【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
ダンジョンを出て急ぎ、組合に戻り報告する。至って問題なく今日のお仕事は終わりだ。お疲れ様でした。
香苗さんとも別れ──次の探査は明後日だ。毎度ながら、待ち合わせの約束まで交わしての解散となる──俺は実家へと帰宅した。
「たで〜ま〜」
「おけ〜り〜」
訛った感じに帰りを告げると、同じく訛った感じで出迎えられる。
居間に行くともう、ご飯の準備が着々と進行している。間に合った〜。揚げたてのトンカツがテーブルに並んでて美味そうだ。うひゃー! 涎が出る。
とはいえまずは手洗いうがい、そんでもってお風呂だ。
ダンジョン探査は基本、土塊の地下洞窟で行われるからね。どうしても多少は薄汚れちゃうからね。身綺麗にしないと。
今日の疲れを癒やすべく風呂へと赴く。誰も入っていないのを確認して、俺は脱衣して入浴した。
「ぶはぁあぁああ〜! うぃ〜、きもちー!」
頭と体を洗い、汚れを落として湯船へ浸かる。あたたか~い。体が溶けそうだ、気持ちいい。
締め切った窓の外はもう暗い。19時前だしそりゃそうか。今日も今日とて頑張ったなあ。太ももなんかの緊張を手で解す。もみもみ。
『お疲れ様でーす公平さん。着々とレベルアップしていってますねー!』
不意に頭に響く声。すっかり馴染みになった奴の声だ。
出たな妖怪思わせぶり。妙に不安になることばかり仄めかして、詳しくは言わずに去っていく原典より迷惑なぬらりひょんめ。
『うう、ごめんなさいってばー。システムさんにもさっき、こってり絞られちゃいましたし……はあ。リーベちゃん、反省〜』
声音が軽い。本当に反省してるのか疑わしく思えてくるくらいに軽い。
でもまあ、さしものシステムさんも看過できなかったみたいだな、こいつがこうなるまで叱るとは。口は災いの元だってこと、良い教訓だな。
『しょんぼり〜。それでですね公平さん。さすがにあそこまで言っといてお預けはないとのことで、お詫びがてら、少しだけ情報を伝えても良いってシステムさんが言ってました〜』
「なんですと!?」
おいおいまじかよ、良いんだそんな、ちょっとだけよ~みたいなの。
嬉しいんだがちょっと躊躇う。そもそも勝手に喋りだして勝手にいらんこと言いかけて勝手に自爆した馬鹿が発端なんだし、無理なら無理でだんまりも構わなかったんだけど。
まあ、せめてもの誠意ってんならお受けするけれども。
『じゃあ、言いますね? えーっと、システムさん的に、公平さんがアドミニストレータ用のスキルを使えること、これが一番重要なんですよ』
「アドミニストレータ用の……《誰もが安らげる世界のために》か?」
『ひとまずはそれですね。世界広しと言えど、人間でその辺のスキルを宿すことができるのって、公平さんだけなんですよ。本当、冗談抜きで』
「…………はあ?」
おいおい。ちょっと話が変わってきたぞ?
俺の認識だと、アドミニストレータ用のスキルはそもそもオペレータ側、つまり探査者には与えられることのないスキルだったはずだ。
それをなんでか俺に与えてきた理由、そこが分からなくてモヤッとしていた──率直に言うと俺じゃなくても良かったんじゃね? ってなってたわけだけど。
唯一使えるのが俺だけ? 生まれ育ちも普通の高校生捕まえて何の冗談だ、それは。
『本当ですってばー。ちなみに何で公平さんだけが? ってところは真面目な話、システムさんにも分かっていません。あの方ですら把握できてないって、とんでもないことですよ?』
「いや待ってなにそれ怖、こっわぁ!」
ついつい声に出して反応してしまう。ぱっと見独り言が、風呂場の湯気と共に反響する。
システムさんって、気楽に呼んでるけどぶっちゃけ神様的なアレだと思うんですけど。そんな存在ですら分からない? 俺がアドミニストレータ用のスキルを使えることの、理由が?
何かゾッとしてきた。俺は何者なんだよ。実は改造人間とかだったりしないだろうな。
『おそらくは、独力でコマンドプロンプトに干渉してみせた辺りに答えが隠されてそうですから、目下調査中ですけど。まあ公平さんの身体や魂には無害ですし良いんじゃないですか? 気にしなくても』
「いや、心。心のケアも大事よそこんとこ」
『そこはもう、公平さん次第かと。システムさんも人の心までどうこうしたりはしませんからね』
くっ、良識的なシステムさんで何よりですっ。
にしても、こんな話、世にしれたらどうなることやら。アドミニストレータの存在とそれ用のスキルだけでも大変な騒ぎになりそうなのに、それを何でか俺だけが使えるなんてもう、陰謀に巻き込まれるの確定だろ、これ。
怖ぁ……
『これは忠告ですけど、公平さん。リーベちゃんが顕現した暁には諸々、あなたにお話するのは確約しますけど……何をどこまで人々に伝えるのか、それはよく考えた方が良いですよ?』
いつの世も人は、愚かなことをするものですから。
頭の中に響くそんな声は、どこか底冷えする寒さを感じさせていた。