【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
次の日の放課後、早速俺は妹の通う中学校へとやって来ていた。ぶっちゃけ俺の出身中学、栗律中学校だ。
卒業してまだ一月くらいでまさか、戻ってくることになるとは露にも思わなかった。
何なら当時世話になってた先生や知り合いの後輩たちに囲まれて、例のインタビューとかシャイニング山形について驚かれるやらからかわれるやらするし。みんなして見てんじゃないよあんなもの!
もうこの時点で帰りたくなっちゃったのは内緒だ。
とはいえ今日ここに来たのは他でもない、優子ちゃんのクラスメイトの逢坂さんに話を聞くためだ。多少の恥なら我慢しましょう。
と、噂をすれば妹ちゃん。隣には同じ学生服の女子を一人連れてきている。おそらく彼女が逢坂さんだろう。
黒髪を長いストレートに伸ばした、楚々としつつもどこか気のきつそうな、若干吊り目気味の美少女さんだ。どこか険のある表情で、俺の方を訝しげに見てくる。
あれ? 俺、何かお呼びでない?
思いもよらない隔意にびっくり。目を丸くしている俺に、誤魔化すような笑みを浮かべて優子ちゃんが話しかけてきた。
「お、お待たせ〜。こっちが昨日、話してた逢坂さん」
「……どうも」
「ど、どうも〜。山形優子の兄、山形公平で〜っす」
努めてにこやかに、何ならヘラヘラしてる感じですら挨拶する。笑顔の力で空気を和ませられるかと一瞬期待したが、逢坂さんは冷たい目で俺を一瞥すると、周囲を見回し、
「御堂香苗さんはいないんですか? あなただけが、お一人で来たんですか?」
なんてことを言ってくる。怖ぁ……何この子、いきなり喧嘩売ってきてるぅ……
さすがに優子ちゃんの目が釣り上がる。そうなんだようちの妹、実のところ身内や友達が失礼な真似するのを嫌うんだよね。それこそ誰彼構わず噛み付くくらいには。
「逢坂さん、何その態度。あなたが兄に会いたいって言ったんでしょう。え、まさか御堂さんを連れてくるって勝手に思い込んでたの? 何様?」
「……失礼しました。ですがあなたのお兄さんは御堂さんと仲が良いはず。でしたら、連れてきてくれても良いものかと思いまして」
「それを判断するのは逢坂さん、あんたじゃなくてうちの兄と、何より御堂さん本人じゃない。勝手に頼って来といて、厚かましいこと言ってんじゃないわよ」
「……帰りますっ」
自業自得だがボロクソに言い負かされて、逢坂さんが踵を返そうとする。頭に来つつも向こうが正論、何も言い返せないから、悔しさに歯噛みしながら帰ろうって感じの様子だ。
うーん。まあ、一応は言うだけ言おうかな。
俺は瞬間的に身体能力を駆使し、明後日を向いた逢坂さんの前面に立ち塞がった。優子ちゃんと逢坂さんからすれば俺、瞬間移動したみたいに見えるだろうな。
「なっ!?」
「え、え、兄ちゃん!?」
「イヤッホウ」
凍った空気を茶目っ気でどうにか、ならねえなあこれ……
とにかくおちゃらけつつ俺は、眼前の逢坂さんに笑いかけた。
「な、何ですか。失礼な態度を取ったことは謝りますけど、でも御堂さんがいないのでしたら」
「たしかに今日は俺一人だけどね、話くらいは聞けると思うよ? 一応、年上だし。探査者としてのレベルだって、まあ君よりかは上だろうからね」
「……挑発ですか?」
ちょっと意趣返し、ってほどじゃないけど言ってやったら、まあこの子、面白いくらいにフィーッシュ! しちゃった。
年頃のカッカしやすさはあるにせよ、にしたって沸点低すぎない? 瞬間湯沸かし器かな?
険しい顔で怒りに顔を赤くし、彼女は俺をせせら笑う。
「聞いてますよ、あなたは探査者になって精々一月くらいの新人だと。たとえA級トップランカーの指導があったとしても、一年探査業をしてきた私に勝てるわけが」
「ホイ探査者証明書」
「な、い…………レベル、72ぃっ!?」
差し出した俺の探査者証明書、そこに記されたレベルの高さに、逢坂さんはこっちがびっくりするくらい目をひん剥いていた。
まあ、そりゃね。新米がたった一月でレベル72──御堂さん曰くだが、E級どころかD級さえ飛び越えて、もはやC級探査者の中でも下層くらいのラインらしい──に到達してるなんて、たぶん誰にも予想できないことだ。
我ながら大人気ないことをしたとも思うけど、どうも彼女はガチガチに数値とか評価で人を見てそうだ。実際の証拠で示さないと話が進まないと踏んでのことなので、きっと俺は悪くない。たぶん。
優子ちゃんも何が何やら分からないまでも、俺が非常識な強さなことを逢坂さんの反応から読み取ったみたいで、何やらドン引きしだしている。妹ちゃん?
気を取り直し、続ける。
「ま、というわけだからさ。もう一度言うけど話くらいなら聞けるし、場合によっては……本当に逼迫していると思えたなら、俺から御堂さんに相談してみても良い」
「あ、あなたは……何者なんですか」
「山形公平。そこにいる山形優子の兄で、東クォーツ高校一年生で、E級探査者。そして何より、何より」
「…………何より?」
何より。何より。何かあるかな、ええと。
「何より、ええと、えーと。えー……何でもないです。以上で〜す」
「なんですか、それ……」
何かカッコいい言い回ししようとして失敗しちゃった。恥ずぅ。
そんな俺に、呆然としつつも逢坂さんは、少しばかり呆れたように笑ったみたいだった。