攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
仔細は知れないけど、どうもろくでもなさそうな道に香苗さんを引きずり込もうというその魂胆に、俺は叱咤とともに青樹さんを突き飛ばした。
地面に転がるナイフはそのまま、大きく背後に下がる彼女の姿を見据えて言う。
「時代を変えるだのなんだの言う前に、大切と言うなら弟子とちゃんと向き合って話すべきでしょう! 何をやっているんですか、青樹佐智!」
「ガキが、何様のつもりで説教を垂れる……!」
「ガキですけどね、今のあなたよりはものを弁えているつもりですよ。真人類優生思想だの新時代だの、そんなのはあなた方だけで勝手に言ってればいいけど。香苗さんを無理矢理に巻き込もうとしないでくださいよ!」
何よりも、俺にはそこが許せない。愛していると言うくせに、どうして香苗さんを物や駒のように扱おうとするんだ。
歩み寄りも、話し合いも相互理解もやろうと思えばできるのに。それを拒否して彼女の幸せはこうだと決めつけ、おそらくはよからぬ行為に手を染めさせようとしている。そんなことの、何が香苗さんの幸せだと言うんだ。
「あなたが何をどう思おうと結構ですけど、まずは今の香苗さんと話をしてみてください……あなた自身でたしかめればいい」
「ほざくな、貴様が!」
「彼女が本当に、俺に洗脳とやらをされているのか。無理矢理あの、なんかよくわからない伝道活動を行わされているのか! あなたの見たまま聞いたまま、感じたままに確認するといい!」
そして確信するといい、あのよくわからない伝道行為が今の香苗さんのそのまま素の姿だと!
……それはそれでさらに変な方向に拗らせそうな気はしなくもないけど。少なくとも今のまま、香苗さんに謎すぎるイメージを押しつけている状態よりは絶対にマシだ。とにかく今の香苗さんを実感として知ること、それが青樹さんには必要だと思う。
けれど。
青樹さんは歯を剝き出しにして、まるで狂犬のように俺にひたすら、食ってかかるばかりだ。
「わざわざ話をするまでもあるものか! 彩雲三稜鏡を渡した際にあの子を見て、すでに確信している!!」
「何を……」
「あの子は私がいないと駄目になる! 現になっている! かわいそうに香苗は、弱りきった心を貴様などにつけ込まれてェェェッ!!」
「っ……弱り、きった?」
予想だにしない言葉に目を瞠る。香苗さんが弱りきっていた?
出会った時から今の今まで、少なくとも俺の前と例のチャンネルの動画内ではいつも同じ調子で狂信者やってる彼女が、弱りきっていたっていうのか。そしてそこに俺がつけ込んだと、青樹さんはそう思い込んでいる?
いまいちピンとこない話に、困惑するしかない俺。
青樹さんはさらに、怒りと憎悪をぶつけてくる。
「人として恥ずかしくないのか貴様は! 人の弱みにつけ込んで、まやかしの救世思想など吹き込んで!!」
「……よくわかりませんけど。関口くんに真人類優生思想を吹き込んだあなたが、それを言いますか」
「救いの手を伸ばした、それだけだ! くだらないしがらみに迷いを抱いていた若者に、私が正しい道を示した! なんだ貴様、彼にまで魔の手を伸ばしたのかァァァ!?」
「あなたは……!」
取りつく島もない、いや、そもそも会話が成立していない。凝り固まった思想を、俺への憤怒と憎しみで固めた青樹さんの表情は、もはや悪鬼羅刹とまで表現してしまえるほどに恐ろしい。
なんで、こんな風になってしまえる……この人は一体、何があってここまで至ってしまったのか。抱くべきでないかもしれないが、憐憫がどうしても胸に湧き起こる。
俺は、やるせなさに唇を噛み締めながらもつぶやいた。
「……何度でも言います。香苗さんは、香苗さんで今を謳歌している」
「黙れ悪魔が!」
「あなたが香苗さんを愛する気持ちに嘘偽りがないとしても。それを理由に今のあの人のあり方を、歪めてはいけない」
「貴様が歪めているのだ、香苗を!!」
叫ぶ青樹さんが、悲痛な姿に見えてくる。
この人は。この人もまた、寄る辺なく泣き叫ぶ一つの命のように俺には見えてきた。香苗さんを愛しながらも、歪んだ形で手元に置くことを選ぶしかできない。
何があったのかそれほどまでに疲れ果てた、そんな命のように感じられる。
愛する弟子に傍にいてほしいと、ただ泣き叫ぶように吼え続ける、そんな青樹さんに、俺はたしかな哀切を抱いた。
邪悪かもしれないし、外道かもしれない──たとえそんな人だったとしても、それでも。
「──俺は言い続けますよ。あなたが立ち止まり、香苗さんと本気で向かい合う気になるまで。彼女と話し合う気になったなら、いつだって場を設けます」
「なんのつもりだ……! 私まで洗脳しようという気か!?」
「あなたを放っておきたくない。あなたに、どうか冷静に自分を見つめ直してほしい……他ならぬ香苗さんも、きっとそれを望んでいる」
それでも。俺はこの人にだってできる限りのことをしたいと思う。思想や考え方を変えろ、とまではなかなか言えないけど……せめて香苗さんに、自分勝手な幸せを押しつけるようなことはしないでもらえるように。
道を違えたこの師弟が、せめてこれ以上いがみ合うことのないように。できる限り、力になりたいと強く願う。
「き、貴様。その光は……!?」
知らず、俺の身体が発光していく。心が震えたことで、例のシャイニング効果が発動したのか。
息を呑む青樹さんに、光る俺はどうか分かってくださいと願いながらも、頼み込んだ。
「何度だって、香苗さんと話し合いましょうよ。そして彼女の想いと、あなたの想いを通わせて……そこからどうするべきか考えたって遅くない」
「な、何を」
「互いに互いを理解する、そのための話し合いです。おねがいします……どうか、どうか今の香苗さんをもっと、知ろうとしてあげてほしいんです」
精神を落ち着かせる効果をも持つこの発光は、今、興奮しきっている青樹さんの心をも穏やかにしてくれるかもしれない。
一縷の望みをかけて俺は、改めて彼女に提案した。
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