攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
今回探査するダンジョンは結局、C級の中でも比較的小規模なものを一つだけだ。階層は3、部屋数は6。最下層には最奥だけがあり、それまでの2階分で5部屋を賄っている構造になる。
出てくるモンスターも無論、C級相当なので大した難度でもない。俺にとっては未だ実力の知れない関口くんだけが気にかかったけど、本人は至って問題なく、
「このくらいが今の俺には適正だな。苦戦せず、といって油断もできず。適度な感じに身体を動かせそうだ」
と言っているので、心配する必要もないみたいだ。まあ彼も、いつの間にやらC級探査者になってたしこのへんは普通に対応できるということだろう。
話も決まり、組合本部を出る。ダンジョンの場所は最寄りのローカル電車を使うこと二駅分、県内でも特に名高いお寺のすぐ近くにある。たしか祝勝会の時、マリーさんや神谷さん、サン・スーンさんが観光にと訪れていた土地らへんだね。
駅へと向かいつつ歩きがてら、さきほどの香苗さんの言葉のなかで気になっていたところがあったので、彼女に尋ねてみる。
新装備の試験運用って言ってたけどどういうことだろう? パッと見、特に何か変わった様子も見られないんだけど。
「そう言えばさっき、新装備の試験運用って仰ってましたけど、香苗さん。あれって一体?」
「あ、ええ。昨日、検査に出していた青樹さんから受け取ったマント……彩雲三稜鏡についてです。一応、あれの使い心地を試してみようかと思いまして」
と、言いながら香苗さんは手首を見せた。何やら、今まで見たことのない腕輪をつけている。
……え。まさか話の流れからしてこの腕輪、あのマントなのか!?
「彩雲三稜鏡の合成繊維に使われている、クレセントゴーレムのコアの特性……手にしたものの意志を読み取り、形を変える能力とは凄まじいですね。あのマントがこのようにブレスレットにも変わるのですから」
「そ、その腕輪ってか、ブレスレットがあのマント……!?」
「あれをあのまま着て過ごすと、さすがに仮装が過ぎますからね。普段はこのように小物に変えておいて、有事の際にはマントとして装着しようと思います」
陽の光を反射して、眩くも上品に煌めく銀色のブレスレット。どうやらマジでこれこそがあの、彩雲三稜鏡の変化した形態らしかった。
クレセントゴーレム、たしかA級モンスターだったか。自在に形やサイズを変える変幻自在の土塊が極稀にドロップするという素材は、たしかに所持者の意志に沿って自在に形を変えると聞くけど。
マントがブレスレットになるレベルで変形するとは想像の埒外だ。なんなら材質まで変わってるじゃないかよ。関口くんも唖然として、思わず同じようなことを口にしている。
「布がブレスレットにって、そんなこと……あり得るんですか?」
「クレセントゴーレムのコアだけならばありえませんが、彩雲三稜鏡はアサルトフェニックスの羽根とバーチカルユニコーンの毛皮も合わせた、合成繊維で造られています。それゆえ実現した特性だと、メーカーの方も仰っていましたね」
「それってたしか、東洋探査素材工業の?」
「ええ。そこの品質保証部門に検査してもらいました」
サラリと言うけど、東洋探査素材工業ったらかなりの大企業だよ。検査してもらうだけでも相当な手続きが必要でもおかしくないのを、ちょっと鑑定してもらうみたいなノリだよなあ、香苗さん。
しかもどうやら、製造元だけを訪ねたわけでもなさそうだった。昨日巡ったらしい場所の名前を、彼女は挙げていく。
「WSO研究所の兵装開発部と素材研究部にも持ち込み検査を依頼しましたが特に危険性はなし。万一のために知り合いの神職の下へ行き、お祓いもしてもらいました。ここまで確認すれば危険性もさすがに低いと見做してもいいでしょう」
「研究所はともかく……し、神職? お祓い?」
「な、何もそんなオカルト方面にまで行かずとも……」
どんだけ危険視してるんだよ、と言いたくなるくらい方々で検査してもらっちゃってるよ、彩雲三稜鏡。
挙句の果てにはもはや探査業関係ないスピリチュアルな方面にまで行っちゃってるし。お祓いって、何かよからぬモノが取り憑いていることを危惧したんだろうか?
さしもの関口くんもこれにはびっくりした様子で、特にお祓いって部分にものすごくドン引きしている。
まあでも、なんかこう、悪霊みたいなのっていなくはないからね、実際。未練とかいろんな要因で現世に留まるモノはたしかにいるし、なんなら俺にだって見えるし、祓うこともできなくはない。
とはいえ今回のケースで、そんなことまでする必要はあったんだろうか? 彩雲三稜鏡も曰くつきっちゃ曰くつきだけど、オカルト方面というよりサイコホラーな方面での曰くだろう。
微妙な顔をする他ない俺に、香苗さんはニコリと微笑んで言った
「青樹さんの生霊が取り憑いていないとも限りませんし。公平くんもあのような怪文書を見たのですから、私がそう思ってしまうのも無理からぬことと、分かってくれますよね?」
「う……え、ええまあ、はい。俺でもそうするかもしれません……」
彩雲三稜鏡のデータの備考欄に延々、綴られていた青樹さんから香苗さんへの怪文書。あと俺への絶許宣言。
あんまりな冤罪ぶりに思わず背筋も凍ったアレを思えば、とりあえず駆けつけお祓い! みたいな感じで神社に駆け込むのもわからなくはないよね。
思わず納得してしまう俺だった。
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