攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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「狡猾? 慎重と言ってくれませんかコマンドプロンプト」

 玄関を出て、手を振りながらも傘を差し、雨の中へと去っていくヴァール、アンジェさん、ランレイさん。

 それを遠く、姿が見えなくなるまで見送ってから。俺とリーベは同時にふう、と息を吐き、部屋へと戻っていった。

 

「ヴァールまで含めて、楽しいトリオでしたねー」

「明るいアンジェさんに挙動不審なランレイさん。努めてクールなヴァール。それぞれ個性的でもあったしなあ」

 

 俺は椅子に、リーベはベッドに腰掛けて三人を想う。

 アンジェさんやランレイさんとヴァールとで大きく年齢の離れた三人だったけど、息の合い方はそれこそ親しい友人って感じだ。いろいろ波長の合うところはあったんだろうな、お互い。

 

 それにしても、と今しがたの話を振り返る。

 アンジェさんとランレイさんが明日から向かう首都圏、そこに潜むダンジョンコア密売組織サークル。ヴァールはその組織に、過去何度となくモンスターハザードを引き起こしてきた、委員会という組織の陰を感じ取ったとのことだが……

 そうなると、なんとなくだが大きな騒動に発展しそうな気配がするよね。なんだか気にかかる話だ。

 リーベは何か思うところあったりするんだろうか? 俺はふと、彼女に質問した。

 

「なあ、お前はどう思う? サークルと、委員会との繋がりとか……ダンジョン聖教まで動いてるって話らしいけど」

「うーん? そうですねー……」

 

 ソフィアさん、ヴァールとは別の形で大ダンジョン時代の構築に大きく関わっていたのがリーベだ。であれば有識者として、何かしらの見解を持っていてもおかしくはない。

 そう思っての質問だったのだが、さしもの彼女でもお手上げに近いらしかった。両手をぷらぷらと振って、呻くようにつぶやく。

 

「……ごめんなさい、リーベには判断材料が少なすぎますー。WSO周りや探査者界隈のあれこれについては、ワールドプロセッサとヴァールが主軸で動いてましたし。ほら、リーベちゃんってばソフィアが生きていたことさえ知らなかったわけじゃないですかー」

「あ……そうだったな。ワールドプロセッサが意図的に、お前とヴァールを分断してたんだったか」

 

 今年の梅雨頃だったかな? 初めて首都圏に行って、ソフィアさんと出会った時を思い返す。

 先代アドミニストレータであり、150年前に邪悪なる思念に殺されたはずの彼女が生きていた。そのことに、尋常でなく動揺したのはまさしくリーベだった。

 

 敗残したヴァールを受肉させ、その身体に死んだソフィアさんの魂を入れて擬似的な蘇生措置を施し。

 システム領域から独立した存在となった彼女たちと密約を交わして、WSO発足を促し大ダンジョン時代を牽引させた、一連の流れについて……ワールドプロセッサのやつは、並行してアドミニストレータ計画を進行させていたリーベには一切何も知らせずに進めていたのだ。

 対邪悪なる思念のメインプランとして慎重にことを進めていた彼女としては、そりゃブチギレるに決まってるよね。

 

 実際、ソフィアさんに気づいたあとしばらく、リーベったらワールドプロセッサに怒鳴り込んだみたいだしな。

 おそらく素気無くなあなあでスルーされたんだろう、帰ってきた時にしょんぼりと力なくつぶやいていたのは忘れられない。

 

「アドミニストレータ計画を進行させることに注力してましたからー、この100年、大ダンジョン時代と呼ばれてきた現世での事象については他の精霊知能からの断片的な資料でしか確認してなかったんですよねー」

「まあ、だろうな……ワールドプロセッサとしてもアドミニストレータ計画こそが本命だったろうし、だからこそヴァールたちを利用して秘密裏に、この世界をオペレータにとって活動しやすいものに作り変えさせてきた部分もあるだろうからな」

「それだけじゃないでしょうけどねー。たぶん、私たちが失敗したあとのことまで考えてましたよあの方ー。サブプラン、明らかに複数抱えていましたしー」

 

 拗ねたように体育座りして嘯く。リーベよ、短めのスカートを履いてその体勢はちょっと気まずいぞ、やめてほしい。

 視線を逸して虚空を見つつ、なるほどと考える。ワールドプロセッサの立場上、アドミニストレータ計画が失敗した時を考えてサブプランを複数、考えていたのは間違いない。

 

 俺が言えた義理じゃないけどあいつ、根本的に秘密主義で策謀家気質だからな。常に失敗した時を見据えているし、それに備えていろいろと、隠れて行っていたのを俺……コマンドプロンプトは知っている。

 なんならそのことが精霊知能に露見することさえ、恐れていた節があるほどだ。リーベにも黙ってあれこれ画策していたのなんか、最たる例だな。

 

 ここだけ切り取ると信じることを忘れた哀しいモンスターって感じなんだけど、それとは裏腹に慈悲と情けにも満ちている優しいモノだということは忘れてはならない。

 二面性というのかな。人情家な一面もありつつ、反面では一切他者を信用しない狡猾な部分も併せ持つ。誰にでもある清濁併せ呑む性格なんだけど、システムプログラムであるワールドプロセッサにもそれは当て嵌まるらしい。

 

 まあ、対となるコマンドプロンプトがこれこの調子ですからね。

 人間味……とはまたちょっと違うけど、ワールドプロセッサにもいいとこ悪いとこはあるっていう、ある意味当たり前の話でしかないわけだ。




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