【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
さてさて学校生活も送っていくのがこの俺、山形公平くんの探査者ライフだ。ワークライフバランサーなんて称号を得たこともあるのは伊達じゃあない。
今は平日、学校のお昼。午前の授業をすべて終え、皆、思い思いにグループで寄り合って弁当箱を広げている。俺もそうだ、いつもの6人組で集まっている。
「こないだ野良猫が家の前にいてさあ。子猫だったんだけど、めっちゃ人懐っこくて!」
「え〜かわいい! 何、抱っこしたりしたの?」
「いや、俺の方が動物怖いから近寄れなかった。向こうがグイグイ来てたんだけどなあ」
「うわ、もったいな」
松田くんと木下さんがそんな話をしてるのを、俺と片岡くん、遠野さん、そして佐山さんが弁当を突きながら聞いている。
昨日見たテレビについてとか、ネットで話題のあの動画だとか。あるいは今日やった授業についてのアレコレだとか。話題は多岐にわたる。
特にお喋りさんな松田くんを起点に、このグループはまとまっていた。ムードメーカーってやつなのかもね、彼は。
「いや実際、苦手なのは苦手だもんよ。なあ山形」
「そうだねー。俺も、急に虫とか来ると怖いかも」
「山形くん、虫だめなの?」
「得意じゃないよねえ」
やんわり表現したけど実際は超苦手だ。虫怖い、虫嫌い。
あいつら絶対宇宙から来たよ、虫虫星からの侵略者だよ。そのくらい俺は、昆虫が苦手だ。
具体的に言うと蝿でも無理。近くを飛んでたらスキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》が発動するくらい、臨戦態勢になる。《誰もが安らげる世界のために》だって発動してもいいくらいだ。
『さすがに、外界のハエ一匹に絶対に負けてはならない戦い判定はくだせませんよー』
とは、さしものリーベにさえ呆れられながら言われたもんだ。お前に俺の気持ちが分かるかっ! うりゃっ、虫嫌いになっちゃえっ!
割と本気で虫が嫌いになるビームを放ちたい。まあそれはさておいて。
佐山さんがどこか、神妙に聞いてきた。
「ダンジョンとかで虫っぽいのが出てきたらどうすんのー……? いるんでしょ、そういうのも」
「そりゃいるよー。でもそいつらはモンスターだし、俺は探査者だから。苦手とか言ってられないし、何があってもその場で倒すね、うん」
「…………そっかあ」
なんでだろう。佐山さんがどこか、儚げに微笑んでいる。痛ましいものを見る目というか、なんというか。木下さんや遠野さんがどこか気遣わしげに、彼女を見ているし。
え? 俺なに、選択肢ミスった? どう答えればよかったの、もしかして虫好きだった? だったらゴメン、流石にその部分では相容れられないわ。
若干気になる佐山さんはさておき、弁当を食べる。今日も今日とてご飯が美味しい。幸せ。
あ、ちなみに今日はダンジョン探査を行うつもりはない。だけど香苗さんには会う。昨日の逢坂さんの件、それにリッチが居座っているとかいう亡命ダンジョンについて、相談するつもりだからだ。
さすがにああいう事情があるなら、直接の取次はしなくとも意見を聞くくらいはするよ、うん。
ただ、ないとは思うけど香苗さんが、同情から逢坂さんの願いを聞き入れようとしたなら、それは止めるかな。危険すぎるし。
戦闘能力のない、サポーターとしても実力不足が明白なF級探査者を御守りしながら戦えるほど、リッチは雑魚ではないはずだ。
下手したら本当に香苗さんが望月さんの二の舞になるかもしれないんだ。普通に止めるよ、そんなもん。
「山形くん、今日は暇? 探査者の仕事、あるの?」
「いや、ないけど別に用事があるね。探査絡みで、ちょっと、厄介な話なんだ。相談したくて」
「そっか……ねえ。土日のどちらか、暇?」
「え……あーまあ、そうだね。日曜の昼からは暇、かな」
唐突な佐山さんからの質問に答えていく。
土日も振るってダンジョン探査な俺ちゃんだけど、さすがに日曜午後以降はプライベートタイムにしている。翌日からはまた学校だからね。心身ともにリフレッシュしなきゃ。
「ちょっとさ、遊ばない? たまには休日にのんびりしようよ」
「良いね、それ。分かった、予定入れとく」
だから、それを聞いた佐山さんからの日曜午後の打診も快く受ける。ダンジョン探査も大事だけど、俺にとって友人付き合いは勝るとも劣らないほどに大事なんだから。
これは嬉しいお誘いだ。
と、昼休みの終わりも近付いてきた。みんなそそくさと、自分の席に戻って次の準備──今日は古文だ──を進めていく。
とにかく今日は放課後は、香苗さんに話を持っていくだけの簡単な話だ。いわゆるオフってやつだな、仕事人っぽいぞ、俺。
日曜午後、佐山さんたちと遊び、と。
スケジュール帳にメモっていく。その時を思い浮かべて、俺は、テンションが高まるのを自覚していた。