、あの頃は、いい師匠でした」

 

 当時の青樹さんはまともだったとか、あの頃はいい師匠だったと繰り返すのがどこか物悲しい。

 香苗さんは香苗さんなりに本気でかつての師を慕い、だからこそ今の、優生思想に取り憑かれた姿を厭うているというのが伝わってくる。

 不意に関口くんが、おずおずと手を挙げた。

 

「どうしました? 関口」

「あの……青樹さんとは、和解の芽とかはないんでしょうか。俺が口を挟むことではないかも知れないんですけど、あの人は俺のことを、香苗さんの愛弟子だと言ってくれましたから。俺やあの人の考えは認められないとしても、どうにか俺たちとまた、師弟関係をやり直してもらえないかと思って」

「関口さん……」

 

 苦悩に顔を曇らせる関口くんに、チョコさんが心配そうにギュッと彼の袖を摘んで寄り添う。なんともはや、チョコさんの好意がものすごく透けて見えて青春感がすごい。

 アメさんとガムちゃんが、真面目なシーンだからとニヤニヤしないように口をモゴモゴさせているのを見てしまう。ていうかたぶん俺もモゴモゴしてそう。眩いやらこそばゆいやら羨ましいやら、ラブコメしてますなあ。

 

 まあ、それはさておくにしても。

 関口くんは青樹さんとも知り合いみたいだし、そもそも彼に真人類優生思想を吹き込んだのも彼女らしい。そんな人に香苗さんの愛弟子だなんて呼ばれたら、その気になるのもわかる気がする。

 たぶん彼からしてみれば、愛する師匠と恩人である大師匠が仲違いしている現状は辛いんだろう。惜しむらくは香苗さん自身には関口くんを弟子だと思ってないみたいなので、すれ違ってしまってるのが若干、気の毒ではあるけど。

 香苗さんがはあ、とため息をついて答える。

 

「改めて言いますが関口、あなたを弟子にした覚えはありません。そもそも私に弟子などいませんし、いたとしても伝道師としての弟子という意味合いで我が友、使徒宥がそれにあたるくらいなものです」

「そ、それは……そうですよね。正直いい加減、俺にもわかります。って、え? 使徒? 伝道師としての弟子?」

「それでもかつて、一ヶ月だけでも指導した者として言うならば……」

 

 伝道師やら使徒やらの不穏な単語にうん? となるけど、まあノイズということでそこはスルーしておくとして。

 3年前、新人だった頃の彼を指導していた香苗さんは、いくぶん柔らかな──優しいというより哀れなものを見る目で──今の関口くんを見据え、ゆっくりと告げる。

 

「何度でも言いますが、私たち探査者は選ばれた存在でもなければ新たな人類などでもない」

「っ」

「ダンジョンに潜りモンスターと戦う力を持っただけの、ただの人間です。私はそう思います……その点においてあなたや青樹さんとは決して、相容れることはない」

 

 そう語る彼女に、二の句が継げないまま。

 関口くんは俯いて、黙り込むばかりだった。




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