攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
問題児3人と、指導教官としてしっかりと向き合う。
そう告げた関口くんの目には、これまで見られなかった力が込められていた。目を逸らしてきた壁をしっかり見据える、そんな凛々しさを孕む表情だ。
彼は一つ深呼吸して、それから申しわけなさそうに、俺と香苗さんに向けて心情を吐露する。
「今まであの3人に対しては、厳しいことを言って嫌われることを恐れるあまり、肝心なことをずっとぼかし続けてきました。なんなら今回、言いにくいところを香苗さんや山形に言ってもらって、自分はフォローを入れる形で指導してやればいい、なんて考えていたほどです。すみませんでした……二人を踏み台にしようとした、愚かな考えでした」
「……まあ、気持ちはわかります。初めて受け持つ新人には、嫌われたくはないものですから」
「俺はともかく、香苗さんに嫌われ役をさせるのはちょっと……」
「わかってる。たとえ嫌われてでも、しっかり彼女たちと向き合って指導しようとしてこなかった俺が全部悪い。本当に、申しわけない」
深く頭を下げて詫びる、関口くんのそんな姿を俺は初めて見た。なんなら香苗さんも同様らしく、目を丸くして彼を見ている。
俺を出汁にするのは構わないけど、まさか香苗さんさえ利用しようとしていたのは驚いた……それだけあの3人に嫌われたくなかったって思いがあるみたいだ。
初めて面倒を見るルーキー。あるいは自分にとって初めての生徒とすら言えるかもしれない人たちに、好かれていたいと考えるのは香苗さんも言うように誰しもに当てはまることだと思う。
けど、そうやって嫌われることを恐れるあまり、言わなきゃいけないことも言えなくなっては、却って彼女たちのためにはならないのだろう。
それを、自分もまた成長していかなきゃいけない側だと自覚したことで認識したらしい。
決意の眼差しでもって、彼は俺たちに宣言した。
「でも、もうそんなことはしません。俺も、あの三人と一緒に頑張ります。たとえ嫌われても、それでも……彼女たちの指導役は、俺なんです。言わなきゃいけないことは、ちゃんと言います」
「……そうだね。あの三人が本当の意味でパーティとして頑張っていくなら、そうしてあげないと大変なことになる」
俺の言葉に、関口くんは深く頷いた。その姿はどこから見てもちゃんとした指導教官だ。そのことに今、彼はまた一つ成長したんだなって感じる。
未だ弟子どころか誰かの世話さえ焼いたことのない俺には、しばらくは届かないだろう領域だ。ていうか経歴的には俺はまだまだルーキーなので当たり前なんだけど、だからこそ関口くんの姿が一皮剥けたように映る。
俺もいつか、誰か新人さんの面倒を見ることになった時、こんなふうに振る舞えるだろうか。
でもあの3人みたいなのを担当するのはちょっとなあ。正直に言うけど本気で嫌だ。胃に穴が空きそう。一歩間違えればいろいろギスギスするの怖いよ本当、怖ぁ……
「ふむ。あなたの決意はわかりましたが……それで具体的に、彼女らの何にどう指導するつもりですか? それがわからず私たちを頼ってきたところも実際、あるでしょう」
香苗さんが、関口くんに対して問いかける。
彼の3人に対しての姿勢はさておいても、今しがたまざまざと見せつけられた三者三様の問題点に対して具体的にどのような指導を行うつもりでいるのか。そこは俺としても気になるところだ。
ちなみに俺としてはいくつか、アドバイスってほどじゃないけど思うところはある。たぶん香苗さんもそうだろうし、なんならもっと的確な意見を持っていることも十分あり得る。
関口が言うところの彼女たちと向き合った指導っていうのは、俺たちの意見や考えをも受け入れた上で行うのか。それともとりあえずは彼自身だけの考えや思いを伝えるのか。
関口くんは微笑んで、香苗さんに答える。
「もちろん、俺自身もこれまでに思ってきたことや考え、意見を伝えます……自分自身の言葉で。ですけど、せっかく二人にも現状を知ってもらったんです。是非とも意見やアドバイスは欲しいのが本音です」
「わかりました。私たちもここまで来て何も言わずに帰るのは、少しどうかと思いましたからね。丸投げせず、けれどこちらに助けを求めるというのは指導員として正しいあり方ですよ、関口」
「俺もいくつか、何か言えそうなところはあったし。参考程度に聞いてもらいたいこともあるよ。ぜひ話しさせてほしいな」
「香苗さん……! ありがとうございます! 山形も、ありがとう」
憧れの先輩に褒められ、感激して関口くんが感謝する。俺に対しても礼を言ってくるのだから、やっぱり春先からは相当変わったよなあとしみじみ思う。
──と、おかし三人娘が俺たちのところに戻ってきた。チョコさんは意気揚々って感じだけど、アメさんはどこかオドオドと自信なさげにしている。ガムちゃんだけだな、戦闘の前後で変化がないのは。
「関口さーん! 見ました? 私たちパーティの活躍!!」
「あ、あはは〜……わ、私はあまりお役に立てなかったですけど……」
「……臆病な分、考えなしのイノシシよりかはいくらかマシだし」
自分たちの活躍を誇示するのはチョコさんだけで、アメさんはすっかり自信を失ってしまっているみたいだ。年下のガムちゃんに指示されっぱなしなのは、彼女としても気になるよな。
で、やはりボソッと毒を吐くのがガムちゃんだ。アメさんへのフォローのようだけど、チョコさんに対しての物言いが辛辣すぎる。イノシシ扱いはさすがに怖ぁ……
表面上はにこやかで和やかなパーティ。けれどその実、いつ崩壊してもおかしくないほどにバランスがおかしなことになっている三人娘たち。
そんな彼女たちに、関口くんはついに向き直った。居住まいを正し、真剣な表情で口を開く。
「……みんな、お疲れ様。少し、話があるんだ」
そして、彼の本当の意味での指導が始まった。
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