攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
おかし三人娘が先頭切ってダンジョンを行く、彼女らの後ろをついて俺と香苗さんと関口くんは歩いていた。
ガムちゃんの指示の下、サラマンダーも含めて進む姿はさっきのダンジョンに比べ、幾分か統制された動きをしている。香苗さんの思惑どおり、最初から指揮官役を彼女に任せたのはひとまず成功かもしれないな。
「……山形。ありがとうな」
と、歩く俺に横並んで関口くんが不意に、小さく囁くような声でそんなことを言ってきた。探査者として強化された聴覚でもってなお、ぎりぎり聞こえるかどうかの密談。
和解して、すっかり丸くなったってのはもちろん承知の上なんだけど、それでもここまで素直な姿はなんだか違和感があるなあ。とはいえそんな思いはおくびにも出さず、俺は少しだけ首を傾げつつ聞き返した。
「ええと、何が?」
「アメにアドバイスをくれたろ。それにガムを気にかけてくれた……あの二人はたぶん、俺よりお前のほうを気に入ってるみたいだからさ、助かったよ」
「えぇ……? 気に入ってるって、何が……?」
急になんか言い出したぞ、この人。アメさんとガムちゃんが俺を気に入ってるって、何を根拠に言うんだかそんなこと。
言っちゃ悪いが誰でもできそうなアドバイスを、雑に投げた感は否めないし。そもそもそれ以前に大した関わりもなかった彼女たちに、正直言って好かれる要素は思いつかない。
何、急に。いやマジで。
困惑しきりの俺に苦笑をこぼして、関口くんは軽い口調で話していく。
「アメは単純に、自分のスキルについて自分より詳しいお前が頼りになるんだよ。《召喚》の仕様については、悔しいけど俺も知らなかったし」
「それは……無理もないよ。あのへんのスキルは結構レアだからさ」
それに加えて俺、コマンドプロンプトっていうスキルを生み出した側の元締めみたいな存在だし。内心でそこまで付け加えつつも、なるほどとアメさんを見る。
彼女の持つ《召喚》は、そもそもの保持者が少なければ仕様についても未だに不明瞭な部分が多いという。そもそも概念存在についての事前知識を備えておく必要があったりと、使いこなせば強力だけどその分扱いの難しい、ピーキーなスキルなのだ。
そんな状況だから、彼女も自身の力をどう使うのが正しいのか、考えあぐねているのかもしれない。
そこに俺という、どっちかって言うと《召喚》で呼び出されかねない側のモノが現れたわけで。それを考えると、なるほど藁にもすがる思いになるのも頷けなくはなかった。
「ガムはもっと単純で、どことなく甘えられる感じがお前からしてるんだろうな。それに元からして俺に対しては、壁を作っていたし」
「え、そうなの? 結構打ち解けてる感じ、するけど」
「あー、そこはほら……チョコが俺に懐いてくれているからな。なんだかんだ、あの3人だとチョコが全体の方向性を決めている節があるんだ。だから、アメにしろガムにしろ一応距離を縮めてくれているってだけさ」
苦笑いして関口くんは答える。
なるほど……つまり君はチョコさんに慕われているって自覚があるわけか。さすがイケメンだ、サラリとモテてることをアピールされちゃったよ。
とまあ、それはさておいて。チョコさんがいわば関口くんとアメさん、ガムちゃんの間を繋いでいる楔になっているわけか。
たしかにあの3人の関係は見ていると、チョコさんが他二人を引っ張っているリーダー感がある。それこそ先導役っていうのかな、アメさんとガムちゃんが意思表示に対して控えめなところがあるから余計、そんな感じはするな。
逆にそういう性格ゆえ、戦闘になるとイケイケモード全開で敵に突っ込んでいく悪癖に繋がってる部分も大いにありそうだ。
「正直、俺じゃアメやガムに向けて、そこまでいい感じのアドバイスはできそうにない。だから香苗さんはもちろん、お前にも感謝してるよ」
「いや、いやいやいや。香苗さんはともかく俺は大したこともしませんでして、へへへ……」
「お前、どんだけ強くなってもそうなんだな……」
ストレートな感謝についつい顔が緩む。鼻の頭をポリポリ掻きながらも照れ笑いを浮かべる俺に、なんだそりゃと関口くんは一つ笑みをこぼした。
少しの沈黙。そしてそれから、彼がおもむろに口を開いた。
「……悪かった」
「え?」
「春から、あのGWのツアーにかけて。俺、最悪だったろ」
歩きながら思わず見る、彼の横顔は憂鬱と葛藤に塗れていて。
急な謝罪にもその表情にも絶句する俺に、構わず関口くんは言葉を続けた。
「お前にも、香苗さんにも迷惑かけてさ。俺自身、薄々わかってたんだ。俺の考え方や想いは、間違ってるって」
「関口くん……」
「でも、それを認めたくなかった。認めてくれた青樹さんを裏切りたくなかったのもあるし、何より、あの真人類優生思想にも共感できるところはあったから」
意外、と言っていいんだろうか。
青樹さん経由で染まった選民思想の間違いに、彼自身薄々ながら気づいていたという。けれどたしかに共感するところもあって、認めることができなかったとも。
彼の、深い懊悩の核心とはその、真人類優生思想に共感できる部分に由来するような気がする。
やがて関口くんは、一つの問いを俺に、投げかけた。
「山形……俺たち探査者は、なんのためにダンジョンに潜るんだ?」
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