【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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えっ、今日はトンカツ食っていいのか!!

 本当にありそうな怖い話に、温かい湯船に浸かりつつも肝を冷やした俺は、まあそれはそれとして、風呂上がりに美味しいトンカツを食べていた!

 黄金色の衣がサックサク、噛めば噛むほど溢れる肉汁が舌に広がり、適度な脂身の肉質が口内にて溶けていく。それをおかずにホカホカの白米を口に入れると、ああ、たまらん!!

 

「美味い! 美味い!」

「よく噛んで食べなさいよー。早食いは体に良くないからね」

「ウメーウメー!」

「夜道に日は暮れないんだから、もっとゆっくり食べなさい」

「うめ、うめ」

「肉だけじゃなくて野菜も食べなさい……聞いてるの? ねえ」

 

 はい、お母様。聞いてますので般若の顔やめてください怖いです。

 お腹ペコペコだったからついつい箸が進む。肉、肉、肉! な感じだが仰るように、野菜も食った方がもちろん良い。キャベツ旨し。

 

『ちょーっと脅しすぎたかなーって、リーベちゃん心配してましたけど。その様子ならへっちゃらそうですねー』

 

 いつもの声音、けれどどこかホッとしたようなリーベの声が頭の中に。

 こいつはこいつで心配してくれていたんだろう。というか、気にかけてくれてなきゃ、あんな忠告そもそもないだろうし。

 ありがたくって涙が出ちゃうよね、まったく。

 

 まあ、俺だけが唯一、アドミニストレータ用のスキルを使える、なんてこと。

 聞いて混乱したし暗い、恐ろしい想像に戦慄したりもしたが。なんてことはない、そこだけ言わなきゃ良いだけなのだと気付いて俺は即座に肩の力を抜いた。

 

 だってそうじゃん? アドミニストレータとかオペレータ、システムさんやリーベについて話すにしてもだ。俺のスキルが本来、アドミニストレータのために用意されたものだなんてのは言わなきゃ分かんないし。

 そもそも俺からじゃなくてリーベから、天啓みたいな形で必要最低限のことだけ伝えてもらったら良い。俺が表舞台に出る必要なんてまったくなくて、そこは何かのトリガーらしいリーベ様降臨の暁として、盛大にお一人様で盛り上げていただこうじゃないか。

 

『スケープゴートとはまさにこのこと……ですがまあ、任されますよー。公平さんが人間たちの勝手な思惑に翻弄されるなんて、システムさん的にもリーベちゃん的にも世界的にも、絶対にあってはいけないことですからね。システムさんなんて天啓でも天誅でも何でも下すって、息巻いてらっしゃるくらいですよー』

 

 いや怖いよ! 怖すぎるよシステムさん!

 思わぬ神の怒り的な発言を脳内にて受け止め、不意に箸が止まる。喉を詰めたと勘違いしたのか、優子ちゃんがコップにお茶を注いでくれた。

 誤魔化しがてら、それを飲む。冷たくてうまぁ……

 

「バカ食いしすぎで喉詰めるとかダサすぎん? 兄ちゃん」

「つらい」

 

 そんなんじゃねーやい! と言いたいところだけど甘んじて受ける。おのれリーベ、俺を罠に嵌めるとは。

 

『はいはい。とにかくそういうことですからー、公平さんは心置きなくダンジョン踏破、おねがいしますねー! バーハハーイ!』

 

 そう言って脳内から声がなくなる。だから、貴様いくつだ!

 ツッコみつつも俺は夕食を引き続き、食べていた。

 リーベも消えたし、ごはんに集中することしばらく。

 

「ごちそうさまでした!」

「はい、よろしゅうおあがり」

 

 十分にお腹いっぱいになり、俺は食事を終えた。

 結構あったトンカツも一つ残らずない。俺はもちろん母ちゃんも父ちゃんも優子ちゃんもかーなーり、ガツガツ食ってたからね。健啖だね。

 

 さて、しばらく居間にてゆっくりする。食後30分は家族で団らんして、そこから片付けの手伝いと歯磨きをして自室に戻るのが我が家のスタイルだ。

 

「この芸人さん、最近良く見るね」

「そうなん? 面白いの?」

「え、普通? コントとか漫才してるのは見たことないし。バラエティのリポーターとかで、よく見かけるなって」

「そう……」

 

 みたいな、毒にも薬にもならない他愛のない話が続く。

 まあ、会話のすべてがためになったりダメになったりするようなものである必要、どこにもないから。

 適当な会話も良いもんだねと思いがてら、俺は優子ちゃんに気になってたことを質問する。

 

「優子、何か悩みとかあんの?」

「え、どうして?」

「いやあ、こないだほら。かな、いや御堂さんを紹介するって言ってた時、ちょっと様子がおかしかったから」

 

 家族には香苗さんのこと、香苗さんって呼んでることはまだ知られてないんだった。あぶないあぶない。

 俺の言葉に優子ちゃんは目を見開いて、少し俯いた。何かを悩んでいるみたいに目を閉じて、意を決したように目を開いて俺を見る。

 

「兄ちゃん、あのね。私の友達に、探査者の子がいて」

 

 妹の口から出た言葉は、意外なものだった。


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