攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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やることなすことすべてが"ズレ"ている!

「言いたいことは、それだけか」

 

 刃のように鋭く、そして氷のように冷たい声音。香苗さんの幸せを勝手に決めつけるのはよくないと言った俺へ、青樹さんはいよいよ敵意を剥き出しにしていた。

 怒気が憎悪に、そして殺意に変わっていくのを肌で感じる。とはいえ青樹さんだって探査者だ、下手な真似はするまい……と、思っていたんだけれど。

 

 どうやらこの人、俺の想像以上にヤバい人みたいだ。腰に手を回して、刃渡り10cmくらいのナイフを取り出してきた。

 マジかよ~。いろんな意味で凍りつく俺に、彼女は刃先を向けてくる。

 

「もう一度言うぞ。大人しく香苗にかけた、なんらかのスキルによる洗脳を解け。命までは取らんが……応じない場合はそれ相応の目には遭わせる」

「っ……探査者ですよ、あなたは。モンスター相手じゃないのに、人間相手なのに暴力を振るうんですか」

「WSOだの全探組だのが定めた、劣等種どもに阿るばかりの悪法など構うものか。よく聞いておけ小僧。これより後の世、世界の仕組みは変わる」

「……なんですって?」

 

 年上で、香苗さんの元師匠ということもあり穏便に済ませられたらとは考えていたが。今の言葉の数々は、聞き捨てならない。

 平然とWSOや全探組を蔑ろにし、非探査者を劣等種などと嘯いてしまえることもそうだけど。世界の仕組みが変わるというのはあまりにも意味深、かつ不穏だ。

 

 嫌な予感が、いよいよ形になって膨らんでいく感覚を覚える。

 俺はもはや、モンスター以上の敵と相対する気構えで青樹さんへと問いを投げた。

 

「どういう意味ですか、それは。仕組みが変わるなんて、あなたは一体何を知っているんです」

「一々聞けば答えが返ってくると思っているのか世間知らずが。その頭の悪さ、やはり貴様は香苗には」

「……すみませんけど、《答えろ》」

「──!?」

 

 はぐらかすのか、話す価値がないと思っているのか。おそらく後者だな。なおもくだらないことしか言わない彼女を、極めて軽くだけど威圧して牽制する。

 スキルや称号によるものではない。どちらかといえば高レベルゆえの力の差と、やはりコマンドプロンプトとしての存在の大きさを利用した、威嚇のようなものだな。

 

 あまり、人に向けて使うべきものではないと百も承知だったが……こういう手合いには手っ取り早いというのは残念だ。

 実際、青樹さんは気勢を削がれ即座に後方、つまり境内のほうに退いて俺と距離を取ったからね。

 一気に警戒心をこちらに向けてくる。さすがにここまでやれば俺が、少なくとも彼女が思うほどに舐めてかかるべきモノでもないと悟ったか。

 

「貴様……何者だ。何をした、今のは!!」

「こちらの質問に答えてください、青樹さん。あなたは、いや──あなた"達"は、一体何をしようとしているんですか。この時代に!」

「山形公平ッ!!」

 

 ここまで反応する以上、何かしら企みはあると見て。そうなると彼女一人での画策ではないだろうと思いカマかけをしてみたが……ものの見事に図星だったようだ。ナイフを両手でしっかりと握り、俺へと突っ込んでくる青樹さん。

 殺意はないにしろ濃厚な敵意。完全に任侠映画の、刺し違えてでもって感じの突撃だ。その様子に、相当な何かが水面下で動いていることが見て取れる。

 

 モンスターを倒すべき探査者が、一体こんなところで何をしているのか。嘆息とともに俺は動いた。

 

「遅い」

「ッ!?」

 

 瞬時に距離を詰め、ナイフを握る彼女の手に手刀を放つ。

 直撃──だが手応えがない。まるで幽霊のようにすり抜けて、俺のチョップは空を切った。

 思わずつぶやく。

 

「……なんだ?」

「っ、喰らえ香苗の仇ッ!!」

 

 ほんの数瞬の困惑を隙と見て、なおナイフを突き出してくる青樹さん。淀みない動作にああこの人、こないだ見た香苗さんの暗殺術の本家本元なんだなと確信する。

 動きを止め損ねたのは予想外だったけど問題はない。どうも"ズレている"みたいだが、それならそれでこちらが合わせればいいだけだ。

 

「《青樹佐智はここにいる。だから俺は触ることができる》……っと」

「────ハ?」

「勝手に香苗さんを殺しちゃ駄目ですよ、仇って……」

 

 呆れながらもつぶやく俺の、両手は今度こそ完全に青樹さんの両手を掴んでいる。病みきった目を見開いて、愕然とする青樹さん。

 際どいタイミングとはいえ、実のところそこまで焦りもないけど……この人、何がどうしてこんな体質になっているんだ? スキルか?

 

 内心で疑問に吹き上がりつつも、俺は両手に掴む青樹さんの腕を握り締めた。へし折る気はないが相応の力を込めている。

 当然、地に落ちるナイフ。カランと音が立つにも増して、腕を掴まれた青樹さんの叫びが境内に響いた。

 

「グ、ァァアアアッ!?」

「あなたがなぜ、そこまでのことになってしまったのかは後で考えますけどね。失礼を承知でちょっとだけ、言わせてほしいんですよ」

 

 時代を変えようというなんらかの陰謀が、水面下で進行している。そしてそこに、青樹さんは与していて。

 香苗さんを、彼女をも巻き込もうとしている。

 そのことに心底からやるせなさと哀しさ、そして怒りを覚えて俺は、青樹さんへと告げた。

 

「……愛しい弟子をこんなことに誘うのが、あなたの言う幸せなんですか?」

「何っ!?」

「本当に香苗さんを想うなら……先にやることがあるでしょう!」

 

 あの人は、今でもなんだかんだとあなたを慕っているんだぞ!

 込み上げる激情を抑えながらも、俺は青樹さんを思いきり押し飛ばした。




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