攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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癖になってんだ、古巣を出て亡命するの

 佐山さんたちとの遊びを控えた週末。俺は香苗さんと揃って、組合本部の広瀬さんに呼び出しを受けて執務室にいた。

 すわ何かやらかしたか!? と戦々恐々──香苗さんも心当たりはなかったものの落ち着き払った様子でさすがだった──な俺だったものの、いつになく深刻な様子の広瀬さんに、ああマジで何か起きてるなと、逆に冷静になりつつあるのが今だった。

 

「急な呼び出しにも関わらずお越しいただき、ありがとうございますお二人共」

「いえ……」

「今のタイミングでの呼び出しというのは、例のリッチのことですね」

 

 単刀直入に香苗さんが問う。その表情は広瀬さん同様、かなりの事態を匂わせる深刻さだ。

 例のリッチ──逢坂さんの師匠、望月さんを殺したとされるやつか。亡命先のE級ダンジョンは無事踏破されたけど、やつの姿は確認されなかったと耳にしている。さて。

 広瀬さんは頷き、香苗さんに答えた。

 

「いかにもそうなります。あのダンジョンにて、いるはずのリッチがいなかった。そのことにつき調査をしていたのですが……恐るべきことが判明しました」

 

 恐るべきこと……?

 海千山千だろう広瀬さんをして戦慄せしめることが、リッチを中心に起きているというのか。一体、なんだ?

 訝しむ俺に、まさしく驚愕の、そして恐ろしい事実が明るみにされた。

 

「2時間前。アンデッド系モンスターが群れを成し、例のダンジョンから少し離れたところにある、湖沿いにて発生しているダンジョンに入っていったと市民から通報があったのです。状況から推測するに、恐らく件のリッチかと」

「……亡命を、繰り返した!? そんなことあるんですか!?」

「味をしめましたね、そのリッチ」

 

 聞いたこともない話だ。モンスターがダンジョンを離れ、別のダンジョンに移動する亡命こそないこともない話だけど、それを二度三度と繰り返すなんて。

 俺の隣で、香苗さんが苦々しく呻いた。

 

「最初の亡命で、自分が河岸を変えられることを学んだ。そして、逃げ延びた先で自分が頂点となり、アンデッド勢力も築き上げた。狡い個体ならば、再度の亡命くらいはするのでしょう」

「何を目的に、そんな頻繁にダンジョンを移すんでしょうか……」

「そこは分かりませんね。徐々に勢力を強めていって、いずれは大軍勢を伴って人間社会に攻め入る可能性すら考えられます」

「モンスターによる、能動的なスタンピード……!」

 

 戦慄が走る。俺も香苗さんも広瀬さんも、尋常でない事態に危機感を一気に掻き立てられたのだ。

 しかも、問題はそれだけではなかった。

 

「加えてまずいことに、ですが。やつが再亡命したダンジョンは、またしてもE級でした……それもちょうど、探査者が5名潜っている最中だったことが確認されています」

「……! それは、まずいですね」

「ダンジョンに潜る最中、突然入り口からB級モンスターがアンデッドを従えて襲ってきますか……」

 

 普通に攻略していたその探査者たちにとっては、まさしく悪夢のような話だろう。自分たちが入ってきた、そして戻っていく出入り口から、遥か格上の化物が軍勢を率いてやって来るなど。

 極めて緊急度の高い現実を前に、俺と香苗さんに向けて広瀬さんは告げた。

 

「現在組合は総出で当該ダンジョンを封鎖。上級探査者に再度の依頼を行っていますが、さすがに先日の今です。寝首を掻かれた形になっていて、集まりも準備も悪い」

「……読めてきました。私と公平くんを呼んだのはそこですね。先遣として潜り、孤立している探査者パーティに合流しろと」

「お二人は御堂さんはもちろん、山形さんも既にA級上位相当の実力があると判断しています。そして山形さんはパーティを組まずに事実上、ソロでのダンジョン探査を得意とする極めて特殊なタイプの探査者。機動力で言えば他の追随を許しません」

 

 つまるところ、先んじてダンジョンに潜り、取り残された探査者を探し出し。生きているなら保護して護衛、死んでいるなら帰還してその旨を伝えると。そういう組合からの依頼だな、これは。

 

 ──お誂え向きだ。広瀬さんの言うように俺は基本的にソロゆえ、どこに行くにも何をするにも基本、自分の自由意志だ。機動力や対応力の面ではなるほど、パーティを組む探査者とは比較にならない。

 それにこの間得た、称号の効果によりモンスター、探査者の位置を把握できるようになっているのも重要だ。迷いなく、孤立している探査者たちのところへと向かえるし、リッチの現状の居場所も掴める。

 

 打って付けだ。確信して俺は即答した。

 

「分かりました。急ぎダンジョンへと向かいます」

「やってくださいますか!」

「……公平くん、大丈夫ですか? 無理強いではないのです、拒否権はあります」

 

 喜色満面の広瀬さんと裏腹に、香苗さんはどこか心配そうだ。そりゃあ、こんなところに呼び出されて本部長から直々の依頼だ。嫌でも断れないから嫌々、受けている可能性を疑われるよなあ。

 けれど。俺は香苗さんに笑いかけた。

 

「今、俺にできることがあって、そのことで救えるかもしれない人がいる。だったらやりますよ。俺は」

「公平くん……」

「探査者の仕事はダンジョンから、モンスターから人を護ること。だったら、追い詰められている探査者だって護ります」

 

 そう答えて、俺は立ち上がった。

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