【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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届かなくても伸ばし続ける。そのためにこの手はある

 もう一度、頭を冷やして考え直してみます。そう言って、肩を落として逢坂さんは帰路についた。

 俺の指摘が完全に想定外だった──というよりは、復讐に囚われるあまり視野が狭くなっていたため、思いも付いていなかった──ようで、最初の勢いも完全に消沈した小さな背中を見送りながら、俺は息を吐いた。

 

「……酷いことを、言っちゃったかな」

「兄ちゃんは正しいことをしたよ」

 

 間違ったことは言わなかったつもりだけど、それでも彼女に、ショックを与えるような物言いをしてしまったのは事実だろう。

 そのことに思い悩む俺を、隣に立つ優子ちゃんが間髪入れず、否定してくれた。

 

「私は探査者じゃないから、話の半分も分かんなかったけど。あの子が大切な人を想うあまりに、気付かないまま、他の人を大変な目に遭わせようとしてたってのは分かるよ」

「……そうだね」

「だから、それを止めて彼女の目を覚まさせた兄ちゃんは間違ってない。私が保証する。兄ちゃんは、逢坂さんが誰かの仇になるのを止めたんだよ」

 

 迷いなくそう言い切る妹の、心はなんて強くて優しいんだろうね。

 本当、俺にはもったいない妹だ。優子ちゃんの頭を撫でる。

 くすぐったそうにしつつも受け入れてはにかむ彼女の、笑顔が俺には誇らしかった。

 

『あー、兄妹水入らずのところすみませーん。公平さーん』

 

 ──と、いつもながら急に響く脳内の声。

 リーベの、どこか飄々とした調子の声が俺だけに届いてきた。

 

『称号、新しいのきましたよ〜。ちわ〜、リーベ屋でーす』

 

 毎度裏口から入ってくる酒屋のあんちゃんみたいに言うんじゃないよ。いつも済まないねえ。

 

『それは言わねえお約束だよとっつぁ〜ん。それじゃ、空気の読めるリーベちゃんは華麗に去るぜー!』

 

 さらばだー! と、リーベは珍しく要件だけ告げて去っていった。

 ……重い話の直後だから気が引けたな、あいつ。普段から茶化してばっかりいるのに、こういう空気だと途端に借りてきた猫みたいな雰囲気の声音になるあたり、リーベは何だかんだ自分で言うように、空気が読めたりするんだろう。

 

 まあ、お陰で良い気分転換になった!

 そんじゃあまあ、早速ステータス確認といきますかね。

 優子ちゃんと自宅へ戻る道すがら、俺は小声でステータスを出した。

 

 

 名前 山形公平 レベル72

 称号 心いたわり寄り添う光風

 スキル

 名称 風さえ吹かない荒野を行くよ

 名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た

 名称 誰もが安らげる世界のために

 

 

 称号 心いたわり寄り添う光風

 解説 優しきは甘きでなく、厳しきでない。凍え震える身体をそっと、暖め癒やす陽気なり

 効果 場所、環境問わず半径1km以内のスキルを持つ者の位置を把握する

 

 

 《称号『心いたわり寄り添う光風』の世界初獲得を確認しました》

 《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》

 《……手を差し伸べることは時に、己をも相手をも傷付けることもありましょう。けれど、それでも伸ばした手には意味があるのです》

 

 

「…………ありがとう、システムさん」

 

 まさか音声アナウンスで慰められるなんてね。これも世界初なんじゃない? システムさん。

 効果──こないだ手に入れたモンスター探知能力の、探査者バージョンってとこか。ダンジョン内の人探しにはもってこいだな──も、さることながら。

 システムさん直々の温かい言葉に、なんだか照れくさくなっちゃう俺だ。そんなに落ち込んで見えたんかね。思えばリーベも、俺がガチ凹みしてたからそそくさーと逃げたのかもしれない。

 

 でも、もう大丈夫だ。

 優子ちゃん、リーベ、システムさん。

 それに父ちゃん母ちゃん、佐山さん、松田くん、木下さん、片岡くん、遠野さん。

 そして、香苗さん。

 

 俺にはこんなに大切な人たちがいる。これからもっと、増えていくだろう。

 みんなと楽しく過ごすためにも、こんなところでへこたれていられない。

 

「よーし! 優子ちゃん、せっかくだしお兄ちゃんが何か食べ物買ったげよう!」

「え、マジ? やったー! あのね、えっとー、駅前のブティックに良い感じの春物があってー。あ、あと商店街でこないだ、かわい~いバッグがあったの! ゴチになりやす!」

「食い物つってんじゃ〜ん」

 

 冗談めかして笑い合う俺たち。

 逢坂さんのことは一応、香苗さんにも相談しておこう。例のリッチのいるダンジョンにも、一応気をかけとくかな。

 優子ちゃんにも、彼女のことは見といてもらおうか。落ち込んでいたらそれとなくで良い、寄り添ってあげてほしい。

 

 あとはもう、いつもどおりだ。

 俺は改めて、色んな人に支えられていることを胸に、優子ちゃんと一緒に自宅へと帰っていった。


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